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「あら、善太朗君のお友達? 三人も」
放課後、家の前についた時、ちょうど向かいの豊川さんは庭に出ていた。
「はい。ちょっとテスト前なんで、みんなで集まって勉強会でもしようかと」
「そう。頑張ってね」
豊川さんはそう言い残すと、すたすたと自分の家へと入って行った。はあ。アメノヒがいたからあのときみたいに冷やかされるんじゃないかと思った。運良く今回は免れたけども、この人はそれで面白がる節があるからなあ。気をつけないと。
「あの人知り合い?」
「うん。昔からご近所付き合いがあるんだ」
「ふうん」
鍵を開けている僕に、篠田はそんな事を問いかけて、答えを聞くと何やら考え込んでしまった。
みんなをリビングへ通し、僕はキッチンへと取って返した。僕がお招きしたんだし、飲み物くらいはお出ししないと。
と、後ろから靴下をはいた静かな足音がついて来た。てとてと、と早歩きで近付いて来て、僕の隣に並ぶ。
アメノヒだった。
「何かお出しするんですよね。お手伝いします」
「座ってても良かったのに」
「いいえ、私もこの家に住んでいる身ですから」
そう言って、アメノヒはにこにこと太陽みたいな笑顔を見せた。それも一瞬で、次の瞬間にはグレーのプリーツスカートを翻して、もう僕の前を歩いている。
キッチンはリビングからも見える。アメノヒと一緒に歩くのもそんなに長くは無かった。
「ジュースとかの買い置きがあれば良かったんだけどなあ」
あいにくみんなにお出し出来る飲み物はそれくらいしか無かった。牛乳とか飲まないでしょ、こんな時は。育ち盛りならともかく。
あ、でも、何となくホクトとか飲んでそう。こう、お風呂上がりにぐいっと。牛乳パックに口つけて……。
あれ。
「なんで二本も牛乳パック開いてるの?」
「あ、善太朗さんには言ってませんでしたっけ? ホクトが『自分の牛乳はぐびぐび行きたい』と言うので、置かせて頂いてるんです」
一本取り出してみると、マジックペンで「ホクト用」と殴り書きしてある。
「ホクトはお風呂上がりの牛乳が大好きみたいで……」
この二人はこの前まで、僕の両親が家にいない時間にこっそりとお風呂に入っていたのだ。その時に風呂上がりの牛乳の良さに気付いちゃったんだろうなあ。解るよ、僕、それめちゃくちゃ解る。




