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ふと、アメノヒの鉛筆が止まった。数秒間「うーん」と悩んでから、また鉛筆を走らせ始める。しかし、またアメノヒの鉛筆は止まってしまった。今度はなかなか動かない。
……、ああ、その問題ね……。
アメノヒがくるりとこちらを振り向く。
「善太朗さん」
「あ、僕もそれ解んない」
アメノヒは「むう」とふくれると、ぷい、と顔を机へ戻した。ごめんなさい、僕も数学は得意って訳じゃないんです。
と言うか、アメノヒのやってる問題集も、それなりにレベルの高いヤツな気がするんですけど。
「まあ、テストにはそんな難しい問題出ないし、あんまり焦る事も無いんじゃないのかなあ」
「いいえ。私は定期テストのために勉強してるわけじゃないですよ」
ふうん。初耳だ。
「じゃあ、何でそんなに焦ってるの?」
「善太朗さんは卒業したら、就職されるんですか?」
唐突だなあ。
「ううん。大学でやりたい事があるんだ。アメノヒは?」
僕の言葉に、アメノヒは数秒考え込むと、二つの拳を胸の前に持って来た。
「ええとですね……、私も、出来れば、進学を…………したいのです」
こうして、少しでも具体的な人生設計をアメノヒの口から聞くと、どうも不思議な感じがした。なんでだろう。これだけ賢くて、頑張り屋な所だってあるのに。
狐の皆さんは勉強をしないみたいだ。つまり、狐の皆さんの大半は、何もしなければ学校へ来る事も無いのだ。
だから、不思議なんだろうか? そんな理由じゃない気がする。
でも、それを訊き返すのは、いくらなんでも失礼に思えた。
「なるほどなあ。で、早い所追いつく必要があったんだ」
「はい。それに、解らなかった事が解るのって、楽しいんです」
無邪気なアメノヒの笑顔をみて、僕はふとある事を思い立った。
「アメノヒ、みんなで勉強しようか」




