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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第三章 お狐様と学校
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13

 一週間経つと、噂と言うのはよく解らない所まで広がっているものだ。

「お前、もしかして天野さんの妹ともお知り合いなのか?」

 この人だれだっけ、と言うくらいしか知らない男子に昼休みの廊下でそう訊かれたとき、僕は噂って怖いなあ、と思った。

 僕の返事を待たずに、見るからに野球部、と言う彼は勝手に「天野さんの妹」、つまりホクトについて語り始めた。

「いやあ、お姉さんの方はほんわかしてて、物腰も柔らかい割にしっかり者、って感じだけど、妹の方はまた違った良さがあるよな。ああ言うの、クールビューティーって言うのか?」

 僕に訊かれましても……。と言うか、この人僕の返事聞く気ないな。

「後輩が色々話し掛けたらしいんだけどな、何を訊いてもあんまり自分の事については喋らないらしくてさ。お前から色々北都さんについて訊きたいんだけどさ……」

 一瞬、僕の悪戯心がむくりと目を覚ました。

 ホクトに幻想を抱かせて、バッキバキに心を折られるのも良いかもしれない。ホクトに興味があるのは丸わかりなのに本人と話してみようともしないなんて、横着も良い所じゃないか。

 と思ったけど、僕が目の前の彼に天誅を下していい理由も無いわけで。

「まあ、本人と話してみれば色々解ると思うよ。それじゃ」

 僕はそう言うと、彼の前からそそくさと逃げ出した。

 あの二人は姉妹と偽ってこの高校に編入したんだけど、あれだけ似てない姉妹も珍しいよね。別にあの二人は姉妹じゃないけど。

 ただ、二人とも驚いてひっくり返ってしまうくらいの美人だから、何となく「姉妹だ」と言う設定が真実味を帯びちゃってるんじゃないか、と思っている。

 それにしても、一週間の間に

「天野さん(姉も妹も)を紹介してくれ」

 と言う申し出は後を絶たなかった。なんなの? みんなそんなにアメノヒが好きなの? その気持ちはいたい程解るけどね! 

 ホクトも見た目ばっかりは良いから、勘違いする人が続出してるんだと思う。早い所誰か玉砕しないかなあ。ホクトを紹介してくれ、と言う人は、僕に断られたのを喜ぶべきなんだよなあ。間違っても僕を恨んじゃいけない。

 なんて事をぐずぐずと考えながら、自分の教室へと入る。

 あれからずっと僕の隣の席に座っているアメノヒは、カリカリと忙しく鉛筆を鳴らしていた。上からそっと覗き込むと、数学の問題集みたいだ。

「頑張ってるね」

「はい。はやく皆さんに追いつかないといけないので……」

 狐の皆さんはグラフの通過範囲とか知らなくても、何の問題も無いんだろうなあ。でも、アメノヒはそれじゃまずいと思ったみたいだ。転校してからこのかた、毎日きっちりと勉強の時間を取っている。


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