表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第三章 お狐様と学校
46/109

12

 もしアメノヒの望みが叶えられたとして、僕は本当にそれを喜べるんだろうか? 僕にはその自信がない。全くないのだ。

「善太朗さん」

 とんとん、と肩を叩かれた。ふと後ろを振り返ると、いつの間にかアメノヒがすぐ後ろに立っていた。ふんわりした長めのスカートにゆったりしたTシャツを着て、顎をくいっと上げて、僕を見上げている。

「どうしたんですか?」

「えっ……? ど、どうもしてないけど」

 慌ててスポンジをぐるぐると動かす。ざざっと水で流していっちょ上がりぃっ!

「そうですか……?」

 アメノヒはそう言うと、背伸びをして僕の額へ小さな手を当てた。あ、思ったより冷たくて、熱とか無くても気持ちいい。

「大丈夫だよ。熱とかないから」

「そうですか。なら、私もお手伝いしますよ」

 何が「なら」なのかよく解らなかったけど、いつの間にかアメノヒは狭いシンクの僕の隣に並び、一枚お皿を取った。

「私は流しますから、どんどんゴシゴシやっちゃってください」

「うん」

 どうもさっきの考え事が影を引きずっている。肩が触れ合いそうなくらい近くにアメノヒがいるのに、どうも僕の声は沈んでいた。

 嬉しい状況には変わりないけどね。

 隣に目を移せば、アメノヒは鼻歌なんか歌いながら石けんの泡を流している。

「なんか、不思議な感じですね」

「何が?」

「この時間がです」

 少し解り辛いなあ。僕はもう一度訊き返してしまった。

「お皿洗いの時間が?」

「ええっと、そう言うわけじゃないんですけど」

「……?」

「とにかく、善太朗さんと私が、こうやって一緒にいる事がです!」

 アメノヒはぎゅっと固く目を瞑り、小さく身をすくめていた。しばらくそのまま見ていると、何事も無かった様にアメノヒは皿洗いを再開した。

 何か、凄く大事な事を言われた気がする。

 考えていても何も解らない気がしたので、僕も残りの皿をゴシゴシやり始めた。何も考えないで一心にゴシゴシやっていたから、溜まっていたお皿達はどんどん減って行った。

 ほいほいと皿を送って行くと、ついに最後の一枚を洗い終えてしまった。アメノヒに最後の一枚を手渡すと、アメノヒはそのお皿をすぐには流さなかった。

 ふっ、と僕を見上げるアメノヒ。

「善太朗さんのこと、初めてバカだと思いました」

 そう言って、アメノヒは満面の笑みで笑うのだった。

 ……まあ、いいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ