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「放課後、ヤツを血祭りに上げろ」
「何で!?」
去ってなかった! 僕は手近な男子(笠森くんって言う人だ)を捕まえて、興奮冷めやらぬ声で尋ねた。
笠間君は「やれやれ」とでも言い足そうに肩をすくめると、懇々と僕を教え諭す様に話し始めた。
「だって伏見、考えても見ろ。
目の覚める様な美少女が幼馴染み。しかし、お互いに淡い恋心を抱いたまま、離ればなれになってしまう。幼い日の想い出だけは鮮やかな色とともに、はっきりと心に焼き付いているんだ。そして時を経るごとに、想い出は焦るどころか、鮮やかさを増して行くんだ……。
そして、二人とも大きくなって、再開を果たす。男の子の方は声変わりも終わり、女の子は小さい頃の魅力に加えて別の輝きまで放つ様になってるんだ……。
これが羨ましく無い訳ないだろ」
「……、聞き入っちゃったじゃないか!」
うっかり「羨ましい」とか言いかけたよ! と言うか、いつの間にアメノヒが幼馴染みだって事になってるの?! 一言もそんな事言ってないんだけど。
「とりあえず、僕とアメノヒはそんな関係じゃないし」
そんな関係になりたいなあ、と言うぼうっとした願いも無い事は無いけど、そうなる具体的な計画はありません。笠森くんは僕の言葉を聞いて、勢い込んでアメノヒに問いかけた。
「本当なの? 天野さん」
「あ……、でも、善太朗さんには色々良くして頂いてます」
アメノヒがおずおずと答えた。……ん? この返事ってまずくね?
「ギルティか?」
「ギルティだな」
クラスの男子達が裁きを下そうとしている。え、何? みんなギルティな感じ? 親伏見派はいない感じなのかあ。
ならば逃げるのみ。
「笠森君、君にはがっかりだ」
僕はそう言い放つと、すたすたと教室を後にした。いや、後にしようとした。が。
「伏見。お前が天野さんとの関係を洗いざらい吐くまで、この教室からは出さん」
「……本当に?」
どうしたものかね、とアメノヒに視線を送ると、アメノヒは僕にだけ解る様に、ぎゅっと両の拳を握ってみせた。
頑張ろう、って事か。
そう言えば、篠田に僕達の関係を話した事があったなあ。もちろん、アメノヒが狐だと言う事を隠すための嘘だったけど。
あれを話そう。
「いやあさ、大した話じゃないよ……」




