7
昼休み、アメノヒの席の周りには人だかりが出来ていた。
僕の席の横の通路に新しく机を置いて、三人横並びの形だ。アメノヒがこの席を選んだとき、アメノヒと逆側の席に座っている中島さんは僕をまじまじと見て、
「君のどこが良かったんだろうねえ?」
と言っていた。
うーん、僕が良かったと言うより、馴れてる人が近くにいる方が良かったんだろうなあ、そう考えると、ちょっと寂しい気もするけど、仕方ないよね。
人だかりの皆さんはアメノヒに質問を投げかけ続けている。
「天野さん、転校の前はどこに住んでたの?」
「あ、色んな所を転々としてまして……。この前までは茨城県の真ん中あたりにいました」
へえ、そうなんだ。初めて聞いたなあ、と思いながら弁当をぱくつく。
ちなみに、母さんは昨日のうちにアメノヒとホクト用の弁当箱を買い、今朝は鼻歌を歌いながらおかずを詰めていました。僕が言うのもなんだけど、あの人適応能力高すぎ。
だから、今、アメノヒの制カバンには可愛いお弁当が入ってるはずなのだ。でも、律儀なこの人の事だから、人のお話を聞きながら片手間に食べるのは、話をする人にも母さんにも失礼だ、とか考えてるんだろうなあ。
と、僕がまたアメノヒ可愛いなあ、と思っていると……。
「天野さん、なんで伏見君の隣選んだの?」
「あ、それ、俺も聞きたい!」
「たしかに」「俺も」「私も」「怪しいわー」
急に盛り上がるオーディエンス達。何君たち、週刊誌のノリは止めて頂きたいんだけど! アメノヒ困っちゃってるよ。僕の袖をきゅっと摘んで、僕の方へじりじりと身を寄せて来ている。ふとアメノヒの横顔へ目をやると、困り顔のアメノヒと目が合った。
困ってるアメノヒも可愛いや。
「あ……、え……、その……」
口籠るアメノヒ。
「えー、伏見君とそんな関係なの?!」
「伏見ぃ! お前いつの間にぃ! いつの間にぃぃぃいいい!」
男子どもが血涙を流して地団駄を踏んでいる。
「ち、違うんです……。その……」
アメノヒの小さな声は黄色い嬌声と地団駄に隠れてしまっている。
仕方ないなあ。僕は弁当の箸をかちゃりと置くと、出せるだけの声を張り上げた。
「アメノ……比奈は昔僕の家の近くに住んでた事があってね、転校の前からお互い知ってるだ」
「昔」ってもう三百年くらい前だけどね。しかし、みんな納得してくれたのか、
「なるほどそうか」
男子どもが一斉に頷く。あれ、これは一難去ったのだろうか?




