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「で、その子は、不思議な事にお前を助けてからすぐにその場からいなくなってしまった。可愛い子にミステリアスさが加わるなんて、最高じゃないか!」
おお、だんだん面倒くさくなってきたぞ。と、言うか、僕達の周りだけ、気温が何度か上がってそう。
そもそも、「ミステリアス」ってだけに抑えておけば良いのに、何で妖怪ってことにしたがるのかなあ。
「もっと言えばだな、たとえ中学時代からの仲だろうと、お前ばっかり可愛い女の子とお知り合いになるのは、妬ましい!」
「はっきり言い切るなあ」
「だから出来れば、狐に化かされてるか、雪女にターゲットにされてるかにして欲しい!」
こいつ、性根がねじ曲がってる……。雪女のターゲットにされたら、僕死んじゃう。
「とにかくだ! お前、その子を泣かせたら、俺が許さないからな!」
「ちょっと待てよ……」
どこから突っ込んでいいか全く解らないんだけど。まずあれかな。「狐に化かされた」って所からかな?
「まだ僕は狐に化かされたとも、雪女に狙われたとも決まったわけじゃないぞ」
「まあ……、そうだな」
急に現実を突きつけられて、しゅんとなる篠田。
しかしやっぱり、あの子の頭に付いていた、あの耳が気になる。耳が付いていた事を篠田は知らない。知らないから、今は簡単に黙ってくれたのだ。
僕も口では「狐に化かされたわけないだろ」とは言ってるけど、正直もうそれも強がりみたいな物だ。
だれか、あれが狐じゃないと証明出来る人はいないのか?
じゃないと僕は、なんだか痛々しい人になっちゃうよ!
「僕は彼女にお礼を言いたいだけだからさ。相手がなんだろうと気にはしないんだけど」
「そう言えば、そんな事言ってたな」
すっかり忘れてやがったな、篠田め。
「お前も律義な奴だよなあ」
篠田は感心した様にそう言った。と、ちょうど斜め後ろから、なじみのある女子生徒の声が飛んで来た。
「ちょっと巧一! あんた主将なんだから、あんたが来ないと部活が始まらないでしょうが!」
「やべっ」
女子生徒はつかつかと僕達の前まで歩いてくると、ぐい、と篠田の腕を取り、強引に立ち上がらせてしまった。
「やあ花園さん。篠田を借りちゃって、悪いね。相談事があって」
「全然。こんなぐーたらでも、伏見くんの役に立てるんだから、泣いて喜ぶはずよ」
「おい、俺の評価低くね? なあ、恭香?」
そんな篠田の言葉を無視して、女子生徒、花園恭香さんは続ける。
「で? このぐーたらは伏見くんの相談に対して、なにか変な事は話してたかしら?」
僕の相談ない様を聞かない辺り、もう察しが付いてるんだろうな。さすが我がクラス一の才色兼備、花園さんだ! おまけにお金持ち!
「ミステリアスな可愛い女の子は最高だ、って言ってたよ」
「ばっ、お前!」
「ふうん、巧一。不満なんだ、私じゃ」
「いや、恭香さま。全くそんな事はありません」
平謝りの篠田だ。
「まあ、あれだ。その子、見つかると良いな。応援してるぜ」
と言って、篠田は椅子から勢い良く立ち上がると、そのまますたこらと逃げ出そうとする。すかさず花園さんは篠田の襟首を無言で掴み、ずりずりとぐーたらを引きずって行った。
「じゃあね、伏見くん。ちょっとこいつに仕事させなきゃ行けないから」
「ああ……、またね、花園さん」
「で、出来れば、その子を見つけたら、俺の事も、紹介しといてくれ……」
ぐでん、と力なく垂れ下がる篠田の腕を見て、僕はもう一度深い溜め息をついた。今日何度目だろう?
でも、溜め息だって尽きたくなる。ああ見えて、あの二人は彼氏彼女の関係なのだ。 花園さんの方から告白して、即座に篠田もオーケーしたらしい。
なのに、いまだに可愛い女の子と聞いて目の色変える辺り、人は変わらないものなんだなあ。花園さんだって十分可愛いのに。
とにかく、僕一人でどうにかしなきゃ行けないわけだけど




