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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第三章 お狐様と学校
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 こんな状況で父さんと差しで向かい合うとか、緊張しか感じない。相変わらず父さんは腕組みをしたまんまだし、何を考えてるのかよく解らない。

 怒ってるのかなあ。

 と、父さんが閉じていた片目をおもむろに開いた。体格のいい父さんは、そうしているだけでも迫力がある。じろり、と僕を睨め付けると、低い声を出した。

 全身が固くなるのが解った。

「おい、お前」

「……なに、父さん」

「あの人へ、ちゃんとお礼をしたか?」

「いや。どうしたってあの人は、お礼を受け取らないつもりなんだ」

「じゃあ、この家に住まわせると言うのは、お礼じゃないんだな?」

「…………うん。あの人に僕も助けられた。あの人が困ってるなら」

 父さんは僕に、最後まで言葉を言わせなかった。

「なるほどな」

「ちょっと父さん、聞いてよ」

「まあ、お礼じゃ無いって聞けただけで良いさ」

「ちょ、それ、どういう意」

「とにかく、お前が、これは礼じゃないと言ったんだ。お前の気の済む様にしろ」

 そう言ったきり、父さんはまた石像の様に目を閉じて、さっきの格好に戻ってしまった。

 お礼なら自分の力で、恩人を助けるなら、使える物は全て使えってことなのかなあ。よく腑に落ちないけど、お許しは貰えたようだ。

 僕が内心で安堵していると、同時に隣の部屋とここを繋ぐ扉が、静かに開いた。母さんが姿を見せ、後ろにアメノヒとホクトがいる。二人ともが耳を出している。心無しか、頬が上気しているみたいだ。

 母さんは真面目な表情を崩さないまま、ぽとりと短い言葉を放った。

「尻尾、あったわ」

 神経の削られる時間が、終わった。

 これが日曜の陽も昇りきった頃。


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