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こんな状況で父さんと差しで向かい合うとか、緊張しか感じない。相変わらず父さんは腕組みをしたまんまだし、何を考えてるのかよく解らない。
怒ってるのかなあ。
と、父さんが閉じていた片目をおもむろに開いた。体格のいい父さんは、そうしているだけでも迫力がある。じろり、と僕を睨め付けると、低い声を出した。
全身が固くなるのが解った。
「おい、お前」
「……なに、父さん」
「あの人へ、ちゃんとお礼をしたか?」
「いや。どうしたってあの人は、お礼を受け取らないつもりなんだ」
「じゃあ、この家に住まわせると言うのは、お礼じゃないんだな?」
「…………うん。あの人に僕も助けられた。あの人が困ってるなら」
父さんは僕に、最後まで言葉を言わせなかった。
「なるほどな」
「ちょっと父さん、聞いてよ」
「まあ、お礼じゃ無いって聞けただけで良いさ」
「ちょ、それ、どういう意」
「とにかく、お前が、これは礼じゃないと言ったんだ。お前の気の済む様にしろ」
そう言ったきり、父さんはまた石像の様に目を閉じて、さっきの格好に戻ってしまった。
お礼なら自分の力で、恩人を助けるなら、使える物は全て使えってことなのかなあ。よく腑に落ちないけど、お許しは貰えたようだ。
僕が内心で安堵していると、同時に隣の部屋とここを繋ぐ扉が、静かに開いた。母さんが姿を見せ、後ろにアメノヒとホクトがいる。二人ともが耳を出している。心無しか、頬が上気しているみたいだ。
母さんは真面目な表情を崩さないまま、ぽとりと短い言葉を放った。
「尻尾、あったわ」
神経の削られる時間が、終わった。
これが日曜の陽も昇りきった頃。




