表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第二章 お狐様と散歩
31/109

18

 と言った。

 花園さんはまた一つ長い息を吐くと、アメノヒに微笑みかけた。

「良ければ、天野さんの服を探すの、手伝わせてもらえないかしら?」

「ありがたいです。全くこう言う服には疎い物ですから。よろしくお願いしますね」

 ホクトがパクパクと口を動かしている。何か言いたいのに、言葉が出ないみたいだ。

 そうこうしてるうちにも、アメノヒと花園さんは早くも打ち解けてしまって、二人で服を見始めてしまった。

「ああ、二人とも可愛くて絵になるな」

 篠田がぽつりと呟く。同感です。

 でも、見惚れてるばかりじゃいられない。なんにも声にならないホクトをどうにかしなきゃ。

 花園さんの後にひょこひょことついて行った篠田を見送る。篠田がある程度は馴れてから、僕はとん、とホクトの肩に手を置いた。

「どうしたの? 何か言いたげだけど」

「ああ、その……な」

 珍しく歯切れの悪いホクトだ。うんうん唸ってから、

「なんてアメ様に話し掛けていいか、解らなかったのだ」

 とやっとこさ言葉に出した。うーん、こう、すぱーん! と完璧に理解出来る気持ちではないなあ。

「花園さんがいたから?」

「うーん、それも一つだとは思うが……」

 途切れ途切れの言葉の間に、ホクトはぐるぐると頭の中で言葉を探しまわっていた。どうにかして嘘ではない言葉を言おうとする。その率直さが、律儀さが、真面目さが、ホクトの信条なんじゃないかな。

「うーん、天野比奈とか北都とか、いつの間にか決まっていたからか……? いや、違うな……」

「もう良いよ」

 僕はもう一度ホクトの肩を叩いた。

「花園さんは良い人だし、ホクトもそのうちあんな感じに打ち解けることが出来るさ。ホクトの悩みがなんであっても、それを解っておいて欲しいな」

「なるほどな……、覚えておくよ」

 ホクトはそう言うと、ふっと小さく微笑んだ。

 いつも張り詰めていた表情が緩み、常に鋭かった眼光も不意に影を潜めた。薄い唇が少し動き、ホクトのきりっとした顔が、少し綻ぶ。

 ……、しばらく魅入ってしまった。

「ばっ、何見てんだ貴様!」

「いたっ!」

 バシンッ! と背中を叩かれて、僕は我に帰った。いやいやいや、ついつい魅入っちゃったんだよ。ホクトの笑顔がさ、珍しいから……かな?

 原因不明のドキドキを抱えたまま、僕は魂が抜けた様になってしまった。今度は僕の黙る番だ。

「とにかくっ、早くアメ様の所に行くぞ!」

「……ああ、うん」

 アメノヒの姿は、もう幾重もの洋服たちの向こうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ