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と言った。
花園さんはまた一つ長い息を吐くと、アメノヒに微笑みかけた。
「良ければ、天野さんの服を探すの、手伝わせてもらえないかしら?」
「ありがたいです。全くこう言う服には疎い物ですから。よろしくお願いしますね」
ホクトがパクパクと口を動かしている。何か言いたいのに、言葉が出ないみたいだ。
そうこうしてるうちにも、アメノヒと花園さんは早くも打ち解けてしまって、二人で服を見始めてしまった。
「ああ、二人とも可愛くて絵になるな」
篠田がぽつりと呟く。同感です。
でも、見惚れてるばかりじゃいられない。なんにも声にならないホクトをどうにかしなきゃ。
花園さんの後にひょこひょことついて行った篠田を見送る。篠田がある程度は馴れてから、僕はとん、とホクトの肩に手を置いた。
「どうしたの? 何か言いたげだけど」
「ああ、その……な」
珍しく歯切れの悪いホクトだ。うんうん唸ってから、
「なんてアメ様に話し掛けていいか、解らなかったのだ」
とやっとこさ言葉に出した。うーん、こう、すぱーん! と完璧に理解出来る気持ちではないなあ。
「花園さんがいたから?」
「うーん、それも一つだとは思うが……」
途切れ途切れの言葉の間に、ホクトはぐるぐると頭の中で言葉を探しまわっていた。どうにかして嘘ではない言葉を言おうとする。その率直さが、律儀さが、真面目さが、ホクトの信条なんじゃないかな。
「うーん、天野比奈とか北都とか、いつの間にか決まっていたからか……? いや、違うな……」
「もう良いよ」
僕はもう一度ホクトの肩を叩いた。
「花園さんは良い人だし、ホクトもそのうちあんな感じに打ち解けることが出来るさ。ホクトの悩みがなんであっても、それを解っておいて欲しいな」
「なるほどな……、覚えておくよ」
ホクトはそう言うと、ふっと小さく微笑んだ。
いつも張り詰めていた表情が緩み、常に鋭かった眼光も不意に影を潜めた。薄い唇が少し動き、ホクトのきりっとした顔が、少し綻ぶ。
……、しばらく魅入ってしまった。
「ばっ、何見てんだ貴様!」
「いたっ!」
バシンッ! と背中を叩かれて、僕は我に帰った。いやいやいや、ついつい魅入っちゃったんだよ。ホクトの笑顔がさ、珍しいから……かな?
原因不明のドキドキを抱えたまま、僕は魂が抜けた様になってしまった。今度は僕の黙る番だ。
「とにかくっ、早くアメ様の所に行くぞ!」
「……ああ、うん」
アメノヒの姿は、もう幾重もの洋服たちの向こうだった。




