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「彼女は…………、天野比奈って言うんだ。小さい頃からのご近所さんなんだけど、ご両親が両方とも海外に行くことになって、今うちで色々面倒を見てるんだ」
「天野比奈です。よろしくお願いします」
アメノヒは篠田に向き合い、いつか見た深々としたお辞儀をした。……巧く行ったか?
「そうかあ。そうならそうと早く言ってくれりゃ良かったのに!」
篠田はにかっ、と笑うと、バシバシと僕の背中を叩いた。痛い痛いいたっ、おほん、ごほんっ、おえええ。
隣では、アメノヒが花園さんにもお辞儀をしていた。ホクトだけが「?」と首を傾げているけど、そこはアメノヒが巧くやっていた。
「はじめまして、天野比奈と申します。私より背が高いですが、こちらは妹の天野北都と申します。両親が長期出張で家を空けておりまして、家族ぐるみのお付き合いをさせて頂いている善太朗さんの家でお世話になっています」
「ちょ、アメ様。何を言って……」
ホクト、余計なことを言うな! 僕はそう思いながら、ホクトを必死の形相で睨みつけた。アメノヒは何がなんだか、と言う感じで、一応黙り込んだ。黙ってろよ、黙ってろよ?
アメノヒが頭を下げるのを見て、ホクトもおもちゃのロボットみたいにギコギコと頭を下げた。油が切れてそう。
「そうでしたか。私は花園恭香、そこの男は篠田巧一と申します。どうぞ宜しく」
「はい。よろしくお願いします」
不承不承、と顔に書いてありそうな空気を発しながら、ホクトもお辞儀をした。
なるほどなあ。一瞬おろおろするけど、基本的にこう言うことに関しては器用なんだな、アメノヒは。
とにかく、危ない所もあったけれど、何とか無難な形で収まったわけだ……、あっ!
十二単! そんな地雷もあったよ、そう言えば!
そして、花園さんはまさに今、その地雷を踏んづけた所だった。
「いきなりで失礼なんですけど……、何でそのような服装なんですか?」
ホクトが「あちゃー」という顔をして頭を抱えた。僕も同じ気持ちです。
ほんとにさあ、この格好は可愛いとか似合ってるとか抜きにすると、物凄く怪しいだけなのだ。だから、ここに来て服を買おうとしていたのだ。
なのにね。ここに来てね。こんなことになるなんてね。
上手くいかないなあ。
しかし、アメノヒはもう焦らなかった。
「ああ、これは私の趣味です。ですが、妹と善太朗さんに『変だ』と言われた物ですから」
「……、あら、そう」
花園さんは一瞬天を、いや天井を仰ぐと、次の瞬間には普通の表情に戻っていた。
「まあ、人の趣味は色々ですからね」
「はい。私もそう思ったのですけど、確かにこの格好が周囲と違うのも確かですから」
アメノヒはそう言うと、「ふふふ」と控えめに笑って、
「こうして買い物に来た次第です」
と言った。




