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やっとのことで追いついた僕の隣で、篠田が囁く。
「あいつ、あれで面白がってるんだぜ」
「そんなことだろうと思ったよ」
Sっ気が物凄いもん、花園さん。篠田を追いつめる時だって、心の底ではうれしがってるに違いない。
でも、それでも篠田が他の女の子に靡きそうになった時に妬いたりする辺り、面白いよなあ。この二人とは長い付き合いだけど、見てて飽きない。
花園さんはさらに言葉を続けた。
「単刀直入に訊くけど、あなた達何者なの?」
「誰だ貴様?」
さっきまで、アメノヒと二人きりのせいか明るかったホクトの顔が、急に冷え込んだ。目つきももっと鋭くなり、よく研いだ刃物の様な空気を身にまとった。
アメノヒは花園さんの後ろにいる僕を見つけて、何か目で訴えようとしている。
まあ、不安に感じるのも仕方ないかな。口が避けても言えないけど、花園さんが怖いのは確かだし。
僕は火花を散らしてにらみ合っている二人を横目に、アメノヒの元へと近付いた。アメノヒは僕が近付くに連れて手招きを始め、だんだんと手の振れを大きくして行った。目が大きく見開かれて行き、もう飛び跳ねんばかりだ。
「善太朗さん、善太朗さん」
小声でアメノヒが呼びかける。
「あの方、善太朗さんのお知り合いですか?」
「うん、僕の友達だけど」
「ああ、そうですか、一応安心しました」
アメノヒは「ほうっ」と息を吐くと、胸を撫で下ろした。一つ一つの仕草が可愛いんだもんなあ。これだからアメノヒは。
「まあね、あの人怖そうに見えるけど、基本的には良い人だから」
「そうなんですか?」
「うん。今はあんな感じだけど、多分喧嘩とかにはならないはずだよ」
「ああ、そうでしたか。それはそれは……」
アメノヒは、心の底から安心した! と言う柔らかな表情を浮かべると、黙ってにらみ合う二人へと視線を返した。
「貴様から問うて来たのだ。貴様が名乗るのが筋であろう」
「良いじゃないの。こっちは素性が知れてる様な物なんだし!」
「そう言う話ではない! 無礼ではないか!」
「礼を失してるなんて、これっぽっちも思わないけど」
ばちばちばちっ。火花が散ってるぜ。
「大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫でしょ」
まあ、ちょっと不安にはなって来たけどもさ。と、ちょいちょい、と後ろから方を突かれた。振り向くと、篠田がアメノヒを指差している。
「その子、結局誰なんだ?」
「あめ……、おっとぉ危なかったあ!」
不意をつかれて、思わず喋っちまう所だった! 危ない危ない。僕がじりじりと汗をかいていると、アメノヒはちらりと僕に視線を向けた。あ、おろおろしてる時の目だ。
出来ればこっちに話を持って行きたく無かったんだけど、巧く切り抜けるしかないか。




