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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第二章 お狐様と散歩
27/109

14

 どさり、とその場に崩れ落ちる篠田。ざまあみろ。花園さんみたいな可愛い子を彼女に持ちながら、浮気したからこんな事になるんだ。

「葛葉さん、本当に可愛いんだ……」

 あ、これは懲りてないパターンですね。自分の彼女の前でこんな事言っちゃう辺り、また同じ過ちを繰り返すはず。五百円くらいなら賭けても良い。

 しかし花園さんは更に怒り狂うでも無く、ただただ大きなため息を吐いた。

「はあ、あとで葛葉さんには弁解しておきますから、明日は羽目を外さない様に」

 そして、潤んだ瞳で花園さんを見上げる篠田。

「……いいの?」

「良いでしょう。ただ、これっきりですよ」

「女神さまっ!」

 そして篠田は花園さんに抱きつかんばかりに喜んだ。と言うか、抱きついた。けれど、そこはさすが花園さんで、軽やかな身のこなしで篠田の腕から逃れた。

 なんて解り易いアメとムチ。ただ、効果はばっちりみたいだ。

 今や篠田は花園さんを女神と崇め、彼の目には花園さんの背後に後光さえ見えているのだろう!

 アホらしい。

 花園さんの行動は尤もとして(まあ恐ろしすぎるけど)、篠田の反応はアホらしさの極みだな。

「ところで、あの二人が誰か、まだ教えてもらってないんだけど?」

 花園さんはすり寄る篠田の顔を片手で押さえ込みつつ、僕の方に振り向いた。篠田の顔が変な風に歪んでる。痛そう。自業自得だけど。

「それは……、友達ってだけじゃ説明にならないかな?」

「伏見君に十二単を着る様な友達がいるんなら、それでも良いけど」

 良くないデース。そこなんだよなあ、やっぱり。普通に考えて、今の僕の説明はアメノヒの服装の部分をカバー出来てない。

「と言うか、お前にばっかり可愛い女の子の友達がいるなんて、妬ましい」

 ずばっとどこかで聴いた様な台詞をぶっ込んでくる篠田。

 でも、僕には解るぞ。今の台詞が爆弾だと言うことが!

「巧一。あなたには可愛い女の子の友達がいないと言うのかしら……」

 振り向かなくても解る。今の花園さんは笑いながら、でも、目には怒りの紅炎を宿しているのだ。

 篠田がはっきりと脂汗をかいている。

「あの……、その……、俺には、可愛い『彼女』が……、いますぅ……」

 お? これは行けたんじゃないか……?

「ふぅむ。セーフですね」

 くるりんくるりん、とカールした髪を弄くりながら、花園さんはセーフを宣言した。篠田ははっきりと「命拾いしたぜ!」って顔をしている。解り易すぎでしょ。

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