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どさり、とその場に崩れ落ちる篠田。ざまあみろ。花園さんみたいな可愛い子を彼女に持ちながら、浮気したからこんな事になるんだ。
「葛葉さん、本当に可愛いんだ……」
あ、これは懲りてないパターンですね。自分の彼女の前でこんな事言っちゃう辺り、また同じ過ちを繰り返すはず。五百円くらいなら賭けても良い。
しかし花園さんは更に怒り狂うでも無く、ただただ大きなため息を吐いた。
「はあ、あとで葛葉さんには弁解しておきますから、明日は羽目を外さない様に」
そして、潤んだ瞳で花園さんを見上げる篠田。
「……いいの?」
「良いでしょう。ただ、これっきりですよ」
「女神さまっ!」
そして篠田は花園さんに抱きつかんばかりに喜んだ。と言うか、抱きついた。けれど、そこはさすが花園さんで、軽やかな身のこなしで篠田の腕から逃れた。
なんて解り易いアメとムチ。ただ、効果はばっちりみたいだ。
今や篠田は花園さんを女神と崇め、彼の目には花園さんの背後に後光さえ見えているのだろう!
アホらしい。
花園さんの行動は尤もとして(まあ恐ろしすぎるけど)、篠田の反応はアホらしさの極みだな。
「ところで、あの二人が誰か、まだ教えてもらってないんだけど?」
花園さんはすり寄る篠田の顔を片手で押さえ込みつつ、僕の方に振り向いた。篠田の顔が変な風に歪んでる。痛そう。自業自得だけど。
「それは……、友達ってだけじゃ説明にならないかな?」
「伏見君に十二単を着る様な友達がいるんなら、それでも良いけど」
良くないデース。そこなんだよなあ、やっぱり。普通に考えて、今の僕の説明はアメノヒの服装の部分をカバー出来てない。
「と言うか、お前にばっかり可愛い女の子の友達がいるなんて、妬ましい」
ずばっとどこかで聴いた様な台詞をぶっ込んでくる篠田。
でも、僕には解るぞ。今の台詞が爆弾だと言うことが!
「巧一。あなたには可愛い女の子の友達がいないと言うのかしら……」
振り向かなくても解る。今の花園さんは笑いながら、でも、目には怒りの紅炎を宿しているのだ。
篠田がはっきりと脂汗をかいている。
「あの……、その……、俺には、可愛い『彼女』が……、いますぅ……」
お? これは行けたんじゃないか……?
「ふぅむ。セーフですね」
くるりんくるりん、とカールした髪を弄くりながら、花園さんはセーフを宣言した。篠田ははっきりと「命拾いしたぜ!」って顔をしている。解り易すぎでしょ。




