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止まらぬ好奇心のアメノヒをホクトがうんうん言いながら引きずり、エスカレーターに載っけて、どうにかこうにか女性服売り場まで上がって行く。
エスカレーターを降りると、そこは異世界だった。
もうね、女兄弟とかいない僕にとって、女性服売り場は右も左も解らないよ。ほんと。思わず川端康成になっちゃったもん。あれなに? ズボンなのにパンツって書いてあるよ?
「アメノヒ、やっぱり今のままで良いんじゃないのかな?」
やっぱりこんな中から自分に合う服装を選ぶのは、大変だと思うんだ、僕。そんな事で悩むくらいなら、今の服装のままで過ごした方が、遥かに人生楽しいに違いない。
でも、アメノヒは決意を固めてしまったみたいだった。
「いいえ、善太朗さん。私は決めたのです。これ以上ホクトに心労は掛けまいと」
「今のままだと、ホクトに心労を掛けると?」
「はい。今までは私のわがままでホクトに迷惑をかけていましたから。服装が変わった位で、私が私でなくなるわけでもないですし」
いや、そんな深刻に考えなくても良いんじゃないのかなあ。
「じゃあホクト、アメノヒに似合う服を見繕ってあげてよ」
「ああ、了解だ。さ、アメ様」
傍らのホクトに声を掛ける。ホクトは急に元気になると、アメノヒの腕を急にとった。
「え? あれ、善太朗さんはどうなさるんですか?」
「あ、僕? 僕はよく解らないし、適当な所に座ってるよ」
「あ……、そうなんですか……」
「さささ、アメ様、まずはこっちです!」
ホクトはそのままアメノヒの腕をとって、ちょっと離れた店まで走って行ってしまった。アメノヒは不安そうな目で僕を見ている。あんな事言ってたけど、やっぱりちょっと不安になるよね。わかるわかる。僕だって、あの二人を初めて泊めた日は、すこし不安だったもん。
それにしても急に元気になったなあ、ホクト。どこか吹っ切れた感じだ。僕は手近な所にあったベンチに腰掛けて、元気になったホクトと魂の抜けてしまった様なアメノヒを見ていた。
こうやってみてると、普通の女の子みたいなんだけどなあ。あ、十二単は抜きにして、ね?
誰もあの二人が、保食神のお使いなんて思いもしないよなあ。
さっきのラーメンも程よく効いて来て、だんだんと昼の微睡みが訪れる。一度座っちゃうと、やっぱり眠くなるねえ……。
と、不意に後ろから声がかけられた。
「なあ、お前あの二人と仲いいな?」
「あ、そう見える?」
「虫も殺さない様な顔をしてプチハーレムなんて、伏見くんもやるわね」
「そんなんじゃないさ」
「でも、二人とも選ぶなんて無理なんだぞ? 良ければ片方、俺が付き合って上げても良いぜ?」
「誰がやるもんか」
「じゃあ、どっちともゲットしちゃうわけ? やるわね、伏見くん」
「違うって。僕とあの子達とは、全然そんな関係じゃないって」
……、この人達、誰? 何気なく会話しちゃってるんだけど。振り向くのも怖いし。言ってみれば、目隠しの手が無いままで、「だーれだ?」ってされてる感じ。




