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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第二章 お狐様と散歩
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11

 僕には全く縁がないんだけど(服は家の近くの服屋で済ましちゃうからね)、こういう所が最近の若者に人気だと言う事は、僕でも風の噂で知っている。

 突然、イソップ物語の「街のネズミと田舎のネズミ」を思い出した。吉城寺は確かにお洒落な街だけど、僕が行くのは専らそう言う事とは無縁の場所だからなあ。「来珍亭」だってそうだもん。あ、でも、「ふーふー」と息を吹いて、熱いラーメンを冷ましながら食べるアメノヒは最高でした。長い金色の髪を耳へ掛ける仕草とか最高。

「ホクト、ホクトがいつも服を買ってるのってこういう所かな?」

「ああ、まあ、こういう所だ」

 何でだろうね。ホクトの言葉はいつもより少しはっきりしなかった。

「じゃあ、勝手知ったる、って感じなわけだね?」

「ああ、まあ、そうだな」

「ってホクト言ってるし、ここに入ろうか、アメノヒ?」

「はい、私は全くこういう事には疎いので、よろしくお願いしますね、ホクト」

「はい、アメ様」

 ホクトはまだ固い感じの喋り方だ。なんでかな?

 大きな手押し扉を推し開けて、デパートの中へ入る。わっ、と目に飛び込んで来たのは、カラフルな雑貨屋や良い匂いのしそうな女性向けの化粧品売り場だ。

 田舎のネズミ、じゃなかった、こう言う場所に不慣れな僕は、何となく目をそわそわさせながら上行きのエスカレーター目がけて一目散に歩いて行こうとした。

 でも、アメノヒはそうではなかったみたい。

「ホクトホクト、あれはなんですか? 落雁らくがんの様な色かたちをしていますが……」

「ぱ……、パウダーファンデーション? って言うらしいですよ。化粧品の一つみたいです」

「へえ、なるほど。では、あれはなんですか?」

「……、アメ様、まずはお買い物を済ませませんか?」

「あ、それもそうですね」

 アメノヒに尻尾がついているなら(と、言うか、耳がついてるんだから、普段は隠してるだけで、本当は尻尾もついてるんだろうなあ)、ちぎれんばかりに振り回されてるんだろう。あっちに行ったりこっちに行ったり、目が爛々と輝いている。

 と言うか、よくお母さんとかが使ってるあの綿みたいな化粧品を、「落雁みたい」って言う辺りが、アメノヒのセンスだよなあ。落雁ってあれでしょ? お彼岸とかお盆ににお仏壇とか神棚にお供えするお菓子だよね。確かに遠目にみると、質感は似てない事も無いかもしれない。

 でも、落雁はなあ……。

 とにかく、早く上の階へ上がろう。

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