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とりあえず、珍しくホクトとも意見があった事だし、僕は足を近くのデパートへ向けた。
うねうねと入り組んだ横町だけど、何度か来てみれば解り易い構造をしている。いくらも歩かずに、薄暗い横町から明るい商店街へと飛び出した。
「ホクトはさ、普段はどんな店で服を買ってるの?」
「そうだな……、百貨店の中の洋服屋を回ったり、後は……、そうだな、適当に良さげな店を見つけて買っているぞ」
……、今さ、僕当たり前の様にホクトに訊いたんだけどさ。よく考えたらおかしくね?
「お前、僕の家に『泊めてくれ』って頼んだとき、身一つだったよな? どこにそんなに洋服があるんだよ」
「気付いてなかったのか?」
「……?」
何に?
「あの後、荷物は全部、前に住んでいた神社から、貴様の部屋の押し入れに運び込んでおいたんだぞ。気付かなかったか?」
「ちょ、お前、人んちで勝手に何やってるの?」
「住むんだから仕方なかろう」
「仕方なかろうってお前……」
そんな事されてたのに、全く気付かなかったよ……。思えば、布団を敷くとき位しか押し入れ開けないしね。僕は押し入れの上の段に寝てるけど、下の段には全く注意を払っていなかった。
要するに、僕の押し入れまでもが、ホクトとアメノヒ向けにカスタマイズされ始めていたわけだ。
あきれかえって物も言えない僕を見て、アメノヒは急にまたおろおろとし始めた。が、「すー、はー」と小さく息を整えると、ホクトと向き合った。
「ホクト! 善太朗さんに話を付けておいたのではないのですか?」
「いや……、その、なんと言うか、事の運びでですね……」
「私たちは善太朗さんの好意で、あのお家に置いて頂いているのです。ちゃんと話を通してから事を行うのが筋でしょう?」
アメノヒの声は荒げられるわけでもなく、教え諭す様な調子だった。よく解らない笑みを浮かべていたホクトもだんだんと真面目な顔になって行く。
「……はい。悪かったよ、伏見善太朗」
まあね、僕も今の今まで、ホクトが押し入れの中に服を運び込んだ事に気付いてなかったわけだし。そんなもんだからね、押し入れの中なんて。今の僕は押し入れイコール寝床みたいな物だからなあ。
「良いって良いって。アメノヒもホクトも荷物はそれなりにあるんだろ? 置いといてくれて構わないよ」
「申し訳ありません」
アメノヒが何度目か解らないお辞儀をした。いやいや、それどころか僕が君にお礼をしたかったのに。
それから、僕とアメノヒは「いやいやいいって」「いいえ、本当に申し訳ありませんでした。今度からは私たちが押し入れで寝ます」「え? 僕と一緒に寝たいの?!」「そ、そう言うわけでは……」と、いつかした様な会話をもう一度繰り返し、気付けば若者向けのデパート「PALM」の前へと辿り着いていた。




