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「早食いは太るぞ」
「大丈夫だ。私は食べても太らないからな」
「そうか。ほいっ、と」
ホクトは最後のひとかけらを口へ放り込むと、アメノヒへと視線を向けた。自分が食べ終わったからか、あてど無く歩き始めようとする。
僕達三人は、屋根の低い横町をぶらぶらと歩き始めた。
「アメ様、さっき、こいつとは何を話していらっしゃったのですか?」
「この後もちょっと吉城寺を歩いてみようか、と言うお話です。ホクトも一緒に付き合ってくれますか?」
「もちろんですよ!」
両手でたい焼きを持ちながら一口一口齧っているからか、アメノヒはたい焼きをまだ半分も食べ終わっていなかった。そうそう、これが普通なんだよ。
「じゃあ、どうする? 猪の頭公園でも行ってから動物園にでも行く? それとも、どこかお店を見て回ろうか」
「お前、アメ様とおデートでもするつもりか?」
ホクトが眉根を寄せて僕を睨んでくる。おデートって何だよおやじ臭いな。
「そんな下心は無いよ。ただアメノヒと一緒に歩けたら楽しいだろうなって思っただけ」
アメノヒが嫌だったら僕もおとなしくその意に従うつもりだったさ。
「私なんかでいいんですか?」
「全然! アメノヒだからだよ!」
「そんな……」
十二単の襟に顔を埋めてしまうアメノヒ。金色の髪から覗くうなじが真っ赤に染まってしまっている。
「お前、よくそんな事さらっと言えるな」
「なんか変な事言ったかな?」
思った事を言っただけだけど。
「とにかくさ、どっか回りたい所、ある?」
僕が問いかけると、二人とも黙り込んでしまった。「うーん」とか「むううぅ」とか言って、額に手をやって考え込んでしまった。
まあ、ムリも無いよね。やっとこの辺りが田畑の広がる景色になり始めた頃に、この辺りを離れちゃったんだから。
僕はホクトを見た。現代風の女の子の格好だ。女の子としては背の高いホクトに、パーカーもプリーツスカートもよく似合っている。こういう事にはすっかり疎い僕だけど、これが十分に身だしなみとして通用する事は、僕にも解る。
次に、アメノヒを見た。……、時代を八世紀くらい間違えてる気がする。確かに綺麗だし可愛いのに、十二単は街にに合わない。またそこが良いんだけどね! 町中を行く人の目線が気にならない、事も無い。