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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第二章 お狐様と散歩
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「ふうん。全く知らない事ばっかりだったよ」

「そうですか。でも、これからおいおい知って頂けば良いと、私は思ってます。

 あ、そうそう、私が主人ではないと言う話でしたね。

 私たち狐はみな、等しく同じ役割が与えられています。霊力の蓄積度合いによって狐それぞれの持つ力は変わって来ますが、基本的に『神の使い』であると言う一点に置いて、変わりはありません。

 ですが、それぞれの神社に何匹もいる狐がそれぞれ勝手に働いては非効率的です。ですから、昔から神社ごとに最も大きな霊力を持つ狐が、その神社の代表として、神様の元へ伺う事にしていました。私はよく知らないのですが、保食神が亡くなった後の代表は、ただ慣例的に決めているだけの様です。決まる事は決まりますが、仕事は無いのです。

 そして、三百年前からの陸山稲荷神社の代表が、この私です」

 なるほどなーとうっかり頷きかけたけど、よく考えたら話はまだ終わってなかった。ただ、アメノヒもそれは解っていた様で、すぐに話を再開した。当然僕には相槌が打てない。話について行くのが精一杯なのだ。

「ただ、いくら慣例的な物とは言え、代表にはいくつか特権があります。

 例えば、私たち狐が集団で何かをするとき、何かを決定する時に、最終的な意思決定を出来る権利が与えられています。面倒な事もあるでしょうけれど、魅力的でしょう?」

「え? ああ、そりゃあまあ……、ねえ」

 不意をつかれた。なんて返していいのか解らなくなる。素直に「魅力的です」って答えて良いのかなあ。

「だから、慣例的な物とは言え、代表と言う役職に着く狐は必ずいて、それを羨む狐も必ずいるわけです」

 何となく話が見えて来たぞ。だんだんと、心の中に黒いもやもやが煙り始める。

「そう言う争いごとから身を護るために、代表の狐は護衛を一人、自分につける事になっています。しかし、代表であれ護衛であれ、神様のお使いである事に変わりはありません。

 ですから、私はホクトの主人では無いのです」

 おお、ちゃんと結論に辿り着いたぞ。最初は何の話なんだろう、と思っていたけど、ちゃんとこうやって話を結べる辺り、アメノヒはかなり賢い頭を持ってるんだろうなあ。

 いつの間にか、アメノヒの横にいるホクトの顔からは、赤味がすっかり消えていた。くんくんと空気を吸い込んで、階段の方を伺っている。

「アメ様、まだですかね?」

「もうそろそろでしょう。待ち遠しいですね」

 ホクトみたいにそのまま外には表さないけど、僕も内心料理が待ち遠しい。来い来いチャーハン、来い来いラーメン。

 やがて、木製の階段の軋む音がした。お、来珍亭のおばちゃんが上がってくるぞ。一段目、二段目…………、来た!

「はい、お待ちどおさま。まずチャーハンが三つね」

 おお! このドーム型にこんもり盛られたチャーハンですよ! 卵にネギと、具に変わった物は入っていないけど、それが良いのだ。空きっ腹に匂いまで沁み込んで行く。

 と、チャーハンが置かれた直後、もう一度木製の階段が軋んだ。この音は!

「はい、醤油ラーメン三つです」

「ビンゴ!」

 ホクトが叫ぶ。おいやめろ。

「静かにしろ、ホクト」

「こら、はしたないですよ、ホクト」

「すみません、アメ様……。」

 しょげ返るホクトだったけど、叫んじゃう気持ちも解るよ。ちょっと濃いめの色をしたスープの中に、大きく縮れた中華麺が沈んでいる。具のチャーシューもメンマもホウレンソウもスタンダードな物だけど、それだけに空腹のみには美味しそうに見えるのだ。

 ラーメンを前にしてホクトはすぐに元気を取り戻した。

「アメ様! 食べましょう! 頂きます!」

 言うが早いがホクトはラーメンに挑みかかる。

 じゃあ、僕も食べましょうかね。いただきます。

 ちらりと見ると、アメノヒもちょうど両手を合わせる所だった。ちらりと視線がぶつかり、すぐにラーメンに視線を落とす。

 幸せな静寂が訪れる。


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