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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第二章 お狐様と散歩
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「で……」

 公園を出て、高架をくぐって、駅前のロータリーに出てくると、アメノヒの足は止まってしまった。

「私も、この辺りがこんなに栄えてるだなんて、知らなかったんですよ」

「へえ。最後にここに来たのって何年位前なの?」

「えーと、この辺りの大きめの稲荷神社に順にお世話になっていましたから……、二百九十年前には、もうここを離れていましたね。その頃、この辺りは新田開発が盛んになり始めていましたね」

 そりゃ足も止まるわけだ。

「なるほど」

「おいお前、アメ様をどこか美味しい店へ案内しろ」

 アメノヒを挟んで向こう側から、ホクトがすごんだ。いやいやお前。

「ホクト、お前自分が腹減ったからって、アメノヒを出汁にするなよ」

「なっ! アメ様のお腹は、そろそろ減る頃合いではないのか?」

 そして、「ぐう」と鳴るホクトのお腹。それでもホクトは悪びれなかった。

「さあ、貴様の腹も鳴った所だし、案内しろ」

「ちょっと待て!! 今の完全にお前のだろ!」

「アメ様も、そろそろ昼食になさいませんか?」

「そうですね、もうお昼ですし」

「ほら、アメ様もこう仰ってるぞ」

 なんだろうね、この釈然としない感じ。アメノヒを出汁にする云々の時はさ、まだ冗談を言い合う雰囲気だったんだけど、ホクトの腹の虫を僕のにされた辺りで、退けない戦いになったよね。

 でも、アメノヒとお昼ご飯、と言うのを拒む手は、まあ無いよね。

「じゃあ、アメノヒ。ホクトの腹の虫は鳴いてないみたいだし、二人でお昼ご飯行こうか」

「え……? ホクトはまだお腹が空かないのですか?」

「だってほら、『僕の腹の虫が鳴いたから』とか、『アメ様のお腹はそろそろ減る頃合だろう』とか言ってたし。自分はお腹が減ってなかったのに、僕達の事を心配してくれてたんだよ」

「貴様! 計ったな!」

 悔しがるホクト。ざまあみろ。やっぱり自分と周りには正直でないと。

「アメノヒは何か食べたいもの、ある?」

「そうですね。善太朗さんは、普段どんなところで食事を摂られるのですか? なにぶんこの辺りには長い事来ていないので、あんまり詳しく無いのです」

 そうだろうなあ。二百九十年も来てないんじゃ、美味しいお店なんて知るはずもないか。

「そうだなあ。ピアニカ横町の来珍亭とかかなあ」

「何のお店なんですかあ?」

「ラーメンとチャーハンだよ」

「オススメですか?」

「オススメです」

「なら、そこにしましょうか」

 アメノヒの鶴の一声で、行き先が来珍亭に決まった。ふと、「ホクト、行きましょう」の声に振り向くと……。

「ラーメン……、……チャーハン……、ハアッ……、ハアッ……」

 よだれを垂らさんばかりのホクトがいた。お前そんなに腹減ってとか、育ち盛りか? 育ち盛りなのか?

「ホクト、はしたないですよ」

「半チャン半ラー……、はっ! 申し訳ないです」

 やっと帰って来たよ。と、思ったのだけれど。

「おい伏見善太朗。その来珍亭とやらは、醤油ラーメンを頼む客が多いのか? それともワンタン麺を頼む客が多いのか? どっちだ答えろ!」

「うーん、多分醤油ラーメ」

「アメ様行くぞ!」

 言うが早いが、グレーのパーカーを翻してホクトは走り出した。ん? ちょっと待て。僕まだ場所教えてないぞ? どうやって店に辿り着く気なんだろう。

 ホクトの背中はずんずんと遠ざかり、もうピアニカ横町のごみごみした一角へと吸い込まれていた。おお、案外道を間違えてないぞ。

 ちょんちょん、と袖を引っ張られた。見ると、アメノヒの小さな手が僕の袖口を摘んでいる。もう片方の手でホクトの消えた方角を指差すと、かわいらしく小首を傾げて、

「私たちも行きませんか?」

 と言った。

 陽に照らされて、十二単のたくさんの色が、いつもより輝いて見える。

 そんな風に言われたら、行かない訳ないじゃないか!


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