表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第一章 お狐様と交渉
10/109

「あのさ、突然で悪いんだけど」

 リビングのソファに二人を座らせ、テーブルを挟んで向い側に僕は陣取った。二人とも、しょぼん、と言う音が聞こえそうな程、俯いている。

 目の前に座るアメノヒの頭にはピンと立った狐の耳がある。ホクトも同じく。おかげで、僕は確信が持てた。

「今朝、僕の事助けてくれたよね?」

「…………はい」

 消え入りそうな声でアメノヒがそう応える。だんだんと金色の耳まで俯き始め、すっかりしょげ返ってしまった。ホクトはホクトで悔しそうに唇を噛み、膝の上の拳をぎゅっと握り込んでいる。

 何となく二人の落ち込む理由が解ったから、敢えて明るい声で話し掛けた。

「僕、君にお礼が言いたかったんだ」

「お礼……ですか」

 目の周りがまだ少し赤い。アメノヒはかわいらしく首を傾げた。

「私たちの方こそ、お礼を申し上げなければ……」

「いやいや、僕の方こそ」

「いいえ、私たちの方こそ」

 なぜかお互いにぺこぺこと頭を下げ合ってしまう。

「アメ様!」

 あれだけ項垂れていたホクトが、たしなめる様に厳しい声を出した。アメノヒは「はっ」と口許に手をやると、申し訳なさそうな表情で小さく微笑んだ。

 可愛いなあ。

 でも、そうとばかりも思っていられない。

「あの時君が助けてくれなければ、僕は車に轢かれてたんだ。だからどうかお礼がしたいんだ。だめかな?」

「お礼に泊めてもらいましょうよ、アメ様」

 ホクトが割って入る。いやいやちょっと待て。

「お前は僕を助けてくれたわけじゃないだろ」

 挙げ句の果てに僕の事を追いかけて匂いまで嗅いでさ。びっくりしちゃったじゃないか。

「いちいち小さい事は気にしないの」

 ホクトは悪びれずそう言い放った。そもそもアメノヒへのお礼の中身を、何でホクトが決めてるんだ。

「ホクト。あれは私が勝手にした事ですから、見返りを求めては行けません。私たちは泊めて頂くためのお願いをしているんですから、そう言う言葉を掛けては行けませんよ」

「はーい」

 アメノヒの言葉に、ホクトはつまらなそうに応えた。見た目はホクトの方が何歳も年上に見えるのに、この差はなんなんだろうね。

 おっと。話がだんだんそれて行くぞ。

「でも、お礼をしたい事に変わりはないよ。これをお礼の代わりにするなんて図々しい事は言わないからさ、泊まって行ってくれて構わないよ」

「本当ですか?」

 アメノヒがテーブル越しに体を乗り出す。ふわり、と女の子の良い香りが鼻をくすぐった。上気した頬と潤んだ瞳が間近に見えて、僕は思わず視線を外してしまった。

「まあ一晩くらいならどうにかなるだろ」

 要は家族の目から逃れるのが一番の肝だ。そこさえきちんとしてしまえば後は上手くいきそうな気がする。

 幸い今日は両親ともに帰りが遅いらしいし、好都合だ。

 よしよし楽勝、とか思っていると、

「そこはお前、『一生僕と暮らそう』とか言えないのかよ!」

 なんだかよく解らない理由でホクトがキレた。訳が解らなすぎて、僕は思わず

「一生一緒に暮らそう、アメノヒ」

 と、告白の様な事をしてしまった。見事なおうむ返しだけど……。あれっ? ちょい待ち。

「え……、そんな……。まだお互いの事も良く知らないのに……」

 照れるアメノヒ。

「いきなりアメ様を口説くとかワレ何様じゃあああああっ!!」

 更にキレるホクト。髪が重力を無視して逆立ちそうな勢いだ。

「いや、ちょっと待って。ちがうちがう違う」

 しまった! もしかしなくてももしかしたのかもしれない。もう頭がこんがらがって、自分が何を口走ったのかがピンと来ない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ