第八話 全力疾走です☆がぁる
「さぁて、それじゃあ食べモノも食べ尽しちゃったことだし町に向かいましょうか」
そのためにはまず町がどっちにあるのか探さないとね。
私は草原の中に立つ背の高い大木に目をつけ、よじ登って周りを見渡した。
すると遥か遠くに石壁が立ち並んでいるのが目に入ってきた。
あれってどう見ても町よね?ここからだったら歩いて一日以上かかりそうだわ。
木から下りる途中に目についた芋虫を掴んで口に放り込んで生きたまま飲み込む。
[モスキー虫完・食! 取得経験値 1 取得能力値 なし 取得スキル なし]
地面に着地して町に向かって走り出すと今までと違って周りの景色が目に見えて流れていく。
私こんなに足が早かったかしら?
それに走っていても全然息が弾まないし。
凄いわ。まだまだ早く走れそうな気がする。
私は体を傾けて前傾姿勢になり、どんどんスピードを上げていく。
「アハッ、アハハッ!凄い!凄いわ!」
身体が羽根のように軽い。
今までまるで身体に重石でもついていたかのようだ。
「風が気持ちいいわね!」
吹き抜ける風が髪を靡かせると頭に籠った熱もすっきり抜けていく。
この速さがあればあの青服どもの乗っていた車にも十分張り合えそうだわ。
草原を町に向かって真っすぐ走っているとまた一匹の犬が目についた。
「これならっ!」
私の存在に気づいた犬は慌てて逃げ始めた。
さっきは全然追いつけなかったのに、今はトップスピードに乗った犬にも負けてない。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「ほらほら、頑張って逃げないとすぐに捕まっちゃうわよ?」
いくら走っても差が開かないのに焦れたのか、犬は右へ左へとフェイントを交えながら私を振り切ろうと切り返す。
しかし鬼ごっこを極めた私にそんな単純なフェイントが通じるはずもなく、犬との差はどんどん縮まっていく。
逃げる子の気持ちが手に取るように伝わってくる。
脅えが肥大化して切り返す瞬間が。気持に余裕が生まれてフェイントを入れようとする瞬間が。
行動が先読み、それが結果的に私と餌の距離を近づけていく。
「お腹も空いて来たしそろそろいいかしら?」
犬が左へと方向を切り返した瞬間、私は犬の進行方向へと全力疾走のまま飛びかかった。
「キャンッ!」
左手から爪を出して犬に掴みかかり、首を抑えつけて爪を喰い込ませて逃げられないようにしてから右手に持った棍棒を捨てて大きく口をあける。
「いただき・ます」
そして犬に歯を突きたてた。
「クゥーーーーーーーーーーーーーーーーーン…………」
不思議なことに最初の犬を食べたときから歯が鋭く、そして顎の力が強くなったような気がする。
それはつまり食べモノが食べやすくなったということに他ならない。
私は鋭くなった歯で肉や皮を引き千切って咀嚼し、飲み込んだ。
ここに来てただでさえお腹が酷く空くようになってたから早く食べられるようになったのは本当に嬉しいわ。
おかげで犬を丸々一匹食べたとしても5分も掛からない。
「ウフ、ごちそうさま。なかなかの味だったわ」
[グレイウルフ完・食! 取得経験値 111 取得能力値 なし 取得スキル なし]
食べモノ効果で走った疲れもなくなったので再び町に向かって走っていくことにした。
食べモノを食べた後はすこぶる身体の調子が良い。
この分なら思っていたよりもずっと早く着きそうね。
結局それから半日もかからずに町が見えてきた。
遠くから見えていた石壁は高さが3メートルもなく、頑張ればよじ登れそうな気がする。
でも無理によじ登ろうとしなくとも、如何にもここから入ってくださいと言わんばかりの入り口があり、そこから馬に引かれた荷車や人間が出入りしているのが見えた。
人間も馬も美味しそう。
でもここは町だから頑張って我慢しないとまた追われることになってひもじい思いをすることになるわね。
できるかしら…………我慢。
町の入り口へと近づいていくと、二人組の槍を持った男たちに止められた。
「ま、待て!」
「…………なに?」
顔をあげると二人が僅かに後ずさる。
なんで?
「その血はなんだ!」
「血?」
あぁ、そういえば血は洗わないといけないんだったわね。
ご飯に夢中で忘れていたわ。
よくよく自分の姿を見てみると顔から首にかけてべったりとついた血が乾いてパリパリになっている。
私の血もあるだろうけど、大半は犬を食べる時についたやつよね。
「見ての通り返り血だけど?」
そう言って棍棒を男たちに見せた。
棍棒にも当然血が付着し、汚く汚れている。
「モ、モンスターの血か?」
「そうよ」
モンスターって確か人間に害をなすものだっけ?あの犬たちは害どころか餌になってくれたくらいだからモンスターじゃないんだろうけど、そういうことにしておいた方が良いわよね。確かあの人間たちの口ぶりだと人間や犬と違ってモンスターならいくら殺しても良いみたいだし。
「この町へ来た目的はなんだ」
「確か、冒険者っていうのになるためだったかしら?」
冒険者になったらお腹いっぱい食べられるらしいからね。
「あやし…………」
「おいやめろ!」
男の一人が何か言いかけたのをもう一人が止める。そして止めた方の男が近付いてきた。
「感応の魔石も反応がない。町に入っても構わないがくれぐれも問題を起こさないように」
「それはもちろん分かってるわ」
かんちのませきっていうのが何だかよく分からないけど、人前で生肉と人間を食べるなってことよね。
分かっているけど、我慢できるかしら?
正直気を緩めたら今にもかぶりついてしまいそうだわ。
涎が零れないように唇を舐めると男は急に私から距離を取って離れていった。
「お、おい、いいのか?」
「止めたきゃ自分で止めろ。その代わり何があっても俺は助けないからな」
そう言い残して男の一人が去っていった。
「わ、分かった。何もしない。俺はあっちで行商の相手でもしてくる」
そう言ってもう一人の男も慌てたように走り去っていく。
そして私の周りには誰もいなくなった。
お腹が空いたわ…………。
衛兵視点:
「今日も平和だな」
「馬鹿言え、平和で何が悪い」
「悪いなんて誰も言ってないだろ。でもなぁ」
今日も俺たちは町を出入りする行商や旅人の検問を行っていた。
検問と言っても単純なものでモンスターが化けていないか感応の魔石を使って確認を行い、非合法な商品を扱っていないか荷物検査を行うくらいである。
そして町へ持ち込む荷物の量によって僅かばかりの通行税を徴収する。
しかしそんな退屈な任務に飽きているのか、相棒は未だ少年が夢見るような英雄願望を捨てきれていないところがある。
時折それが心配になることもあるが、だからと言って仕事の手を抜くわけでもなく、根は悪い奴じゃないのは分かっている。
だが今日はそれが良くなかった。
町を出入りする商人や冒険者たちを検問していると随分と汚れた一人の少女が外からやってきた。
外から腕の自身のある一匹狼の冒険者が一人でやってくることさえ珍しい。
だから最初は山賊か何かに襲われた近くの村の難民かと思った。
しかし近づいてみるとそれが間違えであることにすぐ気付いた。
木で出来ただけの太い棍棒を右手に持ち、遠目から汚れているように見えた服は乾いた血によるものだった。
どう見ても尋常じゃない様子だ。
しかし相棒はそれでも少女を呼びとめた。
「ま、待て!」
「…………なに?」
「!?」
うつむき加減だった少女が上げた顔を見て俺たちは息をのみ込んだ。
顔から首にかけて飛び散って乾いた大量の血。そして何よりまるで家の近所を歩く主婦のようにそれらを何一つ気にした様子のない自然な笑顔。
イカレてやがる!人間として必要なネジが外れているとしか言いようがない!
「その血はなんだ!」
相棒よ。お前は勇者か!頼むからその英雄願望に俺を巻き込まないでくれ!
「血?」
少女は言われてきょとんとしたかと思うと、まるで今思い出したかのような反応を見せたあげく、何でもないように言葉を続けた。
「返り血だけど?」
そう言って血で黒ずんだ棍棒を見せてくる。
返り血とは決して天気の話をするかのように気軽に口から出るような単語ではない。
これ以上相棒に任せていても碌なことにはならないと判断した俺は頼むからそうであってくれと願いながら少女に尋ねた。
「モ、モンスターの血か?」
「そうよ」
その言葉を聞いてほっと息を吐く。たとえそれが本当であろうと嘘であろうと少女がそう言うならそれで構わない。藪の中に蛇がいると分かっていて手を突っ込む必要などないのだ。
「この町へ来た目的はなんだ」
職務として最低限のことを聞いていく。
観光でも仕事でも嘘でもいいから聞き流せるようなことを言ってくれと願いながら。
「確か、冒険者っていうのになるためだったかしら?」
なぜ疑問形なのかは深く追及しないが、それならば問題なく町で入れることができる。
よかった。事件に巻き込まれなくて本当に良かった、と思えた。
しかし俺の相棒は違っていた。
「あやし…………」
「おいやめろ!」
「怪しい奴だな」と言おうとした相棒の口を慌てて塞ぐ。
死にたきゃ一人で死んでくれ!頼むから俺を巻き込むな!お前が目の前で死んだら対処するのは俺なんだよ!
少女にはさっさと行ってもらう。それがいい。いや、それしかない。
俺は一応感応の魔石を少女に近づけて確認を行う。
これで少女がモンスターであったならば、感応の魔石は赤く光って反応を示す。だが幸運にも魔石は少女に対して何も反応を示さなかった。
つまり少女は確かに人間であることがここで証明されたわけだ。
「感応の魔石も反応がない。町に入っても構わないがくれぐれも問題を起こさないように」
「それはもちろん分かってるわ」
本当に分かっているのかどうか、相変わらず何気ない笑顔を見せる少女の顔からは読み取れない。
しかしこちらを見ていた少女は、離れようとする俺を見て舌舐めずりをしたのだった。まるで獲物を狙うヘビのような目で。
その瞬間背中をゾクゾクと寒気が駆け巡り、腰が砕けてしまいそうになるが、気力を振り絞って何とか持ちこたえて少女から距離を取る。
「お、おい、いいのか?」
この期に及んで相棒はまだそんなことを言っていた。
「止めたきゃ自分で止めろ。その代わり何があっても俺は助けないからな」
そう吐き捨てて俺はその場から離れた。
これ以上馬鹿には付き合いきれん。
冒険者の中には変わった奴もいる。頭のおかしい奴だって珍しくない。
だがこの少女はそういう次元じゃない。
「わ、分かった。何もしない。俺はあっちで行商の相手でもしてくる」
そう言って相棒も仕事へ戻っていった。
そうだ。それでいい。俺たちは英雄になんてなる必要はない。
名前 黒絵
クラス 魔物喰らい
レベル 15 (経験値5914)
力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性
体力 グレイウルフ程度。最大速度で20分。半分の速度なら7時間走り続けることができる。
魔力 Eランク魔術師の半分程度。低レベルの魔法を数回使うことができる。
知性 Eランク神官の半分程度。肉と野菜の区別がつく。
敏捷 グレイウルフ程度。最大速度70km/hを記録する。
器用 Eランク弓士の半分程度。簡単な罠の解除にも苦戦する。
魅力 若作りショタ神官の半分程度。百人中四十九人に負ける平凡な美貌。肌年齢29歳。
運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運
装備
武器 棍棒
防具 レイラの服
レイラの下着
耐性
毒・麻痺・幻覚・精神喪失
弱点
光
専用スキル
存在捕食 食べたモノの半分を得る。
悪食無道 食べたモノを全て消化する。
絶交満腹 満腹感を完全に失う。
汎用スキル
繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。
不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。
吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。
猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。
麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。
幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。
マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。
ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。
統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。
斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。
剣技Lv4 剣の扱いにボーナスを得る。
鈍器Lv2 鈍器の扱いにボーナスを得る。
杖術Lv1 杖の扱いにボーナスを得る。
弓技Lv5 斬撃攻撃にボーナスを得る。
牙Lv2 噛み付き攻撃にボーナスを得る。犬歯が伸びる。収納不可。
爪Lv2 爪攻撃にボーナスを得る。爪が伸びる。収納可。
精霊魔法Lv4 精霊魔法を扱うことができる。
神聖魔法Lv3 神聖魔法を扱うことができる。
罠設置Lv4 罠の設置にボーナスを得る。
罠解除Lv3 罠の解除にボーナスを得る。