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第六話 美味しくいただきました

「え…………」

「なーんてね。冗談よ。半分は」

「「「…………」」」


 せっかく面白い冗談を言ってみたのに誰も笑わない。なんでかしら?

 「は、半分は本気なんですね」という声が料理女の方が聞こえてくる。

 否定はしないしあえては言わないけど、あなたが非常食の最有力候補なんだけどね?

 そう思って料理女を横目で見ると、目をそらされた。

 無防備で美味しそうだけど今は我慢。

 私は男の方へと向き直って血で汚れた口を拭って言った。


「本当は色々と教えてもらおうかと思って」


 おそらくここは日本じゃない。

 そう思ったのはまずはこいつらの服装。他人のことを言えたものじゃないけど、実際日本でこれだけ質の悪そうな布地の服を着ている人なんてほとんど見たことがない。そして男の持っていた剣と革の鎧に加え、今かじっている男が使っていた弓矢。あの青服共でも鉄の棒(鉄ではないがクロエの認識では鉄)と拳銃だったし、時代が明らかに違いすぎる。

 そもそもこいつらは黒髪黒眼といった日本人の特徴を何一つ持ってない。

 なら理由は分からないけど、川に飛び込んだ末辿り着いたのは日本じゃないということになる。


「あなたたち、日本って分かる?」

「二本…………?」


 男がレイラと呼んでいる少女がきょとんとして言葉を繰り返すがイントネーションが微妙に違う気がする。


「国の名前よ」

「き、聞いたこともないわ」


 ふーん、少なくとも簡単に日本に帰れるような場所ではなさそうね。好都合だわ。


「じゃあここはどこなの?」

「腐食の森、だけど」

「森なのは見たら分かるわ。森の名前を聞いてるわけでもないの。あなたたち、地図とか持ってないの?」

「ち、地図ならミルが……」

「ミル?」


 女の視線を追うと片腕の男と目があった。


「あなたがミル?」

「は、はい。地図ならこちらにあります」


 そう言ってミルが地図を差し出して来るので、レイラの頬から手を離して地図を受け取った。

 ふむふむ、全然分からないわね。


「で、この森は地図のどこになるわけ?」

「ここです」


 男が指さすところには確かに森のような絵が書き込まれている。

 文字らしきものも書いてあるが全く読めない。

 さすが外国ね。

 森の近くには建物が集まっているような絵が描かれているところがある。

 それにしてもこれで地図なのね。ざっくりしすぎだわ。


「ということは一番近い町はここってわけ?」


 そう言って建物が集まっていた箇所を指差すと男は返事をして頷いた。

 やっぱりそうか。

 でも私人の多いところってあんまり良い思い出がないのよね。追い回されてばっかりだったし。


「さて、ここで問題です」


 二人を見て笑みを浮かべて問う。


「私はとてもお腹が空いて困っています。人間一人食べてもお腹はいっぱいになりません。人間を四人食べても絶対にお腹が空いています。ではどうすれば私は幸せになれるでしょうか?」

「ま、まさか人間の街を襲うつもりですか!」


 男が詰め寄ってくるので人差指で頭を押し返す。


「あなた馬鹿?そんなことしたら糞どもが大挙して追いかけまわしてくるでしょうに」


 経験者だからね。人間が大勢いるところでそんなことをしたらどうなるかくらい分かっているわ。なぜか奴ら仲間意識があるからね。私以外の人間に対してだけど。

 そうなったらゆっくり食事をする時間も寝る時間もなるなるし、もし捕まったらどんな目に合されることか。


「こうやってゆっくり人間を食べていられるのも人が少ないからよ。それと別に私は人間にこだわってるわけじゃないわ。お腹いっぱい食べられるなら何でもいいし。その上美味しければまさに言うことなしね。だからもしそんな方法をあなたたちが知っているなら三人くらい食べなくても我慢できる、かも?」

「ぎ、疑問形…………お腹いっぱい食べる方法、ですよね。ええっと、街に行ってお金を払って食べるんじゃダメなんですか?」

「お金持ってないもの」

「仕事をすれば…………」

「お金が手に入るまであなたたちが私のお腹の中に入っていなかったらいいわね」

「で、では冒険者なんてどうでしょうか!モンスターを倒せば肉は全部食べられますし、お金ももらえますから、お金を払って料理を頼むことだってできますよ!あなたほどの腕前があればきっと食事には困らないはずです!」

「馬鹿ガキッ!それを言ったら……」

「え?」


 料理女が男に向かって声を上げた。


「うるさいわね。話の邪魔をする暇があったら料理に集中しなさいな」


 そう言って手に持っていた肉をひとかじりして睨みつけると、料理女は愛想笑いを浮かべてすごすごと料理に戻った。


「で、その冒険者っていうのは私でもなれるの?」

「無理、でしょうか」

「それはどうしてかしら?」

「その格好もそうですが、まず人前で人間を…………というか、料理されていない生肉を食べるような行為は良くないです」

「あら、どうして?」

「それはモンスターのする行動だからです。生肉…………ましてや人間を食べているところを見られたりなんかした日には、すぐにでもモンスター認定されて討伐対象となってしまうと思います」

「人前で人間も生ものも食べちゃダメ、ね。分かったわ。見られなければいいのね」

「い、いえそういう問題では…………」


 料理されたモノ以外は隠れて食べればよかったのね。全然知らなかったわ。


「今私はあなたたちの目の前で生肉を食べてるわけだけど、それはどうなの?」

「できればやめてもらった方が…………、見捨てられた立場とはいえ一応仲間でしたから」

「分かった。すぐに済ませてあげるわ」


 私は快く承諾して残った肉を一気に口の中へと押し込んでいく。。

 股間についていた謎のでっぱりも一口で噛みちぎってグチャグチャ噛んでいると、男も女もそれを見て胃のものを吐きだしてしまった。

 あらら、食べたものを吐き出すなんてもったいないことするわね。


[人間弓士完・食! 取得経験値 853 取得能力値 猟兵の器用 取得スキル 弓技Lv5 罠設置Lv4 罠解除Lv3]


「ごちそうさま。これでいいわね」

「もうやだ…………」


 女の方が顔を引き攣らせて泣いて酷い顔になっている。なんでかしら。せっかく傷も綺麗に治って新鮮さに磨きがかかっていたのにもったいない。でもあの葉っぱが付いた顔もいい感じに美味しそうだったわね。


「で、あとはどうすればいいんだっけ?」

「どこかでその、血を落として、服を着替えて街の冒険者ギルドにいけば冒険者として登録することができます。少しばかり手数料がかかりますが……」

「手数料?」

「ええっと、これです」


 そう言って男はズボンのポケットからカードを取り出して私に手渡した。

 何やら文字が書かれているが当然読めない。


「こういった冒険者証を作ってもらうのにお金がいるんです」

「で、そのお金は?あなたがくれるの?」

「僕から貰わなくてもその袋の中になら入っているかと思いますが…………」

「そうなの?どれどれ」


 袋の中を漁ると何やらじゃらじゃらと音の鳴る袋が見つかった。


「たぶん、それだと思います」

「へぇ?」


 中を開いてみると金属の硬貨が数十枚ほど入っている。


「後は血を落とせばいいんだっけ。料理してる間にちょっと身体を洗えそうなところでも探してくるわ」

「い、いってらっしゃい」


 遥か遠く離れたところから水の音がかすかに聞こえてくるから川か何かはあると思うんだけど。

 三人に見送られて水場を探して森の中を徘徊していると木の上から蛇が飛びかかってきたのでキャッチしてオヤツにした。


[森蛇完・食! 取得経験値 32 取得能力値 取得スキル]


 蛇は頭を潰せばすぐに死ぬから食べやすいのよね。


 水場、というか川は思いのほかすんなり見つかった。

 着ていたボロを脱ぎ捨て、川の浅瀬に入って髪や身体をじゃぶじゃぶと洗い、血と汚れをこすり落としていく。

 ひんやりと冷たい水に身体が強張ってしまうが仕方がない。

 自分の身体を見ると骨と皮しかなかったあの頃と比べ、ほんの少しふっくらとしてきたような気がする。お腹は相変わらず空いているけど、しっかり栄養にはなっているようだ。


 川から上がって髪をしぼった後は、体が乾くまでその場でじっとその場で待つことにした。

 せっかく身体が綺麗になったのに濡れたまま動いて汚れるのも嫌だし、この汚い服も着たくない。

 そして身体が十分に乾いてから裸のまま緑人間の集落に戻ろうとしたら、緑人間の生き残りが2匹襲いかかってきたので美味しくいただいたらまた血みどろになってしまったので、再び川で血を洗い流すことにした。


[ゴブリン完・食! 経験値 12 取得能力値 取得スキル]

[ゴブリン完・食! 経験値 21 取得能力値 取得スキル]


 再び身体が乾くのを待って集落に戻るとそこには三つの死体が私を出迎えてくれた。

 一つは色々と教えてくれた片腕の男ミル。もう一つは顔の治った女レイラ。最後は料理された人間の男。

 そしてお金やらポーションやらが入っていた荷物袋と片腕の男が使っていた剣、それに加えて料理女の姿が見当たらない。

 ふーん、なるほど、ね。逃げたんだ?

 まぁ料理女がここに留まっていたとしても我慢できた自信はなかったわね。


 死んだ人間たちの顔を見ると揃って紫色に変色しており、血を吐いて苦しそうな表情を浮かべて死んでいる。

 その傍には干からびて硬くなった小さな肉が落ちているが…………。

 拾い上げて口に含んでみると、ピリッと舌を刺激するような味がした。。

 この味…………。あの緑人間を使った毒料理に使われた調味料、つまりあのときの毒によく似ているような気がする。

 でもこれはこれで悪くないのよね。ピリ辛で美味しいわ。

 よく噛んで味わってから飲み込むとまた文字が浮かび上がってきた。


[ブルーブルの干し肉完・食! 取得経験値1 取得能力値 なし 取得スキル なし]

[確殺植物クビトリカブト1/12食 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル なし]


 だから読めないっての。


「さて、どうしたものかしら」


 料理女はどっちに逃げたか分からないし、目の前には動かない三つの肉塊。


「あーあ、せっかく我慢してたのに無駄になっちゃった。残念。ほんっとうに残念だわぁ」


 口の中が唾液でぐじゅぐじゅになる。


「ウフ、でもどうせお腹が空いて我慢できなかったかも。だってこんなに美味しそうだもの!そこに来てこの展開!これは仕方ないわよねぇ?だって死んでるもの!うん、非常に遺憾よ!遺憾だわ!」


 悲しすぎて口から涙が溢れ出て止まらない。

 私は彼らの死を一生懸命嘆き悲しみ、心を痛めて、口から出る涙でドロドロになりながらも、モノ食べられなくなった死体を目の前にして膝をついて手を合わせて感謝の言葉を捧げた。


「いただき・ます!!!」


[人間神官完・食! 取得経験値 302 取得能力値 神官の知性 神官の魔力 神官の魅力 取得スキル 鈍器Lv2 神聖魔法Lv3]

[確殺植物クビトリカブト完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル なし]

[剣士ミル完・食!! 取得経験値 1261(-157) 取得能力値 なし 取得スキル 剣技Lv4]

[魔術師レイラ完・食!! 取得経験値 629 取得能力値 魔術師の魔力 取得スキル 杖術Lv1 精霊魔法Lv4]



 美味びみだわ!!!

名前 黒絵(クロエ)

クラス 魔物喰らい

レベル 14 (経験値4487)

 力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性

 体力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する諦めの悪さ

 魔力 Eランク魔術師の半分程度。低レベルの魔法を数回使うことができる。

 知性 Eランク神官の半分程度。肉と野菜の区別がつく。

 敏捷 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する機敏さ

 器用 Eランク弓士が持つ器用の半分

 魅力 若作りショタ神官の半分程度。百人中四十九人に負ける平凡な美貌。肌年齢29歳。

 運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運


装備

 武器 棍棒

 防具 なし


耐性

 毒・麻痺・幻覚・精神喪失

弱点

 光


専用スキル

 存在捕食そんざいほしょく 食べたモノの半分を得る。

 悪食無道あくじきむどう 食べたモノを全て消化する。

 絶交満腹ぜっこうまんぷく 満腹感を完全に失う。


汎用スキル

 繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。

 不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。

 吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。

 猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。

 麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。

 幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。

 マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。

 ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。

 統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。

 斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。

 剣技Lv4 剣の扱いにボーナスを得る。

 鈍器Lv2 鈍器の扱いにボーナスを得る。

 杖術Lv1 杖の扱いにボーナスを得る。

 弓技Lv5 斬撃攻撃にボーナスを得る。

 精霊魔法Lv4 精霊魔法を扱うことができる。

 神聖魔法Lv3 神聖魔法を扱うことができる。

 罠設置Lv4 罠の設置にボーナスを得る。

 罠解除Lv3 罠の解除にボーナスを得る。

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クロエすこ
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