第五話 質も量も
私は剣で突き殺した男と、上半身のない弓の男を引きずって緑人間たちの集落へと戻ると、そこには毒を盛りやがった料理女と片腕の男と顔に包帯を巻いた女が三人とも残っていた。
よしよし。
「ねぇ、これも料理してくれない?」
剣の突き刺さった男の方を料理女に向かって差し出すと、男の目から眼球が零れおちた。
「ひっ!」
「返事は?」
「こ、この人を料理すればゆ、許していただけ……」
私は女の言葉をさえぎるように襟首を掴んで強引に引き寄せてからにっこりと笑い、仏心を持ってもう一度だけ聞いてあげることにした。
「返事は?」
「は、はい!誠心誠意作らせていただきます!」
「これは食べないから抜いておくわね」
男の首に突き刺さった剣を引き抜くと血がドクドクと溢れ出てきた。
「ひ、ひぃ!」
「それじゃあ急いでね」
「は、はいぃぃぃ!」
料理というものは出来るまでが本当に暇である。
手持無沙汰になった私は残った方の男の下半身にかぶりつきながら料理ができるまで空腹を紛らわせることにした。
うーん、下半身より上半身の方が美味しかったわね。下半身は匂いも強いし。上半身を後に残しておくべきだったかしら。失敗だわ。
食べる順番を後悔しながら肉の味をクチャクチャ噛みしめていると、片腕の男が恐る恐る私に近付いてきた。
「あの…………」
「なに?」
「こんなことを頼むのは筋違いかもしれませんが良かったらその…………ポーションを分けてもらえませんか」
「ポーション?なにそれ?」
「か、回復薬のことです」
「それって食べモノ?」
「い、いえ、どちらかというと飲み物ですが…………、普通喉を潤すのではなく傷を癒やす効果があります」
「へぇ、そんな飲み物があるのね。でも残念ながら私は持ってないわよ」
「そちらの商人さんの持ってる袋の中に見えたので……」
「ふーん?」
料理女の方を横目でちらりと見ると、女はビクッと身体を震わせた。
これは面白そうだわ。
「ウフフ、食べモノじゃないなら全部飲んでいいわよ」
「そ、そんな!これだけあれば一カ月は遊んで暮らせるのに!」
料理女が悲鳴のような声をあげて言った。
さも自分の物のような口ぶりだけど、それはあなたのモノじゃないでしょう?
「ほらほら、手が止まってるわよ。それともなに?今すぐにでも食べて欲しいのかしら?」
「ひゃい!」
「私がいいと言ってるからいいのよ。その袋は緑人間から奪った私のモノなんだから」
そう言うと料理女は諦めたように頭をたれて袋を男に向かって差し出した。
「う、うぅ…………どうぞ好きにしてください」
「で、ではいただきます。あ、ありがとうございます!」
そう言って片腕の男は私に向かって頭を下げた。
「…………感謝なんて初めてされたわ」
本当にびっくり。
でもよく公園に居たおじいさんの言うとおりだったわね。
感謝でお腹は膨れないって。残念だわ…………。お腹も空いたわ…………。クチャクチャ。
「な、なんでそこで残念そうな顔をするんですか!私のポーション……」
「手」
「ひゃい!」
料理に戻った料理女を余所に男が残った片手で大きな袋をごそごそと漁りはじめたかと思うと驚いたように大声をあげた。
「こ、これはキュアポーション!?しかも三つも!」
「チッ」
料理女が手を動かしながらも舌打ちをする。
見つけてほしくなかったのかしら。ウフフ、いい気味だわ。私の料理をダメにした罰ね。
「レ、レイラ!これがあればそんな傷もすぐに治るよ!」
男が慌てたようにレイラと呼ばれた女のもとに駆け寄って顔の包帯を外すとそこには大量の葉っぱがくっつけてあった。
その隙間から血が滲んでとっても痛そうだ。
「何それ?おしゃれ?」
だとしたらとっても変よね。
おしゃれって可愛くなるためにするものでしょう?少なくとも可愛くはないし、美味しくも…………美味しそうね。
「い、いえ、薬草を貼り付けて応急処置をしていたんです」
どうやら食材を彩っていたわけではないらしい。
レイラは男から逃げるように顔を背けると、男は慌てたように謝りながらレイラにポーションを飲ませた。
すると不思議なことに一本飲みきると砕けた鼻が元に戻り、二本目を飲みきるとなんと傷も消えて元通りになってしまった。
「ふーん。そういうものなのね」
「あ、ありがとうございます!」
「…………ありがとう」
男の方は土下座で。女の方は戸惑いながら私に向かって言った。
また感謝されたわ。
にしてもこれは面白いわね。もしかしてそのポーションとやらを使ったら男の腕も生えてくるのかしら。それならポーションがある限り永久に食べ続けられることになるわけだけど。想像しただけで口の中が唾でぐじゅぐじゅになる。
私は食いかけの下半身を持ったまま立ち上がって男からポーションを奪い取ると、男の口に瓶の口を押し込んだ。
「飲みなさい、ジュル」
「え……」
男は唖然としながらもされるがまま抵抗しない。
ごくごくと喉を鳴らして飲み干す頃には腕の傷は完全に塞がっていた。
本当にすごいわね、これは。
しかし残念ながら傷は塞がったものの腕が新しく生えてくることはなかった。
「チッ」
生えないのかよ。
期待してた分、ガッカリだわ!
料理女を真似て舌打ちするとちょっとだけ気持ちが良かった。
舌打ちもなかなかいいわね。
「あ、ありがとうございます?」
「ねぇ、それしか言えないの?」
「い、いえ、そういうわけではありませんが…………」
なんだか感謝ばっかりで飽きてきたわ。もう感謝なんていらない。お腹も膨れないし。
じゃあそろそろ本題に入ろうかしら。
「で、あなたたちは何で私に襲いかかってきたの?もしかして私を捕まえて食べるつもりだった?」
「い、いえ!その、僕たち冒険者はモンスターを倒すのが仕事だから…………」
「モンスターって?」
「に、人間に害をなす魔物…………と教えられています」
「ふーん、ならあなたたちもモンスターね」
「え?」
「だって私に害をなそうとしたじゃない」
「あ、あなたは人間なんですか?」
「どっからどう見ても人間でしょう?」
そう言って私は胸をはってみせた。
腕も二本、足も二本。目も二つしかないし、角も生えてない。肌も肌色だしこんな動物がいたら逆に驚きだわ。
ふふんと鼻で嗤って人間の足を噛みちぎって咀嚼する。はぁ、上半身が恋しい。まだ料理はできないのかしら。
「に、人間は人間を食べないと思いますが…………」
「ふーん、ならお前はそこの女が今にも飢え死にしそうな状況で、人間の死体が目の前にあっても、喰わずに死ねってそういうわけ?アハッ、随分とお優しい坊やだこと。よしよし、いいこいいこ」
よしよしと男の頭を撫でてやると男は「やめてください」と私の手から逃れようとする。
しかし私はそれを許さずに頭から手を放して顎をつかんで顔を無理やり私の方へと向けて言った。
「でもね?私は食べるのよ。人間でも緑人間でも、そこの料理女が作った毒入りの料理だろうとね」
そういうと料理女がびくっと肩を震わせた。
「で、ではどうしてあなたの命を狙った僕たちをその…………見逃してくれたんですか?」
「分らない?」
男から手を放し、今度は顔の治った女の両頬を手で挟み込んで問いかけた。
「あなたは?」
「わ、分からないわ」
私の手から逃れようとするする女を無理やり上に向かせると白くて柔らかそうなのどもとが目に入ってくる。あら、美味しそうね。
女は真っ青になってガタガタ震え始める。そんなに怯えなくてもまだ食べるつもりはあんまりないのに。
「あなたたちは非常食なんだから」
名前 黒絵(クロエ)
クラス 魔物喰らい
レベル 11 (経験値1534)
力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性
体力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する諦めの悪さ
魔力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前にしても発揮されない枯れ井戸
知性 ゴブリンに負ける商人程度の三分の一。本能まっしぐら。
敏捷 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する機敏さ。
器用 ゴブリンに負ける商人程度の四分の一。かた結びもできない。
魅力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に捨て去った魅力の残りカス
運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運
装備
武器 ロングソード×棍棒
防具 ボロい布きれ
耐性
毒・麻痺・幻覚・精神喪失
弱点
光
専用スキル
存在捕食 食べたモノの半分を得る。
悪食無道 食べたモノを全て消化する。
絶交満腹 満腹感を完全に失う。
汎用スキル
繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。
不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。
吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。
猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。
麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。
幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。
マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。
ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。
統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。
斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。
剣技Lv3 剣の扱いにボーナスを得る。
鈍器Lv1 鈍器の扱いにボーナスを得る。