第四話 食い気に勝るものなし
女が驚いたように目を見開いて私の胸元を見る。
つられて自分の胸元を見ると、胸から一本の矢が生えていた。
痛い、血が溢れてくる。
「なによこれ……」
振り返ると見知らぬ人間が四人。
そのうちの一人が弓を構えて二射目を射ようとしている。へぇ……、あいつがやってくれたんだ?
「お前ら気をつけろ!相手はこのゴブリンの集落を全滅させるほどのモンスターだぞ!」
「人型…………、ってもしかしてヴァンパイアなの!?」
「いや、よく見ろ!肌の色が違う!おそらく食人鬼だ!」
「食人鬼がたった一匹でこの集落を全滅させたって言うの!?馬鹿も休み休み言いなさいよ!」
「たぶん変異種なんだろうよ!おいそこの女!早く逃げろ!」
四人の人間たちがこっちを指差して何やら喚き合っている。
よくも私の食事の邪魔をしてくれたわね?許さない。許せないわ。許せるはずないわよね?ねぇ!!!
「逃げたりなんかしたら地の果てまで追いかけてくびり殺してあげるわ」
料理女にそう言い残して私は振り返り、そばに置いてあった棍棒を拾いあげて一団に向かって走りだした。
「チッ!」
走り出したところを狙われるが、体をひねって射線を避ける。
「鬼ごっこは得意なのよ。そんな馬鹿正直な攻撃が当たるわけないでしょう?」
「くそっ!」
子を捕まえたかったらもっとフェイントを入れて上手く誘導してあげないとダメダメなのよ?
「契約に従い敵を貫け!フレイムアロー!」
敵の女が杖を掲げて声をあげるとそこから一つの炎が生みだされた。炎は激しく燃え盛り、鋭い槍のような形となって宙に浮かび上がる。
は?なにそれ?手品?
凄いわ……。でもそんなに無防備で大丈夫なのかしら。
杖を掲げてどう見ても無防備な女に向かって棍棒を振りかぶってぐるんと周り、遠心力を思いっきり乗せて女の顔面に向かって投げつけてみる。
「あ・げ・る」
それと同時に女の杖から炎の槍が発射され、炎と棍棒がすれ違うように交錯する。炎の槍をなんとか避けようと試みるが、私の避ける方向へと少しずつ進路を曲げて近づいてくる。
まずっ。このままじゃ避けきれない!
私は咄嗟に左手を犠牲にして炎の槍を打ち払った。
まるで筋肉が剥き出しになってしまったかのような痛みが走り、腕から先が焼けただれて見るからに使い物にならなくなってしまったが、私の投げた棍棒も見事に女の顔面を殴り飛ばしていた。
「レイラ!」
「あらぁ?他人の心配をしている暇があるのかしら」
意識を失い、倒れようとしている女を抱きとめようと必死に手を伸ばす男のもとへ低く身を下げた姿勢で駆け寄り、下から手を伸ばしてその腕のを掴んで笑みを浮かべて大口を開く。
「いただき・ます!」
二の腕に思いっきり噛みついてそのまま男の腕を力いっぱい引っ張り、二の腕から先を骨ごと引きちぎってやった。
「ぐあああああああっ!!!」
千切れたところから血が飛び散り、顔に男の新鮮な血がべったりと付着する。
しかしそこで矢が飛んできて私の左目へと突き刺さる。
「痛っ」
「馬鹿野郎が!敵から目を離すな!」
私は敵の集団から逃れて木の陰を盾に隠れると、胸と目に突き刺さった矢をためらうことなく引き抜く。
クソッ、左目が完全に見えないわ。
「よくもやってくれたわね。おっと」
向こうの様子を伺おうと木の陰から覗き込んだところへ矢を射られたが、寸でのところで木の胴体に突き刺さった。
はぁ…………、もうやってらんないわ。なんでいつもいつも私ばっかり人間に追いかけてまわされなきゃいけないのかしら。なんだが腹が立つってきたわ。もうやけ食いよ。
私は先ほど捕ってきた戦利品である男の腕にかぶりついた。
ガブッ、クチャクチャクチャ。
「あいつ、こんな状況で食事を!」
「あ、あぁ…………レイラ!レイラ!」
バキッ、グチッ、ゴクン、バキッ、グチャ、ゴクン!
[人間剣士1/8食 取得経験値 157 取得能力値 なし 取得スキル なし]
美味しかったっ。
やっぱり人間の方が緑人間よりよっぽど美味しいわね。腐ってさえいなければ、の話だけど。
やれやれ、ゆっくり味わう暇もないのは本当に残念だわ。
「あ、あいつ…………、もう傷が癒えて…………くそっ!やっぱりグールなんかじゃねぇ!化け物だ!」
さっきから景気よく矢を打ちまくってた男が吐き捨てるように言った。
あら、本当。目が見えるようになったわ。いつの間にやら左手も治っちゃってるし。ウフフ、食べモノの力って本当に偉大ね。
でも女の子に向かって化け物って失礼じゃないかしら?
「に、逃げよう!」
「ダメだ!レイラを癒してくれ!まだ息があるんだ!」
「馬鹿かお前は!このままだと皆殺しだぞ!レイラは置いていく!もしかするとそれで満足してくれるかもしれねぇし、時間稼ぎくらいにはなるだろう!」
「いやだいやだいやだいやだ!」
「餓鬼が、クソッ!ヘイソン、いくぞ」
「あ、ああ」
何やら勝手に仲間割れを始めて弓の男についてもう一人の男が走り去っていく。
残ったのは片腕で剣を持った男と顔を潰した女だけ。ああ、あと私に毒を盛りやがった料理女もちゃんとまだいるみたいね。
よかったよかった。追いかけることになったらまたお腹が減ってしまうところだったわ。
さて、どうしたものかしら。
私は木から出て堂々と残った人間たちに近付いていく。
「く、来るな!レイラは僕が守る!ぼ、僕たちは生きて帰るんだ!」
男は震える腕で剣を構えているが今にも取り落としてしまいそうなほどによわよわしい。
ぷるぷるしててなんだか美味しそうだわ。涎が出ちゃう。でも。
「とってもいいこと閃いちゃったわ」
ここでこいつの相手をしていたら、逃げた奴らを完全に見失ってしまう。
こいつは逃げないみたいだし、顔の潰れた女は意識を失っているようで動けそうにない。
なら少しでもたくさん食べるために、どうすればいいのかなんて簡単な話。
「あなたたち、食べ残してあげてもいいわよ?」
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「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、なんだ、なんなんだあの化け物は!」
汚いぼろきれを纏って安物の棍棒なんか持ってどこからどうみてもただの食人鬼にしか見えなかった。
なのにグールとは思えない俊敏さと攻撃を受けても怯みもしない生命力。
そして何より最高クラスの神官が使う治癒魔法のような回復力をただ肉を食べただけで発動しやがった。
どう考えても俺たちのようなDランク冒険者が手に負える相手じゃね!。
まじでついてねぇ!ただのゴブリン狩りがこんなことになるなんて!!!
「おい!ヘイソン!ついてきてるか!」
神官であり、パーティー唯一の回復役であるヘイソンに声をかけるが返事がない。
「おい、ヘイ…………」
後ろへ振り返りながら声を掛けようとして俺は息をのみ込んだ。
ヘイソンは木を背にして力なく立っている。
目を凝らしてよく見るとその喉元に剣が突き刺さり、おびただしいほどの血が流れ落ち、木に縫い付けられているのが見えた。見えてしまった。
「うそ……だろ……」
「ウフ、タイヘンザンネンデシタァ」
視界いっぱいを女の顔が覆ったかと思うと、首もとに熱く燃えたぎるような熱を感じる。
骨の砕けるような音が頭に響くが痛みはまるでない。
いや、それどころかむしろ気持ちいい。
なんだ、これ。まるで極上の女に抱かれているみたいだ。いや、それ以上か!
アハッ、アハハッ、俺、食べられてるっ!食べられてるのに!
超気持ちいい。なんだこれ!ハハッ、最高だ!最高にハッピーじゃねぇか!
何で今まで逃げてたんだろう?ばっかじゃねぇの俺!
もっともっともっと俺を食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!食べて!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!タベテ!ボクヲタベテクダサイ!アヒャッヒャヒュヒャッヒュヒョッ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
名前 黒絵(クロエ)
クラス 魔物喰らい
レベル 11 (経験値1534)
力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性
体力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する諦めの悪さ
魔力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前にしても発揮されない枯れ井戸
知性 ゴブリンに殺される程度の商人が発揮する理性の三分の一
敏捷 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する機敏さ
器用 ゴブリンに殺される程度の商人が発揮する器用さの四分の一
魅力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に捨て去った魅力の残りカス
運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運
装備
武器 ロングソード×棍棒
防具 ボロい布きれ
耐性
毒・麻痺・幻覚・精神喪失
弱点
光
専用スキル
存在捕食 食べたモノの半分を得る。
悪食無道 食べたモノを全て消化する。
絶交満腹 満腹感を完全に失う。
汎用スキル
繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。
不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。
吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。
猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。
麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。
幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。
マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。
ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。
統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。
斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。
剣技Lv3 剣の扱いにボーナスを得る。
鈍器Lv1 鈍器の扱いにボーナスを得る。