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第三話 隠し味は隠れない

 その声に振りおろそうとしていた棍棒を思わず止めてしまった。

 死にそうな顔をした人間の女と目が合う。

 私に負けず劣らず汚らしく汚れた服を着て頭を手で守るように抱えて怯えた目でこちらをみている。


「ふーん、あなたしゃべれるの?」

「は、はははは、はい」

「私、とてもお腹が空いてるの」

「わ、私を食べてもおおお、美味しくないです!」

「ウフ、そうかしら」


 私は女の首元に顔を近づけて鼻を鳴らしてくんくんとにおいを嗅ぐ。

 すると美味しそうな肉と脂の匂いが汚物の匂いと一緒に漂ってきた。汚物の匂いは仕方がない。この緑人間たちの集落に閉じ込められていたみたいだし、この場で用を足していたのだろう。

 それにしても柔らかそうな肉。柔らかいって言ってもあの腐った肉と違って張りがありそう。断言するわ。この肉は絶対美味しい。


「あなたからはとっても美味しそうな匂いがするわ。自信を持っていいわよ。あなたはきっとこの森で一番美味しいと思うから」


 血濡れて乾ききっていない手で女の頬を撫でると赤い血がべっとりと付いた。

 食事には彩りも大事よね。


「ひっ、ひぃ、お、美味しいものが食べたいならわ、私作れます!なんでもしますからど、どうか命だけはた、助け……」

「へぇ、あなた料理できるの?」

「は、はい!料理でも掃除でも洗濯でも何でもできます!」

「そう、ならそこで頭の潰れてる緑人間を料理できる?美味しかったら()()あなたを食べなくていいわ」


 そう言って私はさっき頭を潰してまだ手をつけていない緑人間を指差した。


「緑人間って…………ゴ、ゴブリン…………ですか?」

「ゴブリン?」

「あ、あの緑の魔物のこと……です」

「そう…………で、遅くなればなるほど私のお腹が空いてあなたを食べたくなるわけだけど」

「す、すぐ作らせていただきます!」


 人間が慌てたように起き上がり、逃げるように囲いの側に置いてあった荷袋に手を突っ込んで何やらごぞごぞ漁りはじめた。

 袋からよく分からない草やら粉やらを大量に取り出して、震える手でナイフを使って緑人間を切り分け、焚き火を起こす。

 これはしばらくがかかりそうね。


「あ、あの、これ、全部食べるんですか?」

「ええ。お腹が空いて仕方がないの。本当はもっと食べたいんだけど今はこれと……ウフフ、あなたしかいないから」

「い、急いで作ります!」

「そうしてちょうだい」


 私は女に料理を任せてその場で寝っ転がった。

 お腹が空いたときは寝てごまかすに限る。

 私はずっとそうやって生きてきた。

 緑人間の焼ける匂いが漂ってくる。

 あの臭かった緑人間からこんなに香ばしくて良い匂いがしてくるなんて料理って本当に不思議だわ。まるで魔法みたい。

 お腹の自己主張がぐぅ~ぎゅるるるるるるると凄いことになってる。


「よ、よく食べられるんですね」


 目を閉じていると人間が料理をしながら話しかけてきた。


「ええ、いくら食べても足りないのよ」

「あ、あの、あなた様は人間ではない…………ですよね」

「人間よ」

「え!?」

「えってなによ」

「だってさっき人間の死体を……」

「死体を?」

「食べてました……よね」

「お腹が空いてたからね」

「お、お腹が空いたら食べるんですか……」

「食べるわ」

「そんな…………」

「ならあなたはそれが緑人間じゃなくて人間だったら料理しなかったのかしら?私に大人しく食べられる方を選んだ?」

「それは…………」

「飢え死にするくらいなら何だって食べるわ」

「そう…………ですね」


 ぐぅぅぅぅぅぅぅぐううううぅぅぎゅ、と私のお腹も同意した。

 それでお腹も満足したのか、辺りを沈黙が支配する。


「…………私たちは行商の途中にここのゴブリンたちに襲われたんです」


 そう言って女がぽつりぽつりと言葉をこぼし始めた。


「護衛をしてた冒険者さんたちも多勢に無勢で殺されちゃって、私以外にもみんな捕えられてあそこに押し込められて…………一人ずつ殺されて、私だけ生き残って、みんな、みんな死んでしまいました。あそこは、ゴブリンたちの食糧庫だったんです」

「そう」

「食べかけの死体と一緒に入れられて。もしかすると私は繁殖用として生かされていたのかもしれません…………」

「それが本当だとしたらあいつらも馬鹿よね。こんなに美味しそうなのに。ウフフ、心配しなくても今作ってるやつが不味かったら口直しに味見してあげるわ」

「ひっ」

「この匂いからすると残念ながらそうはならないだろうけど」

「が、頑張らせていただきます……」


 楽しみだわ。

 料理されたモノを食べるのなんて何年ぶりかしら。

 この森に来てから前よりもお腹が空くようになったけど悪いことばかりじゃないわね。

 青服の馬鹿どもに追いかけまわされることもないし、こうやってゆっくり寝ることもできる。

 ここは平和なところね。

 もしかして天国かしら?

 そんなことを考えながらうつらうつらしていると、程無くして待ちに待った料理が完成した。


「ど、道具や調味料があまりなくてこのくらいしかできませんでしたが、お、お口に合えばよろしいのですが……」


 目の前にはぶつ切りにされて味付けして丁寧に焼き上られた肉が湯気をあげて鎮座している。

 やばいわね。この匂いを嗅いでいるだけでますますお腹が減ってきたわ。


「それじゃあ、いただきます」


 手近な腕の部分から手づかみで食べる。

 がぶりっ、ぎゅむ、ぎゅむ、ぎゅむ、ごくん。


「これは…………」


 なんの抵抗もなく食事がお腹の中に納まることに驚いた。


「ど、どどどどど、どうでしょうか」

「よくやったわ!」


 ガブッ、しゃくしゃくしゃく。

 とてもあの臭い緑人間と同じ肉とは思えない!

 臭みを抜きつつ、硬くなりすぎないようにじっくり焼き上げられている。むしろ生で食べるよりも柔らかいってどういうこと?

 それにこれ。

 パキッ!

 この骨の芳ばしさ!美味しい!味付けも塩味だけじゃなくてピリっとした辛味がアクセントになってすっごく美味しくなってるんだけど!こんなに美味しいものは本当に久しぶりだわ!それにものすごく食べやすい!これならいくらでも入るわ!


 私は夢中になって目の前にある料理を口の中へと詰め込んでいった。


[確殺植物クビトリカブト完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル 猛毒 強(1/2) 耐性:毒(1/2)]

[確殺植物クビトリカブト完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル 猛毒 強 耐性:毒]

[確殺植物クビトリカブト完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル なし]

[確殺植物クビトリカブト完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル なし]

[昇天植物ハッピーエンジェル完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル マインドブラスト 強(1/2) 耐性:精神消失(1/2)]

[昇天植物ハッピーエンジェル完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル マインドブラスト 強 耐性:精神消失]

[極楽植物タマケシの実完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル 幻覚(1/2) 麻痺(1/2) 耐性:幻覚(1/2) 麻痺(1/2)]

[極楽植物タマケシの実完・食! 取得経験値 0 取得能力値 なし 取得スキル 幻覚 麻痺 耐性:幻覚 麻痺]

[ゴブリン完・食! 取得経験値 22 取得能力値 なし 取得スキル なし]


「ごちそうさま」


 時間はかかったけど料理されたものを食べるのって本当に幸せなことなのね。

 待った甲斐があったわ。

 食欲は相変わらず満たされないけど、それ以外のものが満たされたような気がする。


「あ、あの…………」

「なに?」

「その…………なんとも…………い、いえ…………」


 何とも歯切れの悪い反応が返ってきた。

 女の顔をじっと見つめると、ただでさえ顔色の悪かった女の顔がますます青褪めていく。

 美味しく食べられたんだから何の問題が?なんだか怪しいわね。

 もしかして…………ふーん、なるほど。そういうわけか。

 私はぺろりと唇の周りに残っていた味の元を舐めて言った。


「ねぇ、もしかしてあなた、毒でも入れた?」


 小首をかしげて女に優しく問いかける。


「え…………」

「入れたかっつってんの」


 人間の首を掴んで無理やり地面に押し倒して馬乗りになると、手に少しずつ力を込めて締め上げていく。


「その足りないオツムでよぉく考えてから答えてくださいね?お前は、この私の食事に、毒を盛りやがったんですか?」

「ひくっ…………」


 女は顔が引き攣り、声にならない悲鳴をあげる。

 私はそんな女の頬を味見するようにゆっくりと舐め上げてからもう一度問いかけた。


「もしかしてお前はぁ、私の大事な大事な食べモノ様にぃ?手を出し腐ってくれたんですかって聞いているのですけれど?聞こえてますかぁ?」

「ご、ごめんなさい…………ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 女は涙と鼻水を垂らしながら壊れた玩具のように謝り続けた。

 けれど私には許せないものが一つだけある。それは私の食べモノに手を出す奴と、食べモノを粗末に扱う奴だ。あら、二つだったわね

 だから私はこの女を許さない。許す理由もない。

 私の食べモノに手を出した罪、お前の肉でもって贖うがいいわ。


「私の言ってることが聞こえないこの糞みたいに役立たずな耳なんてもういりませんよ、ね?」


 そう言って私は満面の笑みを浮かべて女の耳に指を添えた。


 トスッ。


「な…………に…………」


 耳を引き千切ろうと指に力を込めた瞬間、胸に衝撃と痛みが襲いかかってきた。

名前 黒絵(クロエ)

クラス 魔物喰らい

レベル 11 (経験値1377)

 力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性

 体力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する諦めの悪さ

 魔力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前にしても発揮されない枯れ井戸

 知性 ゴブリンに殺される程度の商人が発揮する理性の三分の一

 敏捷 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する機敏さ

 器用 ゴブリンに殺される程度の商人が発揮する器用さの四分の一

 魅力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に捨て去った魅力の残りカス

 運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運


装備

 武器 棍棒

 防具 ボロい布きれ


耐性

 毒・麻痺・幻覚・精神喪失

弱点

 光


専用スキル

 存在捕食そんざいほしょく 食べたモノの半分を得る。

 悪食無道あくじきむどう 食べたモノを全て消化する。

 絶交満腹ぜっこうまんぷく 満腹感を完全に失う。


汎用スキル

 繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。

 不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。

 吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。

 猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。

 麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。

 幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。

 マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。

 ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。

 統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。

 斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。

 剣技Lv3 剣の扱いにボーナスを得る。

 鈍器Lv1 鈍器の扱いにボーナスを得る。

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