クソ下手なんだよ
その後の授業は全く集中することが出来なかった。
考えていたのは、ドッペルゲンガーのこと、そして最後に立花に聞かされた予知の内容についてだ。
「日向君家の今日の夕飯はスパゲッティね」
「はぁ?なんだそれ?」
「予知よ。今日の日向君の夕飯を見事当てて見せれば信じてくれるでしょ?」
自信満々の笑みを浮かべて、立花は言った。
「確かにそう言えなくもないかもしれないが・・・」
「なによ?歯切れが悪いわね」
少しムッとした表情を見せて、苛立ち気に立花は言う。
「・・・分かった。見事当たったら信じよう」
立花の様子を見て太陽はすぐに言い直し、立花の勝負に乗った。
「だが!」
「だが?」
「ただ夕飯がスパゲッティと言うのは予知になりきってないんじゃないか?」
「どういう事?」
俺の言葉に立花は首を傾げて訊いた。
「まず、主食ってことを考えると、ご飯、パン、麺でたったの三択だ。その麺類の中でも家庭の夕飯として食されるものなんてそんな数多いわけじゃない。そこからスパゲッティを選び、当たったところでそれは、予想が当たった運の良い奴ってことになるんじゃないか」
「要は今の私の予知は、予知ではなくただの予想だ。と日向君は言いたいわけね?」
ものすごく簡単に要約して立花は言った。
「そういう事だ」
「では、もっと細かく言いましょう」
そう言って立花は不敵な笑みを浮かべた。
そして、立花は目を瞑り、眉間にしわを造り始めた。
「お、おう・・・できるものならな」
太陽も自信満々の立花に抵抗するように笑みを浮かべて言った。
ただ、その笑みも立花の物に比べるとただの強がりのように見えた。
「今日の日向家の夕飯はスパゲッティで、かかっているのはミートソース。とてもおいしそうね。あら?一緒にサラダ?バランスが取れてて素晴らしいわ。ん?食卓には二人分だけね?妹さんと二人だけなの?親は?・・・・・・」
立花の口から夕飯の内容だけでなく、食卓の様子まで事細かに飛び出してきた。
まさか、こんなに言われるとは思わなかった太陽は目を見開き、素直に驚いた。全くついて行けなかった。
そして、さらに驚いたのは、夕飯はまだ分からないが、食卓の様子は全く合っていたからだ。
太陽の家は両親とも働いていて、夜は休日以外はほとんど妹と二人きりだ。だから、今日の夕飯時も恐らく妹と二人きりだが、もちろん立花がそれを知っているなんてことはありえない。
もしかして、本当に・・・・?いやいやいや・・・予知なんてそんな・・・
太陽の心はすでに揺らぎかけていたが、何とか立て直すように首をブンブン振った。
「でも、妹さんの作ったスパゲッティおいしそうね」
太陽は立花の口から最後に放たれた言葉に反応し、首を振るのをピタッと止めた。
「ま、待て・・・今・・・何て言った?」
深刻な顔して太陽は訊いた。
「え?スパゲッティおいしそう?」
「そこじゃない!その前!」
「妹さんの作ったスパゲッティ?」
眉をひそめて立花は言った。
「そこーーーー!」
思わず太陽は叫んでしまった。そして、頭を抱えた。
「ま、マジか・・・」
太陽は膝まづき地面に崩れ落ちた。
「い、いったいどうしたの?」
心配そうに立花は言った。
「妹は・・・」
「え?」
「妹は・・・料理がクソ下手なんだよーーーー!!」
太陽は若干涙目になりながら叫んだ。