架空の存在?
「ははは災難だったな」
体育終了後の教室で後ろの席の日野が笑いながら言ってきた。
「・・・うるさいな」
太陽は鼻に詰めたティッシュを気にしながら言った。
「日向君大丈夫?」
横から今度は女子の声が聞こえた。
「おっ!立花さん!」
その声の主を見た瞬間、日野が興奮し始め、声も裏返っていた。
「・・・ん?大丈夫だけど」
日野とは対照的に落ち着いた様子で太陽は答えた。
「そう。良かったわ」
「もしかして見てたのか?」
「ええ、全部見てたわ」
立花の言葉を聞いて、急に太陽は恥ずかしくなった。
さっきまではあまり気にしてなかったが、女子から見える位置であんな醜態さらすとは不覚であった。
「日野君、ちょっと席を外してくれるかしら」
「え?ああ・・・じゃあ、先に教室行ってるぞ」
次の授業が移動教室なのもあって、日野は特に訳を聞いたりもせず、素直に席を立ち教室を出て行った。
「何か用なのか?」
「ええ、ちょっとね」
立花は髪を耳にかけながら落ち着いた素振りで言った。
「日向君はドッペルゲンガーって知ってる?」
「え?ああ、詳しくは知らないが聞いたことくらいはある・・・自分そっくりな奴が現れて、そいつに会うと死ぬとか・・・」
「ええ、概ね合ってるわ」
立花は特に表情を変えることなく、淡々と会話を続ける。
「さっき、日向君に似た人を見かけたって言ったじゃない」
「ああ・・・ってまさかそれがドッペルゲンガーだって言うんじゃないだろうな?」
「その可能性があると私は思っているわ・・・」
少し顔を俯かせながら立花は言った。恐らくは心配してくれているのかもしれないが、太陽からしてみれば、ドッペルゲンガーなんて架空の存在を簡単に信じるわけにはいかなかった。
もし、ドッペルゲンガーの存在を太陽が信じ、実際に本当の話だった場合、太陽は近いうちに死ぬ可能性があるという事だからだ。
「また妙な事か?・・・」
呆れ顔でため息とつきながら太陽は言った。
「一体どういう妙なことが起きれば、そんなにドッペルゲンガーなんて言う架空の存在に心配・不安になるんだ?」
「その架空の話が現実に起こったらどう?」
真剣な顔つきで立花は言ってきた。
「どういう事だ?」
太陽には立花が何を言っているのか分からなかった。
「詳しくは後で話すわ・・・授業が始まるわ。急がないと間に合わないわよ」
そう言って立花は教室を出て行ってしまった。
そんな立花のことを太陽はすぐ追うことは出来なかった