立花楓
立花楓は特別な人間だ。
学力、運動神経、そして容姿、全てにおいて群を抜いて良いのだ。
太陽も自慢ではないが、頭も良いし、運動もできるし、顔も悪くないと思っていた。(ナルシストではないが・・・)
しかし、太陽の場合は全てにおいて中途半端であった。全てにおいて、悪くはないが極端に良いというわけではなかった。
太陽が中学時代特別になれなかったのは、ただ運がなかっただけだと思っていた。
高校に入学すれば、チャンスがあると、運が向いてきて今度こそ特別になれると思っていた。
しかし、入学して立花に会って自分が自惚れていたことに気付かされた。
「ボーっとしてどうしたんだ?」
体育のサッカーの時間、センターラインの辺りで突っ立っていた太陽に日野が声をかけてきた。
「え、いや」
「なんだ?立花さんのことが気になるのか?」
「べ、別にそんなんじゃねぇよ!」
とは言ったものの全く気にしてないかと言われれば、嘘になる。
現に今も校庭の隅に創られている、フットサルコートで男子顔負けのリフティングをしていた立花のことを太陽は見ていた。
「まぁ、立花さんに憧れないやつはほとんどいないだろうからなぁ」
日野は腕を組み笑みを浮かべながら、うんうんと頷きながら言った。
「憧れか・・・そうかもな」
「ん?なんだって?」
ボソッと太陽は呟くように言ったのを日野は上手く聞き取れなかったようで訊いてきた。
「何でも無いよ」
太陽はそう言い残して、ゴールの方へ走って行った。
多分言っても誤解されるだけだ。
おそらく、太陽が立花に対して思う憧れと日野が言っている憧れは別の物だからだ。
太陽は立花がただ勉強ができて、スポーツが出来て、容姿が素晴らしいから憧れているわけではない。
太陽は努力して努力して、成果を残そうとするものに憧れたりはしない。いや、憧れないと言えば語弊が生まれるかもしれないが、要は尊敬はするが憧れはしないのだ。
立花楓は何でもできてしまうのだ。俗にいう天才と言う奴だ。タイプ的に言うと太陽もこの天才型に属するのかもしれないが、立花は格が違う。
初めて立花を意識した時、それは新入生テストの結果発表の時だった。
授業が開始されて一週間程度の時だった。
学校が始まって日が浅かったが、授業での態度や休み時間の使い方などを見て、当初のトップ予想は秀才タイプの優等生、五十嵐夏帆だと思われていた。
しかし、結果はダントツで立花が学年一位を獲得した。
誰も立花がトップを獲るなんて思ってもいなかった。
立花の様子を見る限り授業の受け方などは太陽と同じように思っていた。少なくともがむしゃらにノートを取って、考えようとするのではなく、とりあえずノートはとっておいて、問題を解けとか言われない限り考えようとはしていないように見えた。そして、休み時間も友達と談笑しているか、静かに読書している姿しか見ていなかった。
そんな少女が超真面目に頑張っていた優等生を才能だけで破った姿を見て、太陽は憧れてしまったのだ。
そして、憧れの少女が自分に声をかけてきた。むしろ気にならない方がどうかしているだろう。
って、いかんいかん
また立花のことを考えてしまっていた。
太陽は首を横にブンブン振って、サッカーに集中しようとした。
だが、次の瞬間
「おい!行ったぞ!」
「え?ぶがっ!?」
見事に顔面にボールがヒットした。
太陽の体は衝撃で後ろへ吹っ飛ばされ、鼻からは血が滴っていた。
「おいおい大丈夫か?」
先生や数人の生徒が太陽の元に近付いてきたが、ほとんどの生徒が笑っていた。まぁ自分が傍観者の立場なら同じように笑っていただろうから、太陽は何も言えず、大人しくピッチを後にした。
そんな男子の様子を立花はフットサルコートから眺めていた。