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予兆

 四月も後半、桜もだんだん散って、入学式の頃よりだいぶ寂しくなってきた頃。

 日向太陽ひなたたいようは授業中の先生の声を聞きながら、眠たげに窓の外を見ていた。

 とは言っても、太陽は窓際の席ではないので他の生徒3人のその先の窓の外を視線だけ向けて眺めていた。

 特に何でもない光景。校庭で他のクラスが体育をやっている。

サッカーをやっている様子を見ると、この後の体育は自分たちもサッカーだな。

 今の数学の授業とは全く関係ない事を考えながら、太陽はあくびをして、黒板に目を移す。

 いつの間にか黒板にはいくつもの数式が書かれていたが、決して頭が悪いわけではない太陽は、慌てることなく数式をノートに書き写していく。

 高校に入学してからおよそ一ヶ月が経過したが、今のところ授業にはついていけている。

 この様子なら、しばらくは苦労することはないな。

 太陽はノートを取り終えて、余裕の笑みを浮かべた。


「・・・日向君」

 数学の授業が終わり、次の授業のための準備をしているとき、一人の女子に声を掛けられた。

 黒くて、つやのある長い髪、少しつり気味の大きな目に長いまつ毛、まるで物語に出てくるようなお嬢様のような少女が太陽の席の横に立っていた。

「・・・!立花さん?俺に何か用?」

 いきなり、あまり会話したことが無い美少女、立花楓たちばなかえでに話しかけられ、少し緊張気味に太陽は訊いた。

「いや・・・昨日、家の近くに日向君がいたのよ」

「え?」

「あ、いや、ただ他人の空似かもしれないんだけど・・・でもうちの制服着てたし・・・」

 立花は昨日のことを思い出すようにあごに手を当て、考える素振りを見せながら言った。

「立花さんの家ってどこらへんなの?」

「ん?私は電車通学で家からここまで一時間位かしら」

「結構遠いな」

「そうかしら?」

 キョトンとした顔で立花は訊いてくる。まるでそれが普通で当然であるというように。

「まぁ、俺が自転車通学だからそう思うのかもな・・・あと、昨日は学校の帰り道にある本屋位しか寄ってないから、立花さん家の近くは行ってないはずだ」

 太陽も昨日のことを思い出しながら言った。

「そう・・・じゃあ、私の勘違いかな?ゴメンね変なこと聞いて」

 そう言って、立花は太陽の席から離れて行こうとした。

「ちょっと待って」

「ん?」

「何で、そんな事俺に訊いてきたんだ?俺が立花さんの家の近くに居ようが、居まいが、立花さんには関係ないことだろ?」

 俺の言葉を聞いて、立花は考えていた。

 考えると言っても、何を言おうかと考えているのではなく、言ってもいいのか言わないほうが良いのか考えているようだった。

「ん~・・・だって妙なことが起こっちゃうから・・・」

「妙なこと?」

 ボソッと言った立花の言葉を俺は聞き逃しはしなかった。

「いや!何でもないの!じゃあね」

「あ、おい!?」

 明らかに立花は何かを隠しているようだが、それ以上話すことなく、今度こそ太陽の元から離れて行ってしまった。

「なんなんだ?」

 太陽はしばらくの間、去って行く立花の姿を見ていた。

「おいおい!」

「うおっ!?」

 いきなり背後から肩組まれて太陽は驚きの声を上げた。

「お前いつから立花さんと仲良くなったんだ?」

 太陽の後ろの席の日野亮太ひのりょうたが少しばかり興奮気味に、そしてちょっとの妬みが込められた声で太陽に絡んできた。

「仲良くとか知らない!初めてちゃんと話したんだ!」

「なんだそうなのか?」

 随分あっさりと日野は納得してくれた。

「で、何の話をしてたんだ?」

「よく分からないんだ・・・家の近くに俺がいたとか・・・妙なこととか・・?」

「なんだそりゃ?」

「さぁな」

 太陽は呆れ顔で再び立花の方に目をやった。

 そこには何事もなかった様子で(まぁ実際何もなかったのだが)女友達と談笑している立花の姿があった。


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