また明日
「お兄ちゃん~ご飯出来たよ~」
「・・・ん?」
一時間半から二時間がたっただろうか、今日学校で色々あった疲れからか眠ってしまっていた太陽のことを月が起こしに来た。
「大分疲れてるみたいね」
太陽の視界に顔をのぞかせて立花は言った。
「まあね」
・・・いや、主にお前関連で疲れてるんだからな!
太陽はそうツッコみそうになったが、それを押し殺して立ち上がった。
「うん。いい匂いだ」
おいしそうなミートソースの匂いに食欲がわいてくる。
「私にとっても会心の出来よ」
フォークやサラダ、そしてメインのスパゲッティを配膳しながら立花は笑みを浮かべて言った。
「私も頑張ったんだよ」
エッヘンと胸を張って月は言った。
「そうか!偉いぞ!食べるのが楽しみだ」
太陽がそう言うと本当にうれしそうに月は「うふふ」と笑った。
「じゃあ、食べようか」
キラキラ輝くミートソース、そしてそこから立ち込めるいい匂い、それに我慢できなくなって太陽は言った。
「そうね。温かいうちに食べちゃおう」
「食べよう!」
女子二人も同意し、掌を合わせ始めた。
「「「いただきます」」」
三人とも行儀よくいただきますをして、スパゲッティを食し始めた。
「うん!うまい」
サイコーだ。悔しいが、自分の作る物より全然美味い。
太陽は悔しいとは思ったが、それよりも妹(今回は立花の力も含まれているが)の料理が美味しいことに素直に喜んだ。
「おいしー」
月は自分の料理の美味しさに感動しているようだ。
「本当!おいしい!」
そして、立花も今まであまり見たことが無いくらいテンションが上がっているように見える。
「このサラダのドレッシングって作ったのか?こんな味のドレッシング家に無かったよな?」
「ああ、それは私が作ったの」
「え?すごいな」
「本当すごいんだよ!楓さん!すごい手際でパパッと作っちゃうんだよ」
「そんなすごくないよ。慣れてるだけ」
そうは言うが、立花は素直にうれしそうな表情だった。
「慣れてる?よくご飯作るのか?」
「まぁ、一人暮らしだから」
少し躊躇い気味に立花は言った。
「そうなのか?」
「うん。私の高校が決まった直後に父の転勤も決まっちゃってね」
「それで、立花を残して家族はお父さんの方について行っちゃったのか?」
立花の両親に少しの憤りを覚えながら太陽は訊いた。
「ううん。一人暮らしは私が提案したことなの、だから両親は最初は反対してたんだけどね。最後は私が説得したの」
太陽の怒りを抑えるように立花は言った。
「う~ん・・・それならいいのか?」
なんとなく納得のいかない表情で太陽は言った。
「いいの!それより、そのドレッシング気に入ったなら後で作り方教えるわよ」
「そ、そうか、ありがとう」
立花の一人暮らしについては何と無くうやむやにされてしまったが、人の家のことを太陽が気にしてもしょうがないことだ。
それよりも今はこの食事の時間を楽しもうとした。せっかく妹の作った料理と久しぶりの三人以上での食事が出来ているのに楽しまなくては損だ。
そして、その後は望んでいた通り、楽しい食事の時間を送ることが出来た。
「今日はありがとな」
食事が終わり、家に帰る立花を駅まで送る道中、太陽はそうお礼を言った。
「俺も月も楽しかったよ」
「それなら私からもお礼を言うわ。ありがとう。楽しかったわ」
笑みを浮かべて立花は言った。
「月もまた一緒に料理したいって言ってたぞ」
「それは私も・・・ってそうそう、月ちゃんの料理が不味い理由が分かったわよ」
言うのを忘れていたようで、思い出したように立花は言った。
「え?なんだ?」
少し訊くのが怖くなったが、一応聞いてみることにする。
「あの子、すごくおっちょこちょいよ」
「・・・え?」
料理方法や味付けがマッドサイエンティストと化してる的な怖いものを想像していた太陽は拍子抜けした声を出した。
「塩と間違えて砂糖入れるとか?」
「今まではどうか分からないけど、今日はトマトソースの瓶とイチゴジャムの瓶を間違えてたわ」
「マジか!?」
「私が止めなかったら、ミートソーススパがイチゴのデザートスパになってたわよ」
「笑い事じゃないからな!!」
へらへら笑いながら言う立花にすかさずツッコミを太陽は入れた。
五分から十分ほど歩いたところで駅が見えてきた。
「ちょうど電車が来る時間ね。じゃあ、行くわ」
「ああ、今日はありがとな」
太陽は改札に向かう立花に改めてお礼を言った。
「こちらこそありがとう。月ちゃんにも言っておいてね」
「ああ」
「じゃあ、また明日」
「また明日」
そう言葉を交わすと、立花は駅の奥に消えていった。




