太陽の王子と白翼の賢者 後編
ルクソールは城内にある自分の部屋まで案内すると、乳母で今は使用人の筆頭のようなことをしている女性に頼んで、人数分の紅茶を入れてもらう。
「改めまして。ルクソール・シェーンベルク=グランドと申します。」
「じゃあ、ソールで。」
「・・・え?」
「ソールでいいね。よろしく。」
少年の申し出は、疑問形ですらない。
しかし、不思議と不快感はなかった。
「僕は・・・クルソウド・ライ=トゥルーク。よろしく。」
「・・・・・・あ、私は、イオ=グレネードと申します。」
ルクソールと初対面の二人が、それぞれ自己紹介をしてくれた。
魔法使いらしい二人は、やはりすごい・・・普通にはあり得ない髪の色をしている。
「紅茶を頼んでしまいましたが、よろしかったですか?」
「別にいいよ。」
「私も構いません。・・・しかし、いいんですか?」
イオが尋ねている内容は、表情からしてお茶のことではないだろう。
「何が、でしょうか。」
「王が追い出した私たちなどを部屋へ招いたりして。」
イオの質問の意味を理解したルクソールは、苦笑を浮かべながら、ちょうど入れおわったらしい紅茶を受け取る。
「それなら、大丈夫です。僕は第三王子ですし、母もいませんから。」
意味を正しく理解して、イオは苦い顔をして、ロスチャイルドは少々哀しげに表情を歪めた。
「そっか。後継ぎでもなければ、母方の後ろ盾もない王子が何しようと気にしない、てことね。」
それを敢えて、気にした風もなく、紅茶を啜りながら口にしたクルソウドを、二人は驚きの目で見ていた。
一人、イオだけは心得てるようで一つため息をつく。
「で?君の身の上話をするために呼んだわけじゃないでしょ。」
「え・・・あ、そうですね。えっと、まずは、父に話したことを話してもらえないでしょうか?」
「それだけでいいの?」
「え・・・?」
困惑した表情のルクソールに、クルソウドはそれ以上語らず、静かな目で見ていた。
「・・・・・・あなたが、僕に話してもいいと判断したことは、すべて。」
「飽く迄僕の判断に従う・・・と。いいよ。君が理解できるだろうことは、全部教えてあげる。」
にこりと笑ったクルソウドは、まるで世間話でもしているかのような気安さで、この世界で起きている異常について話し始めた。
世界の各地で魔物たちが異常な動きを見せていること、その実例。
魔物たちの動きの原因として、魔力の乱れが考えられること。
彼らが危険視しているのは、その魔力の乱れの方であること。
その乱れに気付くことができるのは、魔法の素養がある人間だけということ。
しかし、まだ一部の魔法使いしかそれに気付いていないこと。
魔力の乱れは、いずれ世界の人々を、命あるものすべてを呑み込みかねないこと。
話を聞き終わる頃には、ルクソールの顔色は目に見えて悪くなっていた。
「まさか・・・そんなことが・・・」
「よかったよ。君はちゃんと受けとめてくれたみたいで。安心した。」
話をしていたクルソウドは、のんきに紅茶のおかわりを頼んでいた。
「・・・あの、それで。具体的には、その魔力の乱れは何を引き起こすのですか?引き起こした何かに対抗するために、父には何を頼もうとしたのですか?」
ロスチャイルド侯には、軍事力がどうとか言っていたが・・・
「・・・・・・実は・・・、その・・・とても言いにくいこと・・・なんだけど・・・」
先程までの飄々とした様子は鳴りを潜め、言い淀む姿に、ルクソールはさまざまな悪い想像が浮かび、身を堅くした。
「正直な話をするとね・・・魔力の乱れ・・・その根源というか・・・それが、何をしたいのか・・・それはわからないんだよね。」
「・・・・・・はい?」
思わぬ言葉に、ルクソールは間抜けな顔をさらした。
「あの・・・それは、つまり・・・?」
「そーだなぁ・・・。そもそも、魔力の乱れっていうのが何かはわかる?」
「え・・・いえ、その。何か、違和感と言いますか、普通じゃないのはわかるのですが・・・」
「それで十分だよ。プロの魔法使いじゃないのによく気付いたよね。」
「殿下の母君は、本当に優秀な魔女でしたから。」
母のことも知っているロスチャイルド候は、懐かしそうに目を細めた。
「ロスさんもいるし、まずは魔力自体のことから説明しようか?」
「お願いします。」
クルソウドの提案に、深く頷いた。
「じゃ、イオよろしく。」
「はい!?」
「ライくんが説明してくれるんじゃ・・・?」
「今日はたくさん話したからさー。疲れちゃった。」
「クロ・・・」
「いいでしょ?イオには前教えたじゃん。」
「まぁ、そうですけど。」
「理解していなければ人に教えることはできません。これは、君がしっかり理解できているのかの試験です。」
「・・・・・・はぁ。わかりましたよ。」
イオがため息をつく横で、クルソウドは本当に自分で説明する気はないようで、ソファに身を沈めて三杯目の紅茶を堪能していた。
「魔力を魔法に変換するとき、我々魔法使いが付与できる属性というのは、基本五種類あります。風、火、水、土、雷です。その他の属性は、この五つの中の組み合わせで成り立っています。」
「へぇ。初めて知ったよ。」
「・・・島々の名前は、その五属性に由来しているのですね。」
「そう言われています。
・・・しかし、この五つには分類されないといいますか、どう組み合わせてもできないモノがあります。それが、光魔法と、闇魔法です。・・・厳密には、治癒や無属性と言われるものもありますが・・・ここでは置いておかせてもらいます。
光魔法と闇魔法は、正反対の属性ですが、とても似ています。
魔力・・・大気には、陰の気と陽の気があって、それらは大抵、良いバランスを保って共存しています。他の属性魔法が変換するのに対し、光魔法と闇魔法は、大気に元からある陽の気と陰の気をそれぞれ増幅することで魔法として作用させます。
・・・ここまで、よろしいでしょうか?」
イオの説明に、ソールとロスは難しい顔をしていた。
言っていることはわかるのだが、現実と結び付けて考えるのが困難とでも言えばいいのか。
「・・・・・・多分。」
魔力の気配を感じていたソールはなんとか自分を納得させたようだが、ロスの表情は冴えない。
「魔法にはいろんな属性があるけど、光と闇の属性だけは元から大気中に存在している力を利用しているってこと。」
「え?」
「説明長いけど、それだけ理解してれば大丈夫ですよ、ロスさん。」
「あ・・・あぁ、ありがとう、ライくん。」
ロスの表情も落ち着いたのを確認して、イオは説明を再開する。
「・・・・・・続けさせていただきます。
陰の気と陽の気は基本的にバランスを保って存在しているのですが、例外があります。たとえば、神聖な場所・・・水の島の教会や、雷の島の神宮などがそうですね・・・そうした場所では、陽の気が多い・・・もしくはそれしかありません。そういう場所には、弱い魔物などは立ち入ることができません。
逆に、陰の気が多い場所では、植物は育たないし、人間は死にこそしなくても、陰鬱な気持ちになっていきます。魔物が多く生息する海域や洞窟などは、ただ魔物が怖いとか感じるだけじゃなく、直感的に、そこにいたくない・・・といいますか、そういったことを体が感じてると思います。有名なところですと、水の島南西の小島にある洞穴、雷の島の山周辺でしょうか。
しかし、基本的にはバランスが保たれている場所が多いですし、そうした場所ではヒトも魔物も普通に暮らせます。教会や神宮はそうしたバランスを保つために作られたという意味合いも強いですね。」
「それでは、魔力の乱れというのは・・・」
「そうです。正確には、大気中の陰の気と陽の気のバランスが乱れているということです。」
「北東の方角にね、おっきな闇の力を持った何かが現れたんだ。そのせいで、一気に陰の気が増えてるんだよね。それで、魔物たちがハイになっちゃって大変。そこらじゅうで悪さしだすんだもん。」
イオの長い説明を制して、クロがにこやかに結論を述べる。
その、考えてみれば深刻なはずの事態を、笑顔で話すクロに3人はそれぞれの反応を見せた。
「まったく、たまには自分でご説明されてはいかがですか?」
「あの島が変わったのは、そのせいだったのか・・・?」
「・・・・・・」
クロはいつの間にもらっていたのか、三杯目の紅茶を飲み終えると、カップをテーブルに戻しほほ笑む。
「いいじゃない。イオには説明したんだし。僕、おんなじこと何回も説明するの嫌いなんだ。」
悪気はないようで、子どもの顔に戻って茶菓子をほおばる師の姿に、イオはため息をつくしかなかった。
「で、ソール。君は、もう聞きたいことはないの?」
「・・・・・・それでは、軍事力を求めたのは・・・魔力の乱れそのものに対しての抑止力としてではなく、その乱れが原因で暴れだす魔物たちから国を守るために守備を強化しろ、ということだったんですか?」
「あー、そっか。そんな話してたんだっけ。うん、そうかな。そんな感じ。」
「敵が何を考えているのかはわかりませんが、副作用で人間が滅んでしまっては困りますから。人間社会の中心的役割を担う国で、対抗し得る力も潜在的には保有しているのに、それを行使できるだけの準備をしていない。防衛意識の低いこの国のトップに、少しは気をつけるよう忠告に来たつもりだったのですがね。」
「そうだったんですか・・・」
まだ幼さの残る王子は、それでも真摯に国の危機感の薄さという問題を受けとめ、考えを巡らせる。
「僕は・・・どうしたら、いいのでしょう・・・?」
「僕たちは伝えたかったことを伝えて、君は受けとめてくれた。後は・・・自分で考えなきゃ、意味ないんじゃない?」
「・・・・・・そうですね。」
決意を固め頷く王子の姿に魔法使いは満足そうにほほ笑んだ。
これが、後に伝説となり語り継がれる、王子と、魔法使いの初めての出会いだった。
.
あとがき
ずいぶんと久しぶりの更新になってしまいました。
この話が、かなり前に嘆いていた・・・一年ほど前に、ケータイの水没とともに失われてしまった幻の話です。
もともとは、王子で新キャラ、ルクソールくん視点ではなく、イオとかクロの、既出キャラの視点で進行していました。
しかし、不運な事故により文章は消失。
必要な話なのですが、まったく同じ話を一から書きなおすのもかなりの気力がいるため、視点を変えて書くことにしました。
ルクソールくんは、何年も前から登場は決まっていたのに、なかなか出せないでいた主要キャラの一人なので、やっと出せて一安心です。
また、後でキャラ紹介も加えておきます。
本当は、この出会いの後にいろいろとひと悶着あって・・・というのを書こうとしていたのですが、長くなりそうなので分割します。
次回の更新は、その書こうとしていたものになるか・・・あるいは、ショウとカルロの方に戻るか・・・そんな感じです。
メインの更新は別って感じで、こちらはちょこちょこと、話が書けたときに更新していくという感じになります。
それでは、これからも、更新は遅いですが・・・新キャラのソールくんともども、よろしくお願いします。
2013年3月9日 真木逸美
自サイト掲載と、こちらへの転載の時差がかなり短くなりました。
書きためたものがなくなると大変ですね・・・
上でも少々言っておりましたが、こちらはこのような不定期な更新になります。
お待たせしてしまうのは申し訳ないですが、作者が移り気なもので・・・
こちらはサブ連載と思っていただければ。
一応短編連作と自称しているのに、今回はつなぎの回のような?
でも新キャラ視点なので・・・
一つの話として終わってくれない感じはありますが、話の大きな流れの中では必要な回なのです。
短編連作のタグを外さなきゃいけないかもしれませんね・・・。
感想、誤字脱字報告等お待ちしております。
お気に入り登録、ありがとうございます。うれしいです。
2013年3月17日 追記




