太陽の王子と白翼の賢者 前編
離れ小島と湖の主の後の話。
※新キャラ登場
Light and Dark~光と闇の物語~
「太陽の王子と白翼の賢者」
世界暦1623年。末
広大な土地と豊かな土壌に恵まれたこの国は、島々の中央に位置することや食料の輸出が盛んなことから、貿易の中心地になっている。
この島は、大地の島と呼ばれる。
年の終わりを控え、この島の人々は新年の祝いの準備に慌ただしく動いている。
中でも、国の中枢にある城の中では、多くの大人たちが忙しなく働き動き回っていた。
そんな城内の回廊を一人、まだ幼さの残る少年が歩いていた。
周りからは浮いた存在の彼だが、人々は皆気にする様子はなく仕事に没頭している。
「さっきの見たか?」
「あぁ。すごい色だよな。」
「魔法使いですかね?」
「らしいな。」
「でも、見ない顔だな。」
「外からの奴らだろ。」
「しかし、一人は子どもでしたよ。」
少年が歩いて行く先で、3人の兵士たちが見張りの位置についたまま話していた。
年末のこの時期、各町や村からの挨拶などのため、城へ訪れる者は多い。
世間では珍しい存在の魔法使いも、城下町には国営の魔法使い協会が存在するため、挨拶はもちろん、国からの仕事を受注しにくることも少なくない。
しかし、子どもとは・・・
「何かあったのですか?」
少々気になった彼は、その兵士たちに声をかけた。
「何って・・・・・・・・・ルクソール様!?」
「なぜこのような所へ・・・」
「すみません、お仕事の邪魔をしてしまって・・・」
「いえ、けしてそのようなことは!」
いきなり挙動不審になる兵士たちに対し、少年・・・ルクソールは、柔らかい笑みに少し困った色を含むものの、随分落ち着いていた。
「・・・・・・この先の・・・謁見の間に、変わった来客でも?」
「は、はい。魔法使いと名乗る若者と、共の子どもが・・・」
「陛下にお話があるというので、謁見の間へ・・・」
「知らぬ顔だったのですが、貴族のロスチャイルド侯の紹介だったので・・・」
「なるほど。・・・まだ、その人たちが面会中ですか?」
「は、はい。まだ出てきていません。」
「そうですか。ありがとうございます。」
ルクソールは一礼すると、謁見の間へ向かった。
謁見の間の通用口を通り、客人が国王と謁見している様子を遠巻きに眺める。
確かに、二十歳前後の若者と、10歳前後の子どもにしか見えない背丈の者が、そこにいた。
片方は緑色、もう片方は青色という、二人とも、普段あまり見られない髪色をしている。
魔法使いの一族は、魔法の素養を持って生まれたならば、何もせずとも決められた髪色になる、まるで呪いのような魔法を、血族にかけている。
魔法使いたちは、そうして徒人との違いを主張しているのかもしれない。
彼らも、そんな魔法使いの一族の生まれなのだろう。
「それでは、何か。このままその闇の力とやらを放っておけば、国は滅びると。そう言いたいのか?」
「・・・まぁ、要約すればそういうことになりますかね。」
聞こえてきたのは、父王と謁見者の青年の会話。
なかなか物騒な言葉が聞こえたが、何の話しをしていたのだろうか。
闇の力が何なのかはわからないが、ルクソールは最近、妙な気配を感じることがあった。
魔法使いだという彼らは、そのよくわからない何かが、何であるのかをわかっているのかもしれない。
「摘み出せ。」
「な・・・」
しかし、父王の反応は冷たいものだった。
無理もないだろう。
彼らの言っていることが真実なのだとしても、魔法の素養がなく、魔力を感知できない王には判断ができない。
ならば状況から判断するしかなく、それだけで見れば彼らは、いきなり現れた得体の知れない若者にすぎない。
珍しい魔法使いという職業ではあるらしいが、国に仕える者でもないし、身分だけで信頼するのはあまりにも浅慮である。
そもそも、彼らが本当に魔法使いであるのかでさえも、王には判断がつかない。
そうではあるのだが・・・
「誰だ?こんなのを連れてきたのは。」
「ロスチャイルド侯爵の紹介です。」
「ほぉ、あやつか。」
「はい。ですから、話を聞くくらいはしてもよろしいかと判断いたしまして・・・」
「話は聞いた。もう十分だろう。」
「我々の話をすぐに信用していただくのは難しいことは承知です。しかし、貴国の魔法使いに確認させてみてはもらえないでしょうか。」
青年は、あくまで丁寧に、真摯な眼差しで申し入れをする。
「いらん。去れ。」
「何卒・・・」
「しつこい。・・・お前ら何をしている。摘み出せと言ったはずだ。」
王の対応は、あくまで冷たいものだった。
彼らの真剣さに躊躇していた兵士たちも、王の再度の言葉に動き出す。
ルクソールは連れ出されて行く二人を見送り、自らも謁見の間を後にした。
「よし、燃しちゃおうか。」
「そうですね、跡形も残らないくらい、焼き尽くしてやりましょう。」
出口前の廊下へ向かったルクソールの耳に、なにやら、物騒な言葉が聞こえてきた。
片方は・・・思い違いでなければ、敬語を使っている方の声が、先程の青年のものである。
「それは・・・冗談だよね?」
「うん。」
「冗談なんですか!?」
「君は本気だったのかい!?」
もう一つ、よく知る声の問に、二人が応える。
ルクソールも面識がある男の声・・・王に彼らを紹介したという、ロスチャイルド侯爵である。
「だって、労力の無駄じゃない。どうせそのうち滅びるんだし。」
「それはそうですけど・・・」
「・・・それを、今話してきたのかい?」
「そうだよ。」
やはり、あの妙な気配の正体について、彼らは何か知っているのだろう。
「王はご立腹のようだったけど・・・滅びるというのは、どういうことだい?」
「・・・島で、魔物がいたずらしてたでしょ?」
「・・・先日の依頼の時の話だよね?」
「あそこだけじゃないんだよ。大地の島南部の漁村、水の島南西に位置する小島、炎の島、雷の島・・・いろんなところで、魔物たちが今までにない動きを見せ始めている。」
「なんだって!?」
思わぬ報告に、ルクソールも驚きの声を上げそうになる。
「知らなくても仕方ないです。全国的に異常が起きているのに、皆、自国の異常事態を隠そうとする。私たちも、旅人という立場だからこそ知り得た情報も多いです。」
「・・・君たちは、原因を知っているのかい?」
「推測の範疇ですが。」
「でも、王さまには忠告を拒まれちゃったんだよねぇ。」
「・・・しかし、この推測の根拠を、王や貴方に証明するすべはないので、仕方ないのかもしれませんが。」
つまり、各地で起こっている魔物が引き起こした異常事態が、全世界に影響を及ぼすものに変わっていくということだろうか。
「・・・・・・僕の力では、なんとかできないのかな?」
「ロスさんの?」
「一応、ある程度の財力と権力はあるつもりだよ。」
「必要になるかも知れないのは軍事力です。」
魔物に対抗できる戦力が必要というわけだ。
「・・・・・・そうか。」
金で回避できる危機ならば、彼は私財を全て擲ってでも、彼らに協力しようとしたのだろう。
軍事力には、人や設備がいる。金で集める・作ることは不可能ではないが、それが力に直結できるとは限らない。
自分だけの力ではどうしようもないことに、本当に意気消沈していた。
「信じてくれるんだ。」
「・・・・・・え?」
ロスチャイルド侯の申し出の後、信じられないという顔をしていた少年が、そう呟いた。
「こういう人がいるから、放っておけないんだよねぇ」
「え?」
「まったくです。」
呆れたような声色だったが、どこかうれしそうにも聞こえた。
「すみません」
聞いているだけだったルクソールだが、彼らの表情に決意を固めると、声をかけた。
「だれ?」
「・・・で、殿下!?」
やはり彼らは、大地の島の住民・・・少なくとも城下町に住む者たちではないらしい。
「はじめまして。僕は、ルクソール・シェーンベルク=グランドと言います。」
グランドを姓に持つ、この国の王子である少年の顔を、知らないのだから。
「グランド・・・?」
「はい。先程は、父が失礼な対応を致しまして、すみませんでした。」
「・・・驚いた、王子様の登場か。」
たいして驚いた様子もない少年は、ルクソールの顔を何の感情も見えない顔で、見ていた。
「よろしければ、私の方からお詫びをさせてもらえませんか?」
「・・・具体的には?」
「私の部屋でお茶でもいかかでしょうか?最高の茶葉を用意します。」
「ふーん。でも、それだけ?」
「それから・・・先程父にしていた話を、私にも聞かせてもらえないでしょうか?」
「なんで?」
「知りたいのです。・・・魔物による各地の被害は知りませんでしたが、何か妙な気配があったことは気付いていました。その意味を、あなた方はご存知なのでしょう?」
「・・・・・・へぇ、君は・・・わかるんだ。」
「母は、城に仕える魔女でしたから。」
「なるほど。でも、聞いてどうするの?」
「できることをするために、最大限の努力をしたいと思っています。」
「・・・・・・」
一通り聞きたいことは聞いたのか、少年は思案顔で立っていた。
その様子を、青年とロスチャイルドは静かに見守っている。
「いいよ。詫びさせてあげる。」
少年はにんまりとイイ笑みを浮かべた。
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明日同時刻、後編更新




