表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

太陽の王子と白翼の賢者 前編

離れ小島と湖の主の後の話。

※新キャラ登場

Light and Dark~光と闇の物語~

「太陽の王子と白翼の賢者」





世界暦1623年。末

広大な土地と豊かな土壌に恵まれたこの国は、島々の中央に位置することや食料の輸出が盛んなことから、貿易の中心地になっている。

この島は、大地の島と呼ばれる。



年の終わりを控え、この島の人々は新年の祝いの準備に慌ただしく動いている。

中でも、国の中枢にある城の中では、多くの大人たちが忙しなく働き動き回っていた。

そんな城内の回廊を一人、まだ幼さの残る少年が歩いていた。


周りからは浮いた存在の彼だが、人々は皆気にする様子はなく仕事に没頭している。


「さっきの見たか?」

「あぁ。すごい色だよな。」

「魔法使いですかね?」

「らしいな。」

「でも、見ない顔だな。」

「外からの奴らだろ。」

「しかし、一人は子どもでしたよ。」


少年が歩いて行く先で、3人の兵士たちが見張りの位置についたまま話していた。

年末のこの時期、各町や村からの挨拶などのため、城へ訪れる者は多い。

世間では珍しい存在の魔法使いも、城下町には国営の魔法使い協会が存在するため、挨拶はもちろん、国からの仕事を受注しにくることも少なくない。

しかし、子どもとは・・・


「何かあったのですか?」


少々気になった彼は、その兵士たちに声をかけた。


「何って・・・・・・・・・ルクソール様!?」

「なぜこのような所へ・・・」

「すみません、お仕事の邪魔をしてしまって・・・」

「いえ、けしてそのようなことは!」


いきなり挙動不審になる兵士たちに対し、少年・・・ルクソールは、柔らかい笑みに少し困った色を含むものの、随分落ち着いていた。


「・・・・・・この先の・・・謁見の間に、変わった来客でも?」

「は、はい。魔法使いと名乗る若者と、共の子どもが・・・」

「陛下にお話があるというので、謁見の間へ・・・」

「知らぬ顔だったのですが、貴族のロスチャイルド侯の紹介だったので・・・」

「なるほど。・・・まだ、その人たちが面会中ですか?」

「は、はい。まだ出てきていません。」

「そうですか。ありがとうございます。」


ルクソールは一礼すると、謁見の間へ向かった。



謁見の間の通用口を通り、客人が国王と謁見している様子を遠巻きに眺める。

確かに、二十歳前後の若者と、10歳前後の子どもにしか見えない背丈の者が、そこにいた。

片方は緑色、もう片方は青色という、二人とも、普段あまり見られない髪色をしている。


魔法使いの一族は、魔法の素養を持って生まれたならば、何もせずとも決められた髪色になる、まるで呪いのような魔法を、血族にかけている。

魔法使いたちは、そうして徒人との違いを主張しているのかもしれない。


彼らも、そんな魔法使いの一族の生まれなのだろう。


「それでは、何か。このままその闇の力とやらを放っておけば、国は滅びると。そう言いたいのか?」

「・・・まぁ、要約すればそういうことになりますかね。」


聞こえてきたのは、父王と謁見者の青年の会話。

なかなか物騒な言葉が聞こえたが、何の話しをしていたのだろうか。


闇の力が何なのかはわからないが、ルクソールは最近、妙な気配を感じることがあった。

魔法使いだという彼らは、そのよくわからない何かが、何であるのかをわかっているのかもしれない。


「摘み出せ。」

「な・・・」


しかし、父王の反応は冷たいものだった。

無理もないだろう。

彼らの言っていることが真実なのだとしても、魔法の素養がなく、魔力を感知できない王には判断ができない。

ならば状況から判断するしかなく、それだけで見れば彼らは、いきなり現れた得体の知れない若者にすぎない。

珍しい魔法使いという職業ではあるらしいが、国に仕える者でもないし、身分だけで信頼するのはあまりにも浅慮である。

そもそも、彼らが本当に魔法使いであるのかでさえも、王には判断がつかない。

そうではあるのだが・・・


「誰だ?こんなのを連れてきたのは。」

「ロスチャイルド侯爵の紹介です。」

「ほぉ、あやつか。」

「はい。ですから、話を聞くくらいはしてもよろしいかと判断いたしまして・・・」

「話は聞いた。もう十分だろう。」

「我々の話をすぐに信用していただくのは難しいことは承知です。しかし、貴国の魔法使いに確認させてみてはもらえないでしょうか。」


青年は、あくまで丁寧に、真摯な眼差しで申し入れをする。


「いらん。去れ。」

「何卒・・・」

「しつこい。・・・お前ら何をしている。摘み出せと言ったはずだ。」


王の対応は、あくまで冷たいものだった。

彼らの真剣さに躊躇していた兵士たちも、王の再度の言葉に動き出す。


ルクソールは連れ出されて行く二人を見送り、自らも謁見の間を後にした。



「よし、燃しちゃおうか。」

「そうですね、跡形も残らないくらい、焼き尽くしてやりましょう。」


出口前の廊下へ向かったルクソールの耳に、なにやら、物騒な言葉が聞こえてきた。

片方は・・・思い違いでなければ、敬語を使っている方の声が、先程の青年のものである。


「それは・・・冗談だよね?」

「うん。」

「冗談なんですか!?」

「君は本気だったのかい!?」


もう一つ、よく知る声の問に、二人が応える。

ルクソールも面識がある男の声・・・王に彼らを紹介したという、ロスチャイルド侯爵である。


「だって、労力の無駄じゃない。どうせそのうち滅びるんだし。」

「それはそうですけど・・・」

「・・・それを、今話してきたのかい?」

「そうだよ。」


やはり、あの妙な気配の正体について、彼らは何か知っているのだろう。


「王はご立腹のようだったけど・・・滅びるというのは、どういうことだい?」

「・・・島で、魔物がいたずらしてたでしょ?」

「・・・先日の依頼の時の話だよね?」

「あそこだけじゃないんだよ。大地の島南部の漁村、水の島南西に位置する小島、炎の島、雷の島・・・いろんなところで、魔物たちが今までにない動きを見せ始めている。」

「なんだって!?」


思わぬ報告に、ルクソールも驚きの声を上げそうになる。


「知らなくても仕方ないです。全国的に異常が起きているのに、皆、自国の異常事態を隠そうとする。私たちも、旅人という立場だからこそ知り得た情報も多いです。」

「・・・君たちは、原因を知っているのかい?」

「推測の範疇ですが。」

「でも、王さまには忠告を拒まれちゃったんだよねぇ。」

「・・・しかし、この推測の根拠を、王や貴方に証明するすべはないので、仕方ないのかもしれませんが。」


つまり、各地で起こっている魔物が引き起こした異常事態が、全世界に影響を及ぼすものに変わっていくということだろうか。


「・・・・・・僕の力では、なんとかできないのかな?」

「ロスさんの?」

「一応、ある程度の財力と権力はあるつもりだよ。」

「必要になるかも知れないのは軍事力です。」


魔物に対抗できる戦力が必要というわけだ。


「・・・・・・そうか。」


金で回避できる危機ならば、彼は私財を全て擲ってでも、彼らに協力しようとしたのだろう。

軍事力には、人や設備がいる。金で集める・作ることは不可能ではないが、それが力に直結できるとは限らない。

自分だけの力ではどうしようもないことに、本当に意気消沈していた。


「信じてくれるんだ。」

「・・・・・・え?」


ロスチャイルド侯の申し出の後、信じられないという顔をしていた少年が、そう呟いた。


「こういう人がいるから、放っておけないんだよねぇ」

「え?」

「まったくです。」


呆れたような声色だったが、どこかうれしそうにも聞こえた。


「すみません」


聞いているだけだったルクソールだが、彼らの表情に決意を固めると、声をかけた。


「だれ?」

「・・・で、殿下!?」


やはり彼らは、大地の島の住民・・・少なくとも城下町に住む者たちではないらしい。


「はじめまして。僕は、ルクソール・シェーンベルク=グランドと言います。」


グランドを姓に持つ、この国の王子である少年の顔を、知らないのだから。


「グランド・・・?」

「はい。先程は、父が失礼な対応を致しまして、すみませんでした。」

「・・・驚いた、王子様の登場か。」


たいして驚いた様子もない少年は、ルクソールの顔を何の感情も見えない顔で、見ていた。


「よろしければ、私の方からお詫びをさせてもらえませんか?」

「・・・具体的には?」

「私の部屋でお茶でもいかかでしょうか?最高の茶葉を用意します。」

「ふーん。でも、それだけ?」

「それから・・・先程父にしていた話を、私にも聞かせてもらえないでしょうか?」

「なんで?」

「知りたいのです。・・・魔物による各地の被害は知りませんでしたが、何か妙な気配があったことは気付いていました。その意味を、あなた方はご存知なのでしょう?」

「・・・・・・へぇ、君は・・・わかるんだ。」

「母は、城に仕える魔女でしたから。」

「なるほど。でも、聞いてどうするの?」

「できることをするために、最大限の努力をしたいと思っています。」

「・・・・・・」


一通り聞きたいことは聞いたのか、少年は思案顔で立っていた。

その様子を、青年とロスチャイルドは静かに見守っている。


「いいよ。詫びさせてあげる。」


少年はにんまりとイイ笑みを浮かべた。



,

明日同時刻、後編更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ