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離れ小島と湖の主 後編

5 取り引き



『取り引き…?』


カヅラは鋭い目付きでクロを見る。


「そう。取り引き。」


弟に睨み付けられた兄は…にっこりと笑って、応えた。


「ロスさん。ロスさんは、魔物たちに人間に危害を加えるのをやめてもらいたい、そうですよね?」

「え…あ、あぁ。」


顔は笑顔のまま…なのにどこか雰囲気の変わったクロに戸惑いつつ、ロスは頷いた。


「カヅラ。こういうのはどうかな?人間は、この島を使うのはあくまでも航海の途中に立ち寄るだけ。開発は絶対にしない。だから、魔物たちには人間を攻撃しないでほしい。」

『そんな勝手なこと…』

「代わりに。人間が不審な行動をしたら、このお願いは無効。その人間たちに対してなら、何をしても文句は言わない。」

『…そんなこと、僕たちが聞くとでも?』

「‘約束’なら、守ってくれるでしょ?…それから。もし人間に手を出した場合は…逆もまた然り、てね。」

『……』


-ピシッ-


音がしたかと勘違いしてしまうくらい、何かが変わった。

しかし、周りの木々や湖の水面がざわめくだけで、なにも感じない。

大半の者が首を傾げる中、クロはにっこりと笑った。


「僕に叶うと思った?」


湖に付く前からクロが皆に張っていた、防護壁の魔法が発動したのだ。


『……』


先の通り、カヅラの仕掛けた何かは、何も引き起こせずに終わり、悔しそうに顔を歪める。


「それで…どうする?」

『……森の木は切るな。湖には入るな。大地を侵すな。ごみを捨てていくな。』

「それだけでいいか?」

『…魔力の流れを…大気を、乱すな。』

「うん。以上を守れば構わない…ってとこかな?」


クロの問いに、カヅラは不機嫌そうな表情は崩さずに頷いた。


「…こんなんでいーかな?ロスさん。」

「え…あ、あぁ…。停泊ができるなら、こちらも構わないが…。しかしライくん、一つ気になるんだが…」

「じゃあ、取り引き成立だね。」

「え…や…だから…」

「いいんだよね?」

「……あ、あぁ。」


ロスは何か言いたげな顔をしていたが、クロの有無を言わせない笑みに、口をつぐんだ。


「カヅラ。」

『なんだよ。』

「…僕のこと、恨んでる?」

『お前らのことなんて、大嫌いだ。』

「そっか。」


クロは、寂しげな顔でほほえんだ。

その顔は、普段からは…特に先程までの幼い様子からは想像もつかない、彼の生きてきた年数を思わせる…大人びた表情だった。





6 任務完了



 羽休めの島の東の海上にて。


「へぇ、普通に乗れるじゃねぇか。すごいすごい。」

「貴様は…なめてるのか?」

「落ち着こうよ、二人とも。」


少年たちの声がした。


「オレは別に、普通だぜ?」

「それは何だ、私がおかしいとでも言いたいのか!」

「ひがいもーそー。」

「何?!」


ショウが宥めようとする声も虚しく、二人の言い合いはヒートアップしていく。


「イオ、うるさいよ。」

「すみません、クロ。」


が、クロのけだる気な声に、イオはすぐに静かになる。


「…ったく。何なんだよ、おめぇは…」


カルロは呆れてものも言えないようだ。


「…あ、でも…本当にありがとう。やっぱり、魔法ってすごいね…」


そう、彼らが今乗っている船は、賭けの約束のもと、イオが魔法で作り出したものだった。


「丸太を削りだしたときは、びびったけどなー。」

「そうだね…まさか、小さな船を作り始めるなんてね。」

「イオは器用だからね。」

「ありがとうございます、クロ。」


カルロの皮肉めいた言い方も、クロの言葉には叶わなかったようだ。


「そこじゃねぇだろ!…魔法っていったらよー、ポンッと、出来上がった船が出てくるもんかと…」

「カルロ、魔法は、万能ではないんだよ。」

「は?」


先程とは違う、真剣な声色がして、カルロは眉をひそめた。


「無から有を生み出すことはできないんだ。何者にもね。例え、常人にはそう見えても、そこには必ず、何かがある。」

「…どうせオレは、常人の凡人だよ!」


声は子供のそれなのに、まるで自分を諭すような様子に、カルロはむくれて海の方を向いてしまった。


「…僕、何か怒らせるようなこと言った?」

「大丈夫だよ。…よくあることだし。」


首を傾げるクロに、ショウは苦笑して言った。


「そうですよ。どうせ、言い返せなくなっていじけてるだけですから。」

「イオ…容赦ないね…」

「よくわかってるんだね。さすが似た者同士。」

「…それは、クロに言われるのでもイヤです。」


イオが丸太から削りだした木の船を、魔法で巨大化し、足りない分の浮力を付加する。

新しくできたショウとカルロの船は、木製の立派な船になった。


「でも、小さいのを作って体積を変えるより、森の木を使って、実物大で作る方が楽だったんじゃない?」

「それでは、クロが交わした約束を破ってしまうだろう?」

「あ・・・そっか。」

『森の木を切るな』というのも、先ほどのカヅラが言った条件の中にあった項目だ。

「そういえば。ショウたちは、報酬には何を頼むの?」

「あー…そういえば。」


クロの問に、ショウは目を泳がせた。


「決めていなかったのか?」

「いや…その…船とか、修理なり中古なりで、頼めないかなぁ…とか思ってたんだけど…。」

「なるほど。」

「こんな形だけど、手に入っちゃったもんねぇ。」

「うん…だから、さ。なんか…保留とか、無理かなぁ…?」

「それは、ロスさんと話してみないと。」

「だね。」


ショウは笑うと、船の中で資料をまとめているのであろうロスへと目を向ける。


「彼は、有力な家の者だからね。大概のことは、大丈夫だと思うよ。」

「へぇ…すごい人なんだねぇ…。今更だけど、なんでそんなすごい人に仕事もらえたの?」

「ホント今更だね。」

「……。」

「…まぁ、一応私の父も、炎の国の長だからね。」

「…あ、そっか。」


国に大小はあれど、炎の国も魔法という特殊技術で栄えている国である。身分に申し分はないだろう。


「おい!港に着くぞ!」


いつのまにか復活したらしいカルロの声に海を見れば、確かにそこには、大地の島の西の港が見えた。


「イオ。」

「はい。ロス氏を呼んできましょう。」


イオは静かに、船の中に入っていった。


「ねぇ、この仕事終わったら、もう船降りるんだよね?」

「うん。そのつもりだよ。…邪魔だったかな?」

「え?……ち、違う!そうじゃなくて…!」

「じゃあ、寂しいんだ?」


ライは、とてもイイ笑顔でショウを見た。


「あー…だから、その…。」

「また、どこかで遇うよ。きっと…ね。」


ショウが言い淀んでいると、ライは人をくったような笑みを崩して、どこか大人びた顔をした。


「ショウには、とても…おもしろいものを、感じるから。」

「え…おもしろいもの?」


首を傾げるショウに、クロはまた笑い、言葉を続ける。


「だから…次に会ったとき、僕のこと忘れてたら…」

「……。」

「半殺しにしてあげるから。」

「……も、もちろん、覚えておきます。ハイ!」


ショウの緊張した声の後、短い沈黙が流れ…それは、どちらからともなく、笑いに変わった。


「何か、楽しそうだね。」

「ロスさん…」

「…君たちのおかげで、無事こうして帰ってくることができた。ありがとう。」

「まぁ、いいってことよ。」

「貴様は何もしていないだろうが。」

「溺れてた奴に言われたかねぇよ!」

「何だと!」

「ちょっと、二人とも!」


相変わらずの二人に呆れつつ、船は港へ入っていった。

長いようで短かった船旅が、今、終わった。




END



,

「酒場の邂逅」で話していた、依頼のお話です。

今回は新キャラが二人・・・一人と一匹?

ロスさんは、また大地の島での話を書いたら出てくると思います。

カヅラは・・・どうだろう。

一応、メインキャラの身内になるので、きっとどこかで。

意外な場所で再登場するかも。気長に待ってやってください。


今回のはカメラ視点って感じでしょか。

特に誰ってのは決めてなかったです。


しかし、あんまり話が前後すると、ホントによくわからなくなってきますね。

そのうち、ネタばれ注意の年表かなんか置こうと思います。

一応、明記するのは本編に書いたものだけで、随時追記したものを上げていくという形にしようかとは思いますが。

それでは、書きためてあった話が切れたので、

次回は少し時間が空くと思いますが、次のお話でお会いしましょう。


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