酒場の邂逅 後編
一方、ショウはというと…
「……ねぇ、ライ君。…名前教えてもらっていいかな?」
「……ライどうします?」
「……いいよ。」
「クルソウド=ライ=トゥルーク。…聞いたことあるか?」
「く…クルソウド…トゥルーク…?!」
「て、誰だよ。」
(トゥルークって言ったら…あれだよな…?でも、それなら計算も…あうし)
ショウは、おそるおそる…ライに尋ねる。
「魔物だよな?」
「うん。」
「…で、しかも上級。」
「まぁ。」
「その中でも、魔術に長けている…」
「うん。」
「…………つまり、魔族?」
「そういうこと。」
やっぱり、と驚きを隠せないショウと、
「ちょっと、話が見えないんですけど?」
全く理解できていないカルロ。
「判断した理由は?」
ライは、楽しそうだ。
「あ、いや…。魔物は人の五分の一の早さで年をとるって聞いてて…。生きてきた年数が、歳の五倍くらいだったし…。」
「それから?」
もはや、テストや面接のようだ。
「片言じゃない人語を話すから上級。で、魔法学校にいたっていうし…。なにより、トゥルークって、魔族の中でも最高峰って言われる血族だよね?」
「お見事。でも、よく知ってるね。…魔物の区別なんて。」
ショウの返答に感心していたイオも、はっとする。
「たしかに。」
「あぁ~、何故かこいつ、妙な知識が豊富なんだよな。」
「妙って言うな!」
「でも、事実だろ?」
「う…」
「でもよ~、何で魔族が、人間といるんだよ?」
「あ、オレもそれが不思議だった。」
「もしかして…‘使役’とかったやつか?」
魔法使いの中には、魔物を使役…もしくは魔物と契約して、戦ってもらう者もいる。
あえて魔法使いがやるというくらいなのだから、もちろん常人にはできないことだ。
しかしイオは…
「無礼な。」
機嫌を損ねた様子。
「違うよ、カルロ。使役ができるのは下級魔物…化物だけなんだ。」
「その通り。それに我々は、そんなことはしない!」
「あ~、そうなの?」
ほぼ魔法使いにしかできない特殊能力とは言っても、他の生き物を使役する、まして魔物を利用するなど、と軽蔑視する者が多いのも現実なのだ。
「悪い。こいつ、そういう知識全然ないもんだから…。」
苦笑いするショウに、イオは不機嫌そうながらも納得する。
そこへ…
「ところで…イオ、お前はいつまでここにいるつもりなんだ?」
ライ、こと‘クルソウド=ライ=トゥルーク’がそんな彼に話し掛ける。
「…なんかお前、妙にえらそうになってね?」
「僕は十三歳であって、十三歳じゃないから。人間の感覚の‘年相応’とは違うかもね。」
「ほぉ。」
「なるほど…。ところで二人は何で旅してるの?修行の旅かなんか?」
「え?あぁ。まぁ、そうだけど?」
「! おい、ショウ。何を考えてくれちゃってるのかな?」
ショウと付き合いの長いカルロは、嫌な(?)予感がしたようだ…。
「そんなふうに言うってことは、わかってんだろ?」
「……まぁ、な。」
「もしよければ、パーティ組まない?オレら戦士と盗賊じゃん?魔法使いがいると、なんか頼もしいんだよねぇ…。」
「戦士と盗賊がいれば、パーティとしては充分だと思うけど?」
「そうだぜ、ショウ。こんな奴らとパーティ組んで、どうするつもりだよ!」
「こんな奴とは心外だな。それはこちらの台詞だ。」
「ち、ちょっと二人とも…。ライくんもなんとか…」
「いいんじゃない?ほっとけば。結局は似た者同士なんだろうし。」
「「なんだって!?なんでこんなやつと!!」」
「……。」
「ね?仲良くハモってる。」
「確かに。」
クルソウドの言に、二人は言葉を失う。
「あ。で、ライくん。返事は?パーティ組む?組まない?」
「別にいいよ。ねぇ?イオ。」
「……クロがそう言うなら…。でも、足手纏いにはなってくれるなよ?」
「あ?オレのことじゃねぇだろうな?」
カルロは思い切り顔をしかめる。
「ほぉ、自覚があるのか。」
「なんだと!」
またもや火花が散りそうになるが…
「大丈夫だよ、イオ。」
クルソウドが鎮める。
「どういう…?」
「彼ら、強いから。」
「「え……?」」
今度は、ショウとカルロが言葉を失った。
「…まぁ、クロがそう言うなら…そうなんでしょうけど。」
「マジかよ。」
イオの急変する態度に呆れつつ、カルロは強いと言われて気分が良かった。
「今現在の力量はわからないけど、潜在能力が高い。」
「……なるほど。」
イオはクルソウドの視線に促され何かを見て、納得する。
「ところで。」
クルソウドは、またおもむろに口を開く。
「そっちの…カルロだっけ?…は、納得してるの?」
「…カルロ、いいよな?」
「俺は…お前に協力するだけだ。イオは気に入らねぇけど、魔法使いがいると頼もしいのは確かだしな。」
「なるほど。あくまでも、私のことは気に入らないと。まぁ、それもいいんじゃないですか?…しかし、パーティは組むとして、旅の目的は?」
「別にいいじゃん。僕らは修業になればそれでいいし。」
「そうもいかないだろ。彼らのやりたいことが、私たちのなかの倫理に反することだったら困る。」
イオの問いに、ショウが答える。
「特別なに、とは決まってないんだけど…。オレは、昔消えた兄を探しているんだ。」
「兄?」
「こいつの双子の兄貴、何年か前に、神隠しにあってんだ。」
「…そうだったんだ…てががりは何か?」
ライは、真剣にショウの話しに耳を傾ける。
「いや…。だから、見つけられるか分からないんだけどな。」
ショウは、少し寂しげに笑って言った。
「…大丈夫だよ。類似のものは、呼びあうから。」
そんなショウを、クルソウドは静かに励ます。
「あ?類似?なんだそりゃ?」
「貴様はそんなことも知らないのか。…姿形の似たものは呼びあう、ということだ。」
「……類は友を呼ぶってやつか。」
カルロは一人で納得する。イオは微妙な表情。
「カルロ、少し違うんじゃないか?」
「まぁまぁ、気にすんな。」
「カルロは?」
「え、オレ?オレは…ショウの行くとこに着いていくだけだ。決めたんだ、こいつについてくって。」
「ふぅん。」
クルソウドは、カルロとショウを見て、にこりと笑った。
「なんだよ。」
「別に。いいなぁ、と思って。」
「お前らは?」
カルロは、照れ隠しのようにぶっきらぼうに尋ねる。
「だから、修業の旅だと…」
「それだけ?本当に。」
呆れたように言うイオにかぶさって、重ねてショウが尋ねる。
「…少なくとも、私は修業の旅だ。」
「じゃあ、ライくんは?」
「……そうだな……なんだろうな…。」
「って、おい!」
「まぁ、人間には理解しがたいことさ。………正直、僕もまだわかんないときあるし。」
「え?」
「いえ、何でもありません。」
「まぁ、ともかくさ。いいかな?パーティ結成ってことで。」
「うん。」
「はい。」
「あぁ。」
クルソウド、イオ、カルロ。みんな頷く。
「よっしゃあ!」
クルソウドがかけていた空間隔離の呪を解いた後、勘定を済ませて酒場を出た彼らは、
ショウとカルロが泊まる予定のホテルの一階ロビーで立ち話をしていた。
「んじゃあ、改めて自己紹介するな。オレはショウ。ショウリュウ=アサダだ。職業は戦士。よろしくな。」
「オレはカルロ。ただのカルロだ。職業は盗賊。」
「僕は…クルソウド=ライ=トゥルーク。とりあえずライでいい。職業は魔術師。よろしく。」
「私はイオ。イオ=グレネード。魔法使い(ウィザード)だ。」
一通り自己紹介を終えた後…
「マジシャン?ウィザード?二人とも、魔法使いじゃないのか?」
「…微妙な分類があるんだよ。カルロにはわからないだろうけど。」
クルソウドのにこやかな返答に、カルロは少し納得できないものを感じつつも、それ以上は追求しようとしなかった。
どうせ聞いても、半分も理解できないのだろうから。
「んで?これからどうすんだ?」
そう思ってカルロは、話を進める。
「そちらに予定は?」
「…あるっちゃあるけど…」
イオの問いに、ショウは歯切れの悪い返事をする。
「正式に依頼されたわけじゃねぇし、旅費も足りねぇしな。」
「仕事?」
「だから、正式なのじゃなくて、ただの頼みごと。行けば恩賞がもらえるかもってくらいで、なんも保障はねぇんだ。」
クルソウドの呟きに、カルロはめんどくさそうに付け足す。
「でも、助けられるなら助けてあげたほうが…」
「誰も行かないとは行ってねぇだろ!…なんにしたって、旅費が足りなきゃそこへ行くことだってできねぇじゃないか。」
「…まぁ、そうだけど…」
カルロの言うことはもっともであり、ショウもしぶしぶ納得する。
「ってなわけで、オレらに特別な予定はねぇけど、旅費稼ぎはしたいってわけだ。」
「じゃあ、何か仕事を引き受ければいいんだな?」
「まぁ、そういうことだな。」
カルロが妙に偉そうだ。やはりまだ、イオが気に食わないのだろうか?
「なら、好都合だ。実は、今私たちはある依頼を受けたんだが、それに必要な船がなくてね。」
「船が無い?!」
「なら、どうやって島々を旅してるんだよ!!」
イオの思わぬ発言に、二人は目を見開く。
「いろいろあるでしょ?そのくらい。」
が、その疑問にはクルソウドが即座に、静かに答えた。
「はぁ?」
(そっか、魔法使いだもんな…。)
「あ、でも…二~三人乗りの船だから、ちょっと窮屈かも。」
首をかしげるカルロに対し、ショウは一人で納得すると、船の件に付け足す。
「まぁ、その辺はなんとかなるよ。」
「…そっか。そう言うなら、大丈夫なんだろうけど…。」
「そんなことより!」
イマイチ話に着いて行けてないカルロだったが、すぐに頭を切り替える。
「その依頼の報酬は?」
「またお前は…」
やはり‘金’中心のカルロに呆れ気味のショウだが、
「依頼人は貴族の男。報酬もかなり期待できる。」
イオはニヤリと笑って答える。
「現物でも、お金自体でもいいと思うよ。…僕らは少し違うものを要求するつもりだけど。」
クルソウドも静かに付け足す。
「…そういうもんなのか?」
「え?何が?」
一人呆然とするショウの呟きに、クルソウドは首をかしげ…外見の年相応の仕草を見せる。
「あ…うん。まぁ、いいんだけど…。」
「へぇ、そりゃいいや。俄然やる気出るぜ!」
いつもはショウに止められて欲望を表に出し切れないカルロだが、今回はちょっと違う。
「ったく、ほどほどにしとけよ?」
ショウも、半ば諦めて仕事について考える。
「やっぱり、船かな?」
仕事について考えると言っても、聞いてる内容も僅かなので結局報酬のこと。
カルロにああ言った手前、少々後ろめたい気もするが仕方ない。
「船?」
ショウの小さな呟きを、耳ざとく聞き取っていたらしい。クルソウドがショウの横に来て尋ねる。
「うん…オレらが使ってるの、かなり古くなってるから…って、近っ!いつのまに?!」
クルソウドは確か、自分の向かい側…イオやカルロを挟んだ反対側に居たはずなのだが…
「あ…背後回られるの嫌だった?ごめん。」
「あ…いや、そういう意味じゃなくて…」
「クロ、人をむやみに驚かしてはいけませんよ?仮にも仲間になる方なんですから。」
二人のやりとりに気付いたイオが、クルソウドをたしなめる。
「別にそんなつもりじゃ…。それから、師匠を子供扱いするなよ。」
そんなふうにむくれる様は、やはり子供にしか見えず…
「クロは、私にとって師匠ですが、兄でもあり弟でもあるような…。そんな存在なんですよ。言う時は言わなくては。」
「……まぁ、確かに。僕は人間社会の常識はあんまりないから、仕方ないけどさ。」
クルソウドは、しぶしぶもとの場所に戻る。
「…ライって速いんだな。」
スピードを売りとする盗賊であるカルロが、少し悔しそうに言う。
「そう?」
クルソウドはさほどの事ではないとでも言うかのように、無邪気に首を傾げる。
それがまた、カルロを苛立たせることになるのだが…
カルロはイオのこともあまり好きではないようだし…
(今更だけど…このメンバーで大丈夫なのかな?)
一人、小さな?不安に駆られるショウであった。
Fin
,
今回の話は明確な主人公はいない感じでしょうか。
一応、メインの視点はショウくんですが。
最後に彼らが話している依頼のお話は、また次の機会に。
今回は、カルロについて少し。
・カルロ
本名 不明
性別 ♂ 種族 人間
生年 1609年3月
職業 盗賊
髪色 黒
瞳色 黒
言葉遣いがなっておらず、騒がしい奴。
トラブルメーカー?
でも、人の言葉を鵜呑みにせず、現実を見つめることができる。
それでは、また次のお話で。




