逃げ場は、最初からなかった
状況は、すでに引き返せないところまで来ています。
ここから先は、“選択”の問題です。
そしてその選択は、必ず結果を伴います。
王城、謁見の間。
空気は、これまでで最も重かった。
誰もが理解している。
もう、後戻りはできないと。
「……殿下をお呼びいたします」
王の一言で、側近が動く。
しばしの静寂。
やがて、扉が開かれた。
「失礼いたします」
王子と、その後ろに控える聖女セレスティア。
呼び出された形だった。
王子は一歩進み出る。
「……父上」
「今回の件について、弁明はあるか」
王の声は低く、揺るがない。
王子は、一瞬だけ言葉に詰まる。
だが。
「……私は、正しい判断をしたつもりです」
その言葉に、空気が冷えた。
「古い契約に縛られるのではなく――」
「新しい時代を」
「ほう」
王の一言で、言葉が止まる。
「その“新しい時代”とやらで」
「国庫はどう回す」
「……それは」
「軍は誰が維持する」
「……」
「交易は、どこに頼る」
答えは、ない。
完全に詰んでいる。
「……以上だ」
王は視線を外す。
すでに判断は終わっていた。
「お待ちください」
聖女が一歩前に出る。
「殿下の理想は、決して間違っておりません」
まっすぐに言い切る。
「変革には、勇気が必要です」
「多少の混乱は、避けられないものです」
その言葉に。
「せやな」
カグラが軽く笑う。
「ほな、その“混乱”で何人死ぬん?」
「……え?」
「国傾いたら戦争なるで?」
「誰が責任取るん?」
言葉が止まる。
「私は……」
「また“正しいことした”で終わりか?」
静かな一撃。
聖女は言葉を失う。
「……エレノア嬢」
王が呼ぶ。
「そなたの判断は」
「変わりません」
即答だった。
「婚約は維持いたします」
場が揺れる。
「ですが」
「殿下を伴侶として認めるかは、別問題でございます」
完全な線引き。
「信頼回復には、相応の行動を求めます」
「本件に関わる責任の明確化」
「および、王家としての公式謝罪」
静かに言い切る。
「それが最低条件でございます」
「なっ……!」
王子の顔が歪む。
「私に謝罪しろと!?」
「国家に対して、でございます」
逃げ場はない。
「できぬのであれば」
一拍。
「婚約の再検討に入ります」
その瞬間。
王子の顔から血の気が引いた。
「……殿下」
王が低く言う。
「選べ」
それだけだった。
謝罪か。
破滅か。
残された道は、二つに一つ。
沈黙。
誰も助けない。
誰も庇わない。
その中で。
王子は、ようやく理解する。
自分が、最初から逃げ場のない場所に立っていたことを。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
選択は提示されました。
あとは、その結果が示されるだけです。
次話、いよいよ決着です。
よろしければ、このままお付き合いください。
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