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慈悲は、免罪符にはならない

ここから、少しだけ空気が変わります。


これまで積み上げてきたものが、ひとつの形として表に出る回です。


どうぞ、その“理由”を見届けていただければと思います。

 王城、謁見の間。

重苦しい空気の中。

その場の空気を切り裂くように、もう一つの足音が響いた。

 重苦しい空気の中、新たな人物が姿を現した。


「……この騒ぎ、聞き及んでおります」


 王妃だった。


 穏やかな声音。


 だが、その視線は真っ直ぐにエレノアへ向けられている。


「エレノア嬢」


「はい」


「少々、やり過ぎではなくて?」


 静かに言い放つ。


 空気が、張り詰める。


「確かに、あの子の行いは軽率でした」


「ですが――」


 一拍。


「ここまで国を揺るがす必要があったのでしょうか」


 母としての言葉。


 庇うような声音。


「まだ若いのです」


「過ちの一つや二つ、あって当然ではありませんか」


 その言葉に。


 ほんのわずかだけ。


 空気が変わった。


「……なるほど」


 エレノアが、ゆっくりと顔を上げる。


 その瞳は、いつもと変わらず静かで。


 だが。


 確かに温度が落ちていた。


「では、お伺いします」


「何がでしょう」


「“過ち”とは、どの範囲を指すのでしょうか」


 王妃が、言葉に詰まる。


「今回の件は、公の場における契約否定」


「加えて、外交問題の誘発」


「さらには、国家機能の停止に至る可能性」


 一つずつ、丁寧に並べる。


「これを」


 一拍。


「“若さゆえの過ち”で処理されると?」


「……」


 沈黙。


「母として、庇いたいお気持ちは理解いたします」


 声は穏やかだ。


 だが、逃げ場はない。


「ですが」


 わずかに、間を置く。


「それは“王族としての責務”とは別問題でございます」


 完全に、切り分けた。


「感情と責任は、同列には扱えません」


 その一言で。


 場の空気が凍りつく。


 そして。


「もう一つだけ、申し上げます」


 静かに続ける。


「なぜ、ここまでの措置を取ったのか」


 王妃の視線を、真正面から受け止める。


「理由は、極めて単純です」


 一拍。


 その声音に、わずかな鋭さが混じる。


「――侮辱されたからでございます」


 その一言が、静かに落ちた。


 理由は、あまりにも単純だった。


 あまりにも明確で。


 そして――あまりにも、個人的だった。


 次の瞬間。


 この場の全員に、戦慄が走った。


 国家でも、契約でもない。


 その根底にあるのは。


 ただの、徹底した仕返し。


 あまりにも規模の合わない“感情”が、現実を動かしている。


 誰も、言葉を発せなかった。


 それがどれほど異常なことかを、理解してしまったからだ。


「……嫌がらせ、ということですか」


 かろうじて、誰かが呟く。


 エレノアは、わずかに首を傾げた。


「結果としては、そのようになります」


 ざわ、と空気が揺れた。


「公の場において」


「正式な契約を、権限なき者により否定された」


「これは国家問題であると同時に」


「我が家への明確な敵対行為」


 そして。


「個人としても」


 ほんの一瞬だけ。


 言葉が、低くなる。


「看過できるものではございません」


 それだけだった。


 それだけで。


 十分だった。


 沈黙が落ちる。


 誰も、何も言えない。


 その中で。


「ええやん」


 カグラが、楽しそうに笑った。


「めっちゃ分かりやすいわ」


 肩をすくめる。


「要するにやな」


 一歩前に出る。


「国とか理屈とか抜きにしても」


「普通にムカついたってことやろ?」


「……否定はいたしません」


 即答だった。


謁見の間の端。


 数人の貴族たちが、誰にも聞こえぬよう声を潜めていた。


「……見たか」


「ああ……」


 視線は、自然とあの二人へ向かう。


 だが、すぐに逸らされた。


 直視できない。


「たかが公爵令嬢、のはずだろう……」


「“たかが”で済む相手か」


 乾いた笑いが漏れる。


「西は国を止める」


「東は国を崩せる」


「……なんで並んで立っている」


 誰も答えない。


「王子は……」


「終わったな」


 即答だった。


 だが、一人が首を振る。


「いや、違う」


 低く、重い声。


「“終わらせてもらえていない”だけだ」


 沈黙。


 誰も否定しない。


「関わるな」


 最後に一人が言う。


「……あれは、人が触れていい領域じゃない」


その場の空気が、2人の公爵令嬢に完全に支配されたのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


この一件の“理由”は、非常に単純でした。


そして次話、いよいよ決着へと向かいます。


最後までお付き合いいただければ幸いです。


面白いと思っていただけたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

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