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正しさは、だいたい空回りする

ここで、新たな人物が登場します。


とても“正しいこと”を言っているはずなのですが――どこか少しだけ、噛み合っていないようです。


その違和感も含めて、お楽しみいただければ幸いです。

 王城の一室。

 王子は苛立っていた。

「なぜだ……!」

 机を叩く音が響く。

「なぜ、あのような連中に頭を下げねばならん!」

 返事はない。

 あるのは、重たい沈黙だけだった。

「私は間違っていない!」

 そうだ。

 自分は正しい。

 古いしがらみに縛られた婚約など、断ち切るべきだった。

 もっと自由で、もっと正しい国を――

「その通りです、殿下」

 柔らかな声が、部屋に落ちた。

 振り向く。

 そこに立っていたのは、一人の少女。

 白い衣を纏い、穏やかな微笑みを浮かべる存在。

 聖女。

「……セレスティア」

 王子の表情が、わずかに緩む。

「やはり、私は――」

「ええ」

 優しく頷く。

「殿下の選択は、間違っておりません」

 救われた気がした。

「古い契約に縛られる時代は、終わるべきです」

「そうだ……!」

 王子は力強く頷く。

「私は、この国を変える!」

「はい」

 聖女は微笑む。

「そのために、私もお力になります」

 その言葉に、疑いはなかった。

 少なくとも、王子には。

 同時刻。

 王城、別室。

「で?」

 カグラ・フォン・アマツが椅子にだらりと座りながら言う。

「例の聖女、来とるらしいな」

「はい」

 エレノアが静かに頷く。

「殿下と接触しているとの報告が」

「ほーん」

 興味なさげに返す。

「原因、あいつやろ?」

「可能性は高いかと」

「やろな」

 あっさり認める。

「ほな呼ぼか」

「すでに手配済みです」

「仕事早いなぁ」

 くつくつと笑う。

 その直後。

 扉がノックされた。

「失礼いたします」

 入ってきたのは、聖女セレスティア。

 柔らかな微笑みを浮かべ、優雅に一礼する。

「お初にお目にかかります」

「西方公爵家嫡女、エレノア様」

「東方公爵家嫡女、カグラ様」

「聖女セレスティアと申します」

「……エレノア・フォン・ヴァイスハルトです」

 淡々と名乗る。

「カグラや」

 軽く手を上げる。

「で?」

 いきなり本題だった。

「なんで引っ掻き回したん?」

「……え?」

 一瞬、空気が止まる。

「婚約破棄や」

 カグラが続ける。

「殿下、完全にあんたの影響やろ」

「そのようなことは……」

 聖女は困ったように微笑む。

「私はただ、正しい選択をお伝えしただけです」

「正しい、とは」

 エレノアが静かに問う。

「はい」

 聖女は胸に手を当てる。

「民のための改革です」

「古い契約に縛られず、より自由で公平な国へ」

 堂々とした言葉だった。

 だが。

「財源は」

 エレノアが即座に返す。

「……え?」

「その改革に必要な財源は、どこから捻出されますか」

「それは……」

 一瞬、言葉に詰まる。

「きっと、なんとか――」

「なんとか、とは」

 容赦がない。

「具体的な数値でご説明いただけますか」

「……」

 沈黙。

「軍は?」

 さらに重ねる。

「再編成には時間と費用がかかります」

「その間の防衛は、どのように維持されるおつもりで?」

「それは……」

「無計画やな」

 カグラがあっさり言い切る。

「え?」

「理想だけやん」

 肩をすくめる。

「で、現実どうすんの?」

「ですが……!」

 聖女が一歩踏み出す。

「変革には、多少の混乱は必要です!」

「せやな」

 カグラは頷く。

「ほな、その混乱で何人死ぬん?」

「……え?」

「国傾いたら戦争なるで?」

「その時、誰が責任取るん?」

 言葉が出ない。

「私は……」

「“正しいことした”で終わりか?」

 静かに刺す。

 沈黙。

「……なるほど」

 エレノアが小さく息をつく。

「状況は理解いたしました」

 視線を向ける。

「殿下が誤認されたのも、無理はありません」

「え?」

 聖女が顔を上げる。

「言葉は整っておりますが、内容が伴っておりません」

「つまり」

 一拍。

「ただの理想論でございます」

「なっ……!」

 初めて、表情が崩れた。

「ひどいです……!」

「民のためを思っているのに!」

「せやな」

 カグラが笑う。

「ほなまず、計算してから来よか」

「話はそれからや」

 その言葉で。

 完全に、勝負はついていた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


状況はさらにややこしくなってまいりました。


そして次話、いよいよ“現実”が動き出します。


よろしければ、このままお付き合いください。

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