第91話 空を翔ける『固定』
32日目
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今日は疲れていたのかぐっすり眠ってしまった……俺の見張り番も何か気を遣われたのか飛ばされてたし。
昨日は色々な事があったし、みんな夜も作戦会議やら雑談で盛り上がってたもんなぁ……ちょっとだるいかも。
頭がすっきりしないけど……歯でも磨くか……
リョウコが女性陣の部屋から出てくる。ホームは使わないで拠点メンバーと馴染みたい……って言ってたな。
「おはよーございま~す」
「おう、おはよう。元気出た感じか」
「はい、おかげさまで」
歯を磨く手を止めてリョウコの様子を見る。大分普通な状態に見えるけど……
「どうだった……大丈夫だったか?」
「どれを指してかわかりませんが、皆さん受け入れてくれたようです。ウィンディとも話をしました。フクロウ便に文章書くので大変だったみたいですが」
そういえばいつもは早朝から見張り台にいるのにいないな……まだ寝てるのか?
「すごいですね……水道ができてるなんて……」
「ああ、タンク上に置いてそこから出す感じだから、川の水そのままらしいぞ。歯を磨くくらいだからな……んで、あっちが飲料水用……って決まってるみたいだな。手動ポンプでなんかやってるとか?」
「なる……木製の歯ブラシなんて……凄いもの使ってますよね……」
「慣れると行けるぞ? ってか凄いよなぁ……こんなのまで作れちゃうなんて」
「そっちのスキル……いいですよね。私たちのは……こう、戦闘向きのばっかりで……リスト見ても生産系は無いんですよね……」
歯を磨きながら門の方を見ていると、鬼人族達が身支度を終えて出発していた。かなり急いでる感じだな。色々なところに「レアモン」聖獣の保護を連絡って言ってたか。フクロウの数には限りがある……とかで。
ほんと鬼人族は身体能力高いなぁ……もう姿が見えない。全員で逃げ回ればなんとかなるんじゃないかなぁ……あれだけ強くても銃には負けたのか……信じられないな。
「あの、私は何かお役に立てるんでしょうか? この拠点で?」
「生産には回らずに、俺らとスキルオーブやら妖魔の駆除かなぁ……」
「なんか色々と、船を落とせる兵器をつくるとか言ってましたけど……」
「巻き上げ式のバリスタ……って言ってなぁ……」
「大砲VSバリスタですか? 敵わないような?」
「大砲VSスキル付きバリスタ。かな」
「……なるほど、スキルでブーストするんですね……」
「あとはトウガラシ爆弾やら、アルコール火炎樽とかいってたかなぁ……」
「空爆するんですね……ショウコさんがいればやりたい放題ですね……」
「銃だから射程距離がなぁ……あとは海の上だから風向きちがうだろうし」
「ああ、落とすだけ……なのか」
「なんか、バリスタ改良して色々やるって言ってたかなぁ……」
さて、俺はどうすればいいのかな? 兵器作成を手伝った方が良いような……
そんな事を考えていると、ナオエさんとジンパチさんがこちらの方に話しながら歩いてくる。
「あ、カタシさん。すみませんが、兵器の作成の方に回っていただけますか? 時間が間に合わなさそうなので」
「あれ? そんなに時間足りてませんか? 一週間後って話じゃ?」
「ええ、鬼人族の高速移動で一日半……およそ2日……との事だったので参加希望者を連れての移動だと5日はかかるかと思います」
あ、そうか……全員が高速移動できないんだった……こうなれば飛行機でも……
「……ちょっとアイディアあるんだけど……例のカード使っても大丈夫ですかね?」
「それは……カタシさんが貰ったものなので……なんとも」
ナオエさんが全く悩まずに意見を言ってくる。
「いいんじゃないかな。私のも使ってもいいし。ここが使いどころじゃない?」
「え? カードって、先輩たちも貰えたんですか? スペシャルカード?」
「……そんな名前なのか? まぁ、もらえたな。『帰還』とか『物見台』とか」
「あれ? 内容は同じですね。私も十枚くらい貰えたので……ホームに置いてありますが、使います?」
「……あ、トップだったんだっけ」
「十枚ほどもらえましたね」
ジンパチさんがまじまじとリョウコを凝視する。そりゃ驚くよな。
「トッププレイヤーだったんですね、リョウコさん……そのようには見えないのですが……」
「ほんとに」
確かにリョウコの見た目は……眼鏡も無くなってるし、女子大学生……スポーツはやってそう? くらいにしか見えないからなぁ……恐ろしきはステータス。とエーテルか。
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俺は魔改造型バリスタの作成を手伝った後、高速移動のアイディアを試してみる。
とりあえず30メートルくらいの木の上からの滑空には成功した。
はたから見たら俺が木の枝に掴まって空中をスライドしている様にしか見えないだろう。
【まさかスキルをこのように使うとは……】
まぁ、サチさん達からの助言が無ければ思いつかなかったんだけどね。
【物理法則を無視したスキルはやめるように提言したのですが……やはりこうなりますか……】
……え? アーゼさん反対派だったの?
拠点で見守ってたジンパチさんたちが走り寄ってくる。物凄く目がキラキラしてる様に見えるな。
「カタシさん……いつの間に空中浮遊を……」
「あ、これ、紙ヒコーキですよ」
「紙ヒコーキ……もしや『固定』製の……」
「そうです。ローカルで『固定』した空気を紙ヒコーキみたいにしてテスト……ですね」
「そんなことまでできる様に……」
「スキルㇾベルが上がったのもありますが、思った以上に形状はいじれるみたいですね」
空気を薄く広く『固定』すると、空気の重さの抵抗媒体となり滑空できる……まぁ、『固定』空中サーフィンできないか……から発展した感じなんだけどね。一応足にスノボくらいのボードを出したりして滑空……なども試したけど、すぐ落ちちゃったからな。やっぱり面積が必要みたいだ。
あれ? 落下した時に足に巨大な板を作れば色々できるか? 今度やってみよう。
いつも割とぶっきらぼうであまり関心を持たないタイプのカイさんが珍しくテンション高く話しかけてくる。
「なぁ、カタシさん。形状はどんな感じなんだ?」
「ええ、ふつうの紙飛行機ですね……」
「それはもったいないな……『固定』はどれくらい形状をいじれるんだ?」
「イメージしたものは大体そのままの形に……」
俺は見えやすいように地面の土をローカル座標で『固定』して持ち上げる。
紙ヒコーキならぬ、土ヒコーキの完成。ほんと面白いスキルだよなぁ。
「すげぇな……この薄さの土が……信じられないな」
「カタシさん、もしやこの『固定』ヒコーキで港町まで皆さんを運ぶ予定ですか?」
「……無理ですかね?」
「うーん」
「重量問題が多きそうだな」
「そうですね。さすがに人数が多いですからね。一トン以上ですか……」
「セスナ……レベルだったら出来そうなんだけどな……」
二人が本気で悩み始める。
「大きさによるが……どれくらい面積とれるんだ?」
「……今だと……体育館くらいは余裕で……1時間以上はもつかと」
「!!」
二人の表情が面白いくらいだった。驚くってこういう表情なんだな。演劇みたいだ。
「体育館サイズ?? ちょっと待って……えっと、運ぶ人数は……」
「拠点メンバーが15人、攻略組が5人、募集組が二人……ですね」
「21人を一気に運ぶのか?」
「……無理ですかね?」
「アヤノさんの重量操作と、ウキヨさんの浮くを組み合わせれば……重量はかなり減るかと」
「……『固定』された空気自体の重さは殆ど無いんだよな?……って事は後は、確か、例のカードで、一キロ上空まで飛んでいけるんだよな? 確か」
「試してはいませんが……カード自体は二つあるので……」
「あとは動力か……紙と書くものをくれないか! なんかすごいことになったぞ! ファンタジー世界万歳だな!」
何時もはもそもそとした印象で、回収した妖魔の武具を黙々と解体して素材にしてくれる感じだったけど……やる気が出るとこんな感じだったんだ……
「はい、どうぞ、カイさんがやる気なの初めて見ましたよ」
「……うるさいな。一応本職っちゃー本職だけどな……せっかくやりたかったことやれそうなんだ……」
「あれ? 職業は?」
カイさんはすでに集中モードに入っているらしく、代わりにジンパチさんが答えてくれた。
「航空技師と言われているものらしいですね。私も詳しくは知らないですが主にメンテナンスらしいですが……」
「なるほど……」
「ああ、すまん……思いついたことは書いておかないとな。整備ばっかりで……本当は飛行機の設計やりたかったんだけどな……ってかアナログの製図は久々だ……学生以来か」
カイさんがすらすらと図形を上げていく。うん、大分カミヒコーキからグライダーみたいにになったな。試しに地面の土で『固定』して作ってみる。うん。出来たな。試しに投げてみる……土なのに滑空した??? 薄くて重量無いからか……すごいな。
「すげぇな……スキルってイメージ次第なんだろ?」
「あー、俺も実は美術系出身で……絵を本業にしたかったんですが……」
「なるほどな。それじゃもちょっと難しくしても大丈夫か……って、推力って、カイトの回転だけか?」
「あとはウィンディードさんの風魔法ですが……どれくらいの風を吹かせ続けるかわからないので……フウタさんにご助力を得られれば風を操作できるみたいですが」
「風を操作できたら舵なんていらないかもな……スキルってすげぇな……」
「あちらはかなり無尽蔵な印象でしたね、ちょっと聞いてきます」
……一キロ上空からの滑空でも……そうか、21人も載せたら……港町までは届かなかったか……この辺は空専門の知識を持った人たちに任せればいいか。
§ § § §
俺は空を飛んでいた。
ショウコさんに連れられてではなく、『固定』ヒコーキでだ。実験も兼ねていたので、木の骨組に急造のプロペラエンジンを固定して……はたから見たらよくわからない木の枠だけが飛んでいる様に見えるはずだ……
目下に大木が見える。高さ三百メートルはある気がする……こんな風景だったんだな……最初、初日に落下して来た時のことを思い出すなぁ。あれはびびった。
「すごい! すごいです!! はははっ!!」
「怖い!! 怖いんだけど!! ひ~っ!」
「すげーなぁ……子供に見せてやりたいな……」
俺の後ろには、テンション爆上がりのフウタさんと、テンション爆下がりのウキヨさん、風景を心底楽しんでいるカイトさんがいた。
四人で『固定』ヒコーキに乗ってどれだけやれるか……とやっていたら綺麗に飛べるようになっていた。とはいえ、離陸や操作のほとんどはフウタさんのおかげなんだけど……
「お、降りたい……私、必要ないと思うんですけど!」
「スキル切れた時どうするの!」
「そうなんだけど!! 足元が……無いって……どこの絶叫マシンよ!!」
やっぱり機体が見えないと……怖いよね。俺は感覚で『固定』の形状が分かるけど……
とりあえずフウタさんのスキルがあれば左右どこにでも行けるのはわかったけど……無い場合もやらないとな。
「フウタさん、そろそろ風を止めてください」
「了解。ドキドキするな」
「ほんとに大丈夫なの!?」
フウタさんが『風操作』のスキルをやめると『固定』ヒコーキは滑空を始める。俺はカイさんに教えられたとおりに、『固定』ヒコーキの翼の末端に新たに『固定』の方向舵を追加する。
「おお、曲がった!!」
「ひいっ!!!」
「大丈夫……行けそうだ」
ほんの少し『固定』の舵を追加するだけでかなり曲がれる。スキルレベルが上がったせいか、かなり自由自在に操れるな。左右上下もすいすいと……
「カタシさん!! 速度弱まってる!!」
「あ、この場合は下るしかないのか……」
「ちょ、ちょっと!! うひぃ!!」
「これは……面白いな」
軽く下降して速度を出す。うーん。やっぱり推力が無いとこんな感じになるのか……さすがに港町まで滑空だけではいけないな。
「……俺のスキルが無くてもだいぶいけますね。省エネで行けそうだ」
「私だけ浮いてたらダメ? すごく怖いんだけど!」
「だから、ウキヨさんが今回のキーマンなんだからさ。慣れようよ」
「わかってるけど、怖いものは怖いの!」
「いつも浮いているのに?」
「ちょっと浮くと気持ち行けど、こんな高いのは怖いの!!」
……普段浮いている人間も怖いのか……どうしよう、カードで一キロ上空まで一気に駆け上る……のはどう考えても絶叫マシンなんだけど……落ちても死なないって書いてあっても厳しいよな……
「それじゃカイトさんお願いします」
「任された。スイッチON」
『固定』ヒコーキに固定された急造プロペラエンジン? のファンをカイトさんが『回転』させる。
推力が得られ……『固定』の舵だけで自由自在に飛べるな。これ……すごいな……
「大丈夫そうだな。もっと速く回せるが……」
「SP消費はどうです?」
「今が消費と回復が釣り合ってる状況だな」
「4人で釣り合ってるって事は……」
「1時間は飛べそうだが……試さないと駄目だな」
「SPも残しておかないと……向こうに着いたらすぐに戦いに巻き込まれるかもしれませんし」
「確かに……」
それにしてもすごいなぁ……これだったら色々なところにサクッと行って帰ってこられそうだ。何でこのアイディアをもっと早く出さなかったんだろ。
【周囲に警戒を】
ん? なんにも見えないけど??
「あの~!!」
「どうした?」
「空中でどうやって戦う……んですか!?」
「あー、それは……考えて無かったな」
「『固定』操作しながら『自動追尾』はできるのか?」
「多少は出来るんですが……ここまで複雑なのはまだ練習してませんね」
「……あの、たぶん……いや、完全に見つかっちゃいましたよ!!!」
「……げ」
「……あ」
ん? どうしたんだろ?
俺は後ろを振り返り、三人の視線の先を見る。……何か飛んでる……ドラゴン? 翼竜??俺たちの後ろを飛んでる……ってか狙ってる?? 視線が……俺たちだな。うん……
ヤバいぞ!! あの雰囲気は……獲物認定されてる!?
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