第89話 募集成功?
夕暮れにへとへとになりながらも拠点に戻ると、鬼人族の集団に囲まれた……見ない顔の男女のプレイヤーが来ていた。
どう見ても日本人……でも着てるものは鬼人族の服……何が起きたんだ?
「カタシさんおかえり!!」
いち早くこちらに気が付いたリンカさんが元気よくこちらに近づいてくる。が、何か気になったのか、ウィンディードさんの前で立ち止まり着ぐるみスーツをの顔部分を覗き込む。
「え? ウィンディ?」
「ア、シマッタ……『脱がないと……あれ?……脱げない?』」
恐竜スーツを着たままのウィンディードさんが慌ててスーツを脱ぎだそうとするが……チャックは後ろだった。
「ナオエ……タスケテ……」
「そうよね……仲間には見られたくないわよね……」
「どうしたのこんな可愛いの着ちゃって……凄い服があるのね……ってなんかすごい遊園地にありそうな……なんか雰囲気が薄いなぁ……不思議」
リンカさんも慌てて着ぐるみを外すのを手伝い始める。
「……あ、この前出してた、プレイヤーの救助の張り紙……ビラ配り? がうまくいったみたいで、鬼人族の砦に救助を求めるプレイヤーがたくさん集まったんだって。彼等がこの場所が大丈夫かどうか見に来たみたいよ」
……え? そんなことしてたっけ?
【ライラたちが主体となった瓦版のことですね。ビラ……とは言ってなかったようですが……なるほど、ビラ配り……ふむふむ……広告となる紙媒体を道で配る事……なのですね】
記憶を覗かないでよ……って、ちょっと前にしてたあれか。実行に移してくれたんだな。
それにしても早いような……
「お、カタシさん。おかえりなさい。その様子だと問題なかった様ですね……ん? 装備が変わっている? 後で何かあったか詳細をお願いします。救助されたプレイヤーが先行して視察に来たんですよ」
ジンパチさんと話していた男性と女性がこちらを向く。鬼人族の服を着て……ものすごく……こぎれいだな。洞窟組を初めて見た時のひどい状態と比べると大分状態が良いようだけど……って、一瞬、驚いた感じだけど……なんでだ?
「あ、こんにちは。お世話になっています。吹風フウタと申します。」
「あ、どうもー……日向ウキヨです。狩りに出られてた方ですか?」
「カタシです。えーっと、募集要項見てきてくれた人……の割には随分と綺麗な……あ、狩りと言えば狩りですね。探索してました」
「すごいですね……拠点に引きこもるだけじゃないんだ……」
「なんかすごい装備ですね……支給品じゃなくなってる……」
あ、そっちか……確かに装備がダンジョン産のものだったり、カンジさんとジンパチさんたちの特注のものだったりしてるもんな……
「……って案内は……」
「ええ、拠点の案内を終えたのであちらの様子を聞いているところです。あとは夕ご飯を食べた後にフクロウ便で連絡をするそうですよ」
鬼人族の伝書フクロウか……あれが一番早いっぽいもんな。あれ? この思念石を使えば伝達が楽なのか?
【交信石と言っていたかと……】
……そうだっけ……名詞覚えるの苦手なんだよね……
「なるほど……って、募集かけて二人だけ……なんですか? 来てくれたの?」
「あ、ちがいます。僕らは先行して様子をみに来たんですよ」
「フクロウ便が使えるとのことだったので、機動力……じゃなくて移動に手間取らない私たちが先に様子をみに来た感じです」
「なるほど……移動系のスキル持ってるんですか」
「……全然……」
「移動系じゃないですね……はは」
女性プレイヤー……ウキヨさんがふわっと浮く……なんだ? 飛ぶ……スキルか? あれ?空中に浮いただけ? 隣にいた男性プレイヤーフウタさんが手をかざすとすごい勢いで飛んで……あ、なんか慌ててさらに浮いてるな……
「ちょっと!!強すぎ!」
「あ、ごめ……力加減間違えた!」
フウタさんの周りに暴風が起きたと思ったら風に乗って追いかけて飛んでいく……飛べるほどの風を操作できるのか! すごいな?? あれ??? なんかウキヨさんが遥か彼方に……あれだけ強い風を纏いながら追うと更に飛んでっちゃうような? 扇風機をもって風船を追いかける感じだろ?? 一緒にやるの慣れてないのか?
「『浮く』と『風操作』らしいですよ」
「……便利ですねぇ……便利ですよね?」
「外で自由にやるのに慣れてないって言ってましたね……飛んでっちゃいましたね……」
「まぁ、こっそり隠れるの主体だったら……そうなりますねぇ」
「浮いて鬼人族にひっぱってきてもらったんだって! すごいよね!」
……そりゃ本当にすごい。風船状態で来たのか……
「……とりあえず夕飯食べましょうか。良い匂いしてますし」
「いいんですか? あれ? ほっといて?」
「空中に逃げられたらこの辺の魔獣は大丈夫でしょう」
「たしかに」
オロオロする鬼人族の護衛をしり目に俺たちは食堂の方へと向かった。あれ? なんか食堂もパワーアップしてるな……たった二日離れただけなのに……なんという開発力だ。
§ § § §
俺たちは食堂で夕ご飯を食べながら募集組の様子を聞いていたが……
「六十人???」
「はい、それだけ集まった感じです」
「さらに集まってるって言ってたような……」
「なんでも通訳さんの話だと、新規プレイヤーの居場所は鬼人族に筒抜けだったらしく、効率的に瓦版と……その、とても良い匂いにする「お握り」と「モチ」にやられて……」
「まぁ、わざわざ隠れてる近くで醤油を塗ったモチを焼き始めるのは……反則だよな……」
「ほんと……誰の入れ知恵なんだろ……」
……なにそれ、食で釣るなんて……俺達みたいなことを……飢えた状態で醤油なんて……
【発案者はこちらの拠点のメンバーのはずですが……】
……そうだったのか。あ、洞窟組のアイディアか……涙流しながらご飯を食べてたもんな……なんか話を聞きながらニヤニヤしてるから……そうなんだな。してやったりって感じか。
「あれ? ……ジンパチさん……60人は……さすがに受け入れられない様な……」
「はい、今後は大丈夫かとおもいますが、町の拡張と食料問題があるので、一気に増えすぎも困るんですが……」
「あ、希望者は三分の1の二十人くらいですね、今回の戦闘に向かないと思ってる人や、生産系のスキルで生かせそうな人が希望してる感じです」
「……あとの40人はどうするんですか?」
「『通訳』のスキルを持った人がいたんで鬼人族の話を聞いて……鬼人族と一緒に侵略者と戦うという人がいまして……」
「鬼姫さんたち重鎮も感動してましたね」
「……まじか」
サチさんが驚きの声を上げる。
「サバイバルゲームには参加しないのに……侵略者と戦うですって?」
「……大丈夫なのかよ?」
まぁ……確かにそうだよな……
「そりゃ……いいごはん食べさせてもらってますし……鬼人族もいい人たちばかりで……」
「もともと生き延びる事に精一杯だったので……目的が遠すぎたんですよね……黒結晶なんてどこにあるかもわからないし……隠れてやり過ごす事ばかり考えてたし……」
「……人のために町を守るって、すごい分かりやすい目標だと思いませんか?」
「それと、鬼姫さんの話を聞くとね……筋も通ってるし、間違っているのは侵略者側だもんなぁ……」
……これは、募集作戦がうまく行き過ぎて……鬼人族を完全に信頼してる感じか?
【それは助けてもらえば恩義も感じるでしょうし、衣食住の確保で忠誠心は得られるでしょうね】
……なるほど……ここの拠点に来る募集的な話だったけど……結果オーライってやつ?
侵略者……あっちのことだよな? 中世ヨーロッパ風のいでたちをした……
「あの、侵略者側って……えっと、海賊みたいな?」
「え? 知ってるんですか?」
「そうです、『遠見』のスキル持ちの人が偵察にいったら……パイレーツオブカリビアンみたいな人がたくさんいる! って言ってましたね」
「こっちにも来てたんですね……」
あ~やっぱりあれか……海岸間違えてるよ……って教えた人たちの仲間か……やっぱり鬼人族に手を出そうとしてたのか……どう見ても侵略する武器や道具がそろってたもんね……
「……まぁ、そんな感じですよね……」
「やっぱり沈めておいた方が良かったかもね……」
「まぁ……そうだね……今となってはだけど」
ジンパチさんが心配そうにしていた。
「あの、相手は銃をもってるんですよ? 大丈夫ですか?」
「その辺も色々と、あ、鬼人族がすでに知識を持ってるみたいで研究されてましたよ。塹壕みたいのも掘られてましたし、なんかコンクリートの壁みたいのも建てられてましたね」
「なんか、第一次世界大戦の映画みたい……って言ってる人いましたね」
「ドイツとか何とか言ってたっけ……」
「鬼人族の戦士っぽい人が、目に見えない攻撃の正体が分かったから何とかなるとか言ってたかな……」
「銃を知らなかったみたいですけど、ここの拠点の人から教えてもらったとか?」
「あの銃作ったんですか?」
「あー海賊達からもらったんだよね……鬼人族の敵とは知らずに」
「ウィンディが戦闘に参加しなかったから……敵認定はしてたと思うけど……」
「俺たちは中立だからなぁ……」
「大丈夫なのかな……スキルによっては完封できるとは思うけど……流れ弾に当たったりしそうだし……確か船に大砲もあったような?」
「40人もプレイヤーがいればスキルの組み合わせで何とかなりそうな気もするけど……」
「大砲も空爆で何とかする……みたいにいってましたし」
「あの仕組みだと上は向けないと言ってましたね」
「大砲をしのいだとしても……問題は銃の射程なんだよなぁ……」
「スキルの射程って、銃より大体短いからなぁ……」
「それも大丈夫みたいですよ」
「なんか、地下迷路みたいのを作って裏を……って言っちゃいけない奴か」
「ほんと、スキルによっては夢みたいなことできるもんな……」
「わたしは浮くだけだしねぇ……」
「俺は風起こすだけだからな……ウィンドカッターとかできればいいんだけど……」
風船みたいになって飛んでいけるのは……ある意味夢のスキルとは思うけどなぁ……夢で見るふわふわ浮くあれだよな。あとで『浮く』をかけてもらいたいな。
それまで黙って聞いていたリョウコが質問をする。
「それで、その海賊との戦いはいつ始まるんですか?」
「ああ、それですが、1週間後……だろうと言われているんですけど」
「なんか小舟で海の調査をしてたりしてたもんな」
「私たち日本人にとっては……ちょっとわからないんですよね。沖にある島付近に停泊していますし、すぐにでも攻めてきそうなのに」
「何で断定できるるんだろうね」
「ね」
「なるほど……私の記憶と同じ……と言えば同じですね……鬼人族の生き残りの人が持ち越せてる場合もある……妖魔の動きも場所によってはおかしい……となると……」
何やらリョウコが考え始めたな……ずっとブツブツ言ってるけど……質問した人間が思考に入り込んじゃダメでしょ、何か二人が困ってるぞ?
「ねぇ、カタシ君……どうする?」
「……どうするとは?」
「助けに行く?」
「……あ、そうか……」
なんか遠い国の出来事かと思ってた……戦争……に参加する感じだよな……大砲と鉄砲を持った海賊の船団が鬼人族の港町を襲う……どんなイメージなんだろ? それこそパイレーツオブカリビアンみたいな感じ? 迎撃する方には魔法もスキル持ちもいるだろうし……全然違う戦いになるか?
サチさんが上品に食事を終えこちらに向き直る。
「ねぇ、話を聞いていると……助けに行く流れに思えるけど……それで大丈夫なの? 私たちの目標はゲームのクリア、黒結晶の破壊だと思うのだけれども」
「そうだな。俺もそう思う。俺はあまり鬼人族に恩義なんて感じて無いからさ。リョウコの見てきた未来を変えて……何か意味あんのかなって。戦争に行くと人を殺すだろうし、殺される可能性もあるんだぞ?」
「今度は光となって消えるプレイヤーじゃなくて、相手はこの世界の「人間」なのよ? それがカタシさん、あなたにできて?」
……そうか、妖魔退治と……全く違うか……人間退治?
ってかサチさんには俺の心の弱さを……色々と見抜かれ始めてるな……
【心をのぞける立場の私からも心配ですね】
ぐっ……そうですよ。人間相手には……ちょっと抵抗があるんだよね……いや、かなり抵抗がある。鬼人族がやられるのもイヤだけど……あ、鬼人族のみなさんは……ウィンディ-ドさんを交えて何やら真面目に話をしてるな。
彼らの表情を見ていると……角が生えていたり、犬歯が少し長いけど……あちらも人間に見えるんだよな……
なんか……分岐点に差し掛かった気がするな……
しばらく悩んでいると、ジンパチさんが俺の席の近くに寄ってくる。
「カタシさん、どうしましょう? 何やら拠点の仲間も……何人かが助力をした方がいいんじゃないか? と言う話になってますね」
「……鬼人族には助けられっぱなしだもんな……うちらは」
「そうですね……食に関してもですが、色々と支援していただいてますからね……ナオエさんの力もあるかと思いますが」
元々はナオエさんのお人好しな性格でアスティナさんを助けた……そこから始まってるものな。あ、ナオエさんは……あの表情だと行きたいんだろうなぁ……彼女もゲームクリアが目的のはずなのに……なんだかんだ言って人助けする人なんだよな。
「聞き忘れてたけど……海賊の人数ってどれくらいなの? 後、防衛する街の規模って……」
フウタさんは、ざわめく周囲に圧倒されているようだった。まぁ、みんなすごいしっかりと議論してるもんなぁ……
「……ああ、すみません、話してませんでしたね。海賊船は7隻……ガリオン船とか言われる帆船付きの船ですね。大砲もあったりして。それと町ですが……江戸時代と明治時代の間くらいの港町で……3千人以上は暮らしている感じですかね……もっと多いかもしれませんが」
「昔は大陸とも貿易をしていたらしいのですが、この数十年はやっていないとか言ってましたね。漁船だらけでしたよ」
「なるほど……情報ありがとう」
……思ったより規模が大きかった……本当に戦争だな。どういう戦闘になるんだ? あ、リョウコが経験してるのか……
「リョウコ、この前の時はどうだったの?」
「……」
「リョウコ??」
反応が無かったので肩を揺さぶる。本気で思考に耽ってたみたいだな。
「え? へ? あ、なんでしたっけ?」
「前に人間が攻めて鬼人族を襲った……って話、大きな流れで話してくれないか?」
「あー、そうですね……」
フウタさんとウキヨさんが本気で驚いていた。
「……前にもあったの?」
「その割には綺麗な港町だったけど……」
リョウコが若干挙動不審になってくる。何かの空気を察したみたいだ。
だが、今がチャンスな気がするから付き合ってほしい……
「あの……先輩? もう少し……オブラートに……」
「やり直しの前の話らしいぞ?」
「「「え?」」」
「へ?」
「あ、先輩……言っちゃうんだ……」
§ § § §




