第76話 ゲーム性の違い
リョウコが涙目になりながら抱きついたまま俺の方を見上げる。
酔っぱらうとよく抱きついてきてたなぁ……懐かしい。
ってメガネかけてないのに違和感を感じるなぁ……何か可愛く見えるし。
「先輩! 助けに来てくれたんですね!」
「あ~様子を見に来ただけなんだけど……」
「……そこは助けに来たと……言う……あ、あれ? 若い? なんかつやつやしてるような……」
突然リョウコの腕の力が弱まり、腕を突き放して距離を置く。それと同時にキョロキョロと周りを見る。かなり挙動不審だ。
「浮いてるし……いや、地面が……え、若いですよね? なんで? あれ?」
そういえばリョウコは……あちらの姿のまま……と言うより明らかに新人社会人って年に見えるな。高校生には見えない。
【テストプレイヤーは、あちらの世界の肉体をそのまま生成したそうですね。今回は格差が生まれすぎたので統一したそうです】
……さっきのテストプレイヤーの年代もよく考えたらバラバラだったな。俺らの代はなるべく公平に……って全然公平じゃない気がするけど。
「なるほど……」
「……え、えっと……先輩は……その……他の新規プレイヤーみたいに……PVP(対人戦)やってるんですか?」
「……ああ、管理者……カミもどきの話だとそうだけど……」
リョウコが体を離そうとしたとのけぞっていたが足元に何もないのを見て混乱しているようだった。顔が若干ひきつり始めてる。
「せ、先輩は違いますよね??」
「リアルすぎて出来ないんだよね……どう見ても現実だろ? ここ」
「……よかった……」
え? なんかリョウコの手のひらからすごいエーテルの力が抜けていく……いつの間に?? なんか溜めてた? あれ? 俺やられるところだったのか?
【今のカタシならば死にはしないでしょうが、かなりのダメージを受けていたかと】
……なんてものを人に使おうとしてたんだ……
【警戒心が強い相手に不用意に近づきすぎです】
……いやさ、割と気安い関係だったから……ってか、抱きついてきたのリョウコじゃん! ああ何時ものノリで……
【なるほど……腐れ縁というやつですね】
「すげぇな……」
「ええ、まさかこれほどとは……」
リキさんとサチさんが何やらとても驚いているが……接近した速度が早すぎた事か?それとも今の必殺技みたいなスキル? 俺もほとんど見えなかったし、移動もスキルなんだろうか? 素のステータスだったらやばいよな……
「……ねぇ、その子は? あれ?」
ナオエさんがリョウコを見て考え込んでいた。住んでる地域が近いから見たことがある感じか?
「あの、助けてもらってあれですが……なんで先輩はここに? 後、なんで若いんですか? 後、なんで空中に浮いてるんですか??」
「ん? 気が付いたらカミのゲームに巻き込まれてたのと、一律18歳になったらしいぞ? 浮いているのは俺のスキルだ」
「え、いいなぁ、若いままの方が楽ですよね……出会ったころみたい……それで、新規プレイヤーは……なんで話してこなかったり、突然襲ってくるんですか?」
「……え?」
「そうなの?」
「マジか」
「……なるほど、視点を変えたらそう映るのね」
俺たちの中に変な空気が流れる。青天のへきれきってやつだな……
サバゲーだったら逃げるか、威嚇射撃とかするだろうから……まぁ、話し合おうとは思わない人もいるだろうなぁ……一千万円が歩いているんだもんなぁ……
【変な表現を使いますね……】
最近スキルオーブを見るとそう思う様になってた……って、テストプレイヤーからはそう見られられてたのか……
「あ……どう言えばいいんだろ……」
ナオエさんが困った俺に助け舟を出してくれる。
「とりあえず降りて話さない? SP消費もそれなりでしょ?」
「あ、確かに」
「SP?」
「スキルポイントだよ?」
「? え? それってスキル獲得する時につかうやつじゃ?」
「……やっぱりルールが違うみたいね」
ナオエさんの『伸びる』槍で、地盤が丈夫そうな場所へと一気に移動をする。リョウコは槍が伸びる事に非常に驚いていたが……やっぱりレアなスキルなんだろうか?
移動速度に関しては……全く驚いてないな。キョロキョロとしながらなすがまま運ばれてくれる。
とりあえず、イスとテーブルを出すか。いきなり拠点に連れて行くには……現実世界では仲が良いとはいえリスクがありそうだもんな。
彼女の事だから「仮想現実」的にゲームだからって割り切って色々やりそうだし。
【なるほどカタシの頭の中を見る限りは……生物を狩るのが好きな娘なのですね】
そうなんだよね、モンハン好き女子って珍しいよね。
とりあえず人数分っと、テーブルは……いいか、ご飯まだだし、オヤツはもらってないしな。あ、アヤノさんにもらったハーブティくらいは振舞うか。
「え!!??? なんですかそれ? 空間魔法?? え、ええええ!!! コストバカ高スキルじゃないですか?」
「……あれ? なんで驚いてるんだ?」
「もしかして、テストプレイヤーには……四次元収納ポーチがないとか?」
「……収納しやすいリュックをしているところを見る限りは……そうみたいね」
「随分現代的なデザインだよなぁ、それ欲しいんだけど。かっこいい」
「この収納ポーチだけで十分じゃない。リュックなんて戦闘の邪魔になるわ」
「確かにそうか……」
リョウコは俺たちの会話を聞いて羨ましそうな表情をしていた。
「……皆さんの異世界転移だと……そういうものが支給されてるんですね……いいなぁ……四次元収納欲しい! 空間魔法って、取得ポイント高すぎて取ってないんですよね……魔法の鞄の取得ミッションも難易度高めだった気がするし……」
「……空間魔法とは?」
「え? その収納できる魔法ですよ? 空間をゆがめたり……さっきも何もない空間の上に立ってたし……あ、先輩、もしかして、初期ジョブが「時空魔導士」なんですか?」
「じくうまどうし?」
「……何を言っているの?」
「ジョブシステムか? もしかして?」
サチさんが俺の服を引っ張る。
「……会話が完全にかみ合っていない気がして来たわ、ゲームのルールの根本から話をした方が良いかもしれないわね……」
リョウコがサチさんを見て不思議そうな顔をする。
「……え? 最初に職業を選択させられたじゃないですか? 問答無用に」
「してないな……」
「……それじゃぁ……スキルポイントを使用してスキルの取得……タイムリミットのせいで厳選できなかったりとかは?」
「してないわね。選べたのね……」
「……何かいろいろと違うんだね……」
リョウコが驚きの視線を一手に受け、たじろきはじめる。
「……そうみたいですね……あの、私は……獲物認定されてませんよね?? ね?」
「あー、俺たちはPVPやってないからな、相手から襲われない限りは」
「襲ってくる奴は問答無用で撃退させてもらうけどな」
「そうね、あなたは……大丈夫そうね……」
リョウコが俺に視線をバシバシ送ってくる。プレゼンでクライアントの反応が悪い時みたいな反応だな。
「……なんか会話が怖いんですけど……あたしたちはPVE、プレイヤーで協力してラスボスを倒す感じなんで、そういう会話はしなかったんですが……」
「ん? ラスボス……とは?」
「そちらの目標は「生物」なのかしら?」
リョウコがきょとんした表情でこちらを見つめる。
「そりゃぁ、「黒き魔人」にきまってるじゃないですか? 違うんですか??」
「……黒き魔人……」
「魔人?」
「目的まで違うなんて……」
「黒い靄を纏ったやつらのボスってことか?」
「えっと……その様子だと……先輩たちは目的が違うんですね?」
「ああ、黒い結晶を壊せば……終わるはずだけど……」
「……」
リョウコの視線が一瞬泳いだ後こちらの方を見る。
「黒い結晶……中央神殿にあるあれかな……」
「知ってるのか?」
「先輩たちの目的のものじゃないかもしれませんけど、富士山みたいな大きな山があるじゃないですか? それの中腹に大きな神殿がありまして、その中に祭られたりしてましたね……かなり強い鬼人族が守ってたり、守護獣がいたりして……」
俺は思わず仲間を見回す。
「……黒い結晶の場所がわかっちゃった??」
「わりとカミも正しい位置に書いてたんだな、あのイラスト」
「……中央ね……ねぇ、魔獣とか、黒い靄を纏った怪物とかいる状態でどうやって近づいたの?」
「それならすいすいと避けて行けば……って、黒い靄を纏ったモンスターもなんか今回から追加されたんですよね……ほんと嫌になっちゃう。黒い煙がバリアみたいになってるし」
「……追加?」
「今回から? なんだその、追加コンテンツ的なノリは……」
「……あ……その、どこまでルールが同じなんでしょう? 私からみたら新規プレイヤーも追加コンテンツ的な感じなんですけど……乱入的な感じかと……」
リキさんが呆れた感じで質問をする。
「って事は、この世界にはどんどんと新規要素が足されていくってことか?」
「え? そうじゃないんですか? だんだん大変になっていく感じなんですが……あれ? やっぱりルールが違う? ゲームマスターに最初にどんどん新要素追加するから楽しんでね! って言われたんですけど?」
ゲームマスター……思いつく人間、存在は「カミ」だよなぁ……
「ゲームマスター……カミか?」
「……」
「言ってたっけ?」
「言ってないわね」
「細かいセリフ忘れちゃったんだけど……」
「遊戯を楽しめ、プレイヤーを倒してスキルオーブを奪い合え……と黒い結晶壊せとかだったよな?」
「黒い結晶壊せばゲーム終了ってのは確か……だよね?」
「……」
「多分」
俺たちの間に何か得体のしれない猜疑心が生まれ始めていた。
ほんとに黒い結晶を壊せばゲーム終了なのか?
【……そのはずですが……念のため確認しておきます】
……頼みますよ、アーゼさん……
「それじゃぁ……あ、聞き忘れてたわね……名前は何というのかしら?」
「あ、「馬に人参娘」こと時坂リョウコといいます。こっちだと先輩達いるんで、リョウコでお願いします!」
「あらこれはご丁寧に、私がサチ、こちらがリキ、後は知っているみたいね」
「はい」
サチさんが先ほどから黙ったままになっているナオエさんをちらりと見る。
「それで、あなた達はゲームクリアの目的が「黒き魔人」だとして、そのほかにルールとか、クリア後の報酬なんかはないのかしら?」
「うーん。どこまで話していいものやら……私も賞金欲しいですし……」
「……話せる範囲で良いわ。こちらも話せる範囲で情報を渡すから」
「ええっと、私たちは「黒き魔人」を倒すとその時点でゲームが終了、元の世界に帰れることになっています。ですがこちらで死んでもあちらの世界では生きていますし、記憶を引き継がないを選択すればいつも通りの日常に戻れる……って話ですね」
「そこは変わらないんだな」
「いえ、新しい情報よ。「記憶の引継ぎ」に関しては聞いていないわ」
「……すまん、俺、そこまで覚えてなかったかも」
……そうだったっけ? 俺も覚えてないや……報酬のことしか……
【あなたは割と単純で良いですね……】
ぐっ……
「報酬は、生存ボーナスが「くじ」が絶対当たる権利、ラスボス討伐ボーナスが、こちらのアイテムを二つ持って帰れるってことだけなんですが……」
「……それ本当? くじって、「宝くじ」?」
「海外のも含めたら……スゴイ額を手に入れられるな」
「税金問題ないって言ってのはこの事?」
ほんとに……200億円とか当たるやつあったような気がするんだけど……マジか?
【確認いたします……カタシの思考を見る限り、かなりの額のようですね】
まぁ、使い方を間違えなければ一生遊んで暮らせるね。
【あの管理者がそんな楽な手段を渡すとは考えられないのですが……】
やっぱり裏がある感じか……
「それも仲間内で話題になりまして……国外OKでしたら、「なんてすごい報酬なんだ!」って話と、もう一つのアイテムを持って帰れるって話も、最後まで生存していた人間から見たら破格の性能でして……あ、どこまでゲットしてます? 報酬アイテム?」
「……報酬アイテム……」
「なんだそりゃ? 記念品の事か?」
「え? レベルアップ時とか、ダンジョン攻略したりとか、アチーブメント(達成記念)とか獲得したらゲットできるアレですよ?」
「……」
「無いな……」
「生存記念はもらえたけど……」
「レベルアップとアチーブメント……って……」
「え? あれ? ハイポーションとか、魔法の武器とかエリクサーとか、転移石とか無くてどうやって攻略してるんですか?」
「攻略? ……なんだその、本当にゲームっぽいアイテムは?」
「エリクサーって……」
「転移石? さっき飛んでいったのはそれ?」
リョウコがポーチから何かを取り出そうとしているが……
「あ、すいません、転移石とエリクサーは取り直し中だったんだ……」
「取り直し中って、使うくらい大変なのか?」
「いや、こんな序盤じゃ使わなくても大丈夫ですよ。魔族が湧いてきてからが勝負ですから」
「……何言ってんだ?」
「魔族が湧く??」
「そりゃ湧くでしょう? 終盤になると大変なんですよ」
俺は思わず仲間全員を見る。会話がおかしい。まるで本当にゲームの話をしているみたいだ。
「ちょっと待って、なんでこれから起きる事知ってるんだ?」
「あなた達はこれから起きる事を知らされているの? 攻略本みたいのを渡されているとか?」
「知らされていませんよ? 「黒き魔人」を倒すって事しか言われてませんし」
「それじゃぁ、なぜ?」
「何で知ってるんだ?」
「え? だってこの世界、クリア条件満たさないと最初からやり直しじゃないですか?」
「「「「え??」」」」




