第75話 後輩との再会
俺、ナオエさん、サチさん、リキさんの4人で地すべりの音がした方向へと急行する。
俺は大分『弾力』を使用した移動にも慣れて、楽にぴょんぴょんと森の中を跳ね、地面や垂直の大木の表面を踏み台にして移動していく。重力を無視できるパワーになってるね。いやー爽快爽快。漫画の中の主人公みたいな動きが出来るぞこれ。ジャンプする瞬間だけSP消費するだけだから……なんてコスパのいいスキルなんだろ。
「ちょっと! 早すぎよ!!」
「すげぇな……目的があると変わるタイプか」
「慣れるのが早すぎね……あ、ちょっと! ナオエさん、速度を早くしようとしないでね……割といっぱいいっぱいなのよ!」
「くっ……」
ナオエさんが競争心むき出しになってるな……負けず嫌いだったんだよなぁ……懐かしい。すぐ本気になるから良くからかってたっけ……まぁ、ちょっと自重をするか。
それにしても『弾力』を使ってジャンプに失敗したら全身に『弾力』をかければ安全……って知ってから大分運用が楽になったな。壁に着地してジャンプとか本気で出来るし。ステータスが上がったせいか制御もとても楽だ。
木の枝のとがった部分とかだけに注意すれば良さそうだし。場合によってはウィンディードさんが守って……あれ? 普段はいるウィンディードさんがいない……そうか、急いで来たんだった……置いてきて大丈夫だったかな?
俺たちは妖魔の砦があった付近まで割とあっという間にたどり着く。この前の拠点メンバーでの行軍にかかった時間と比べると信じられない速度だ。
……あ、『伸びる』スキルを使えば気軽に通える距離だったんだな……ここでナオエさんはステータス稼ぎをしてた……ってわけだな。
【……どうやら様子がおかしいですね……この反応は……】
俺もなんか感じる。……危険ってことか……
地面に降り立ち、茂みや大木に隠れながら徐々に近づいていく。ナオエさん達も俺に追いつき、同じように警戒しながら進んでいく。ナオエさんの表情を見ると危険っぽいな。……彼女はすっと4本指を立てる。
……4匹……4人のなにかか……変なヤバさを感じるから……プレイヤーか?
前方に意識を集中して行くと、話し声が聞こえる……日本人っぽいな……って、耳、かなり良くなってるな……ステータスアップのおかげか?
「……はぁ……またかよ……」
「……おい、やっぱり無いじゃないか!」
「ここのハズなんです! まさか崩落しているなんて!」
「待て、そう興奮するな……それで「人参娘」さん? これで5回目だ……大きな外れが……小さい外れを考えると……なぁ、どうしようか?」
「……ど、どうって……」
「わかんねぇのかよ、俺らのグループから抜けろって事だよ!」
「その当たる確率が一割の『予言』に引っ掻き回される時間が惜しいだろ? その間に妖魔と魔獣やってた方が経験値稼ぎができるだろうが……って言ってて怒りがわいてきたぞ……」
「……ちっ……トップランカーじゃなかったらボコってるのにな……」
「……ほんとな……」
「……」
「プレイヤーを殺したら……経験値ってどうなるんだ?」
「説明には書いてないな……」
「……」
「……ちょ、ちょっと、みんな……本気??」
うーん……仲間割れか……ってやっぱり聞き覚えのある声……
俺は見晴らしのいい場所から茂みに隠れながら覗く。
地すべり……音の原因はやっぱり妖魔砦のあの穴周りが崩落したんだね。
って、今はそれじゃなくて……妖魔の砦跡に開いた大きな凹みの前でもめている四人を確認した。
やっぱり……「リョウコかぁ……」周りが見えなくなる時がたまにあるけど……
【知り合いなんですね、あちらの世界での】
……大学の後輩で、会社の後輩でもある……そして女性にしてはかなりゲーム好きなので仲がいいんだよね……
【それは友人と言うのでは?】
まぁ、そうだね……って目の前で争いが起きそうだよな……
「ねぇ、どうするの? かわいい子がボコられそうだけど? あれ? あの子……どこかで……」
「……いざとなったら助けたいけど……あいつらからも嫌な感じがするんだよね……」
「……俺もお勧めしないな……なんというか……俺たちと同格な感じがする」
「そうね……たまに見かける、「いい装備」のプレイヤーね。あまり接触してこないから情報が少ないのよね……あれが「テストプレイヤー」なのね……随分強いエーテルを感じるわね……」
俺は無言で妖魔の槍をいつでも投げれるように無限収納ポーチから取り出す。
「ま、待て! おい!……なんか嫌な感じがしたぞ!」
「ん……スカウトサーチにひっかかったのか?」
「あ、違うんだ……あ、スカウトサーチか……引っかかってるな……4人か? この感じは……新規プレイヤーかもな……でもなんか違う反応なんだが……」
「また厄介なやつらが……」
「逃げ出してないって事は……そうだな……」
「やれるだけのスキル持ってるって事だよな?」
「まぁ、そうだろな……」
「マジか……」
……スカウトサーチって……なに?
【標的や敵意を察知するレーダーみたいなものですね、テストプレイヤーの「斥候職」のスキルになります】
……なんだよそれ……職って、職業??? 戦士とか僧侶とかのやつ?
【今は前方に集中した方が良いかと】
そうだった!
「おい! いるのはわかってる!! 出てこい!!」
「待て! ちょっと待て! 戦意がないならこの場を立ち去ってくれ! 俺たちもそれなりの戦力だと思う。お互い怪我したくないだろ?」
「あん? 顔見ておいた方がいいだろ?」
「対人戦になったらどうするんだ!? 新規プレイヤー同士が戦ってるの見た事あるだろ?」
「……まじか……やつらはPVP(対人戦)やってんのか?」
「見た事無かったのか……」
「丁度ダンジョン潜ってた時だわ」
「って、違うんだ、プレイヤーの反応じゃない、違うヤバい反応なんだ!」
「なにいってんだ??」
……ダンジョン? 洞窟? ゲームで定番のあれか?
俺は茂みの陰に隠れたまま、仲間内で目をあわせた。全員が迷っている感じだな……
なんか色々と相手のレーダーに引っかかってる感じか?
「おい、どうすんだ……目当てのものは埋まってるみたいだし……」
「……俺はこの場を離れる事をお勧めする……」
「なぁ、所々に妖魔の死体が見えるが……ダンジョンが崩落したのかもな……」
「情報が正しかったのか?」
男性テストプレイヤー達がリョウコの方を見る。
「……だから、妖魔の将軍と妖魔の王がいるっていったじゃない!」
「……この状態じゃわからないだろ……」
「セイナさんの言っていた通りの展開だな」
「だな、とりあえずリーダーとも話し合ってたけど……別行動だな……違うチームにでも入れてもらえよ」
「え? セイナちゃんが? なんで……」
一人のテストプレイヤーが何もない空間で手元を操作している。おそらくUIで何か設定している? あの動きはそうだろうなぁ……あっちのUIはなんか……光って見えるぞ?
【その辺はテスト環境から変更されております】
……あ、そうですか……光っていて目立つな。夜は光源になりそうだ……他人から見えないのはかなりの利点なんだなぁ……光源は欲しいけど……
「……そんな、私がチーム移動したらバランスが崩れるよ?」
「……実力は認めるが……」
「さすがに不思議チャンにはかまってられないんだよ……」
「賞金獲得できないだろうが……」
ゴゴゴゴゴ……
俺たちの真下から地面の鳴る音が聞こえる……それとともにかすかに揺れ始めている感じだった。テストプレイヤー達も足元を見て固まっていた。
「なぁ、また崩落するんじゃ?」
「……だろうな」
「それじゃ、俺たちはホームポイントに戻るわ」
「ちょ、ちょっとまってよ! 置いてかないで!」
「それじゃぁな、「人参娘」さん」
「そっちはそっちで頑張ってくれ。こちらから攻撃はしないからさ……敵対するなよ」
「じゃぁな、テレポート、ホームポイント!!」
「! そんな! ああ、キックされてる! どうしよ……」
リョウコを残して他のテストプレイヤーは以前見た事のあるように体全体が光って空の彼方へ消えていった……仲間から外された感じみたいだな……
サチさんが感心したように空を見上げていた。
「……あれが……「帰還」のカードの効果かしら?」
「そうじゃないか? ってやばいんじゃないのか? ここも崩落しそうなんだけど」
リキさんの言う様に確かに地鳴りが大きくなっていく……
リョウコも慌ててUIを出して何かをしているみたいだが……パニックになっている様に見えるな。キャッシュディスペンサーの前で慌てるお年寄りみたいだな。
「カタシくんどうする? 助けて離脱?」
「あ、みんな軽くジャンプして。足場作る」
「へ?」
「え?」
「……なるほど……『固定』床ね」
俺は落ち着いて足元に『固定』の床を出して仲間を上に乗せる。空気を『固定』出来る事が判明してから何度やっても不思議な気分だけど……薄くしても頑丈で全然壊れないんだよね。
「ああっ! テレポートの再使用時間が!?? 拠点は……チェックポイントは……こっちも使ったばっかり……」
リョーコは一度こちらを見たあと周囲を見回す。敵対的なプレイヤーと認識してる感じか? それにしても……地鳴りが凄くなって大変だ……心の底まで揺らされてる気分だ。
さて、『固定』っと、これで彼女も大丈夫だろう。
ん? なんかジャンプしようとしてこけた? パントマイム? こんな時に?
【……え? か、カタシ??】
「え、ええっ? あれ? 足がうご……ちょ、エーテル? なにこれ???」
あれ? リョーコが混乱してる?? あれ? 足も『固定』しちゃったか??
【それはいきなり足が動かなくなったら驚くでしょう?】
……あ、そうか……いきなり動かないと驚くか……
【……それだけですか?】
保護したつもりなんだけど……あ、暴れても落ちない様に追加で『固定』っと、これで大丈夫だろ。
【……あの娘が可哀そうになってきました】
「え? もしかしてあの子の足を『固定』したの?」
「そうだけど? まずかったかな?」
「え? この状況でそれだとパニックになるんじゃないのか!??」
「嫌な予感がするわね……」
「なんか強力なスキルがあったら……スキルぶっぱなさないのか?」
あ、そうか、何かしらのスキルを使って逃げようとするか……
仕方がないので服とかグローブとかも固定しておくか。安全だもんな。
『固定』っと……
「あ……へ? ちょっと、なにこれ??」
「うわ……」
「解除するかと思ってたわ……」
「逆を行ったわね」
あれ? おかしかったか??
リョウコがこちらの方を見て懇願する目で叫ぶ。
「……ちょっと……あの! 私を動けなくしても何の利益もありませんよ!! なんですかこれ? フリーズの魔法?」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
地鳴りが激しくなり、大きな穴に徐々に地面が呑み込まれていく。
「ああっ!もうっ!!!『万能なるエーテルよ! 我を守り給え! 対物理障壁!』」
リョーコの周りにエーテルの壁が出現する。魔法っぽい魔法だな。ウィンディードさんみたいだ。
物凄い地鳴りと共に彼女の真下どころか俺たちの近辺まで地すべりが起きて崩れていく。地面というより水が流れていく様だ……
「大丈夫か? ここ?!」
「大丈夫みたいね……すごいわね……動画でしかた見た事が無い光景ね……」
「地面が吸い込まれていくみたい……」
「煙が凄いな……」
「カタシ君、薄く私たちの周りを固定できないかしら?」
「お、やっとく」
砂くらいだったら一ミリの厚さでもじゅうぶんだろうな。さらに半分にしてっと……うん。簡単にバリアみたいに出来たわ。成長したもんだ。
それにしても……ほんと凄いわ……あの穴に土砂が流れ込んでいっているんだろうなぁ……
しばらくすると土砂崩れが終わり、妖魔の砦のあった場所を中心にきれいにおわん型に陥没していた。『固定』の壁の空気穴からも埃が入ってたか……土埃が凄い……帰ったら水浴びしないと……そういえば拠点では本格的な風呂も作ってたな……
「あれ、おかしいわね……エーテルが……ステータスがかなりあがってるわ?」
「なぁ、あの人こっち見てるぞ?」
「なんか涙目のような?」
「ねぇ、『固定』を解除してあげたら? もう安全じゃない?」
「あ、そうだった。あまりの迫力に圧倒されてた……」
『固定』解除っと、足場はそのままにしてあげないとな。
リョウコは『固定』が解除され、何もない空中に座り込む。手足を見たあとしばし呆然としていた。まぁ、動けるようになったら安心……かな?
【……】
リョウコがこちらの事をまじまじと見つめる。
ん? リョウコがぶれて見え……消え……
「えっ?」
「ゴフッ!!!!」
俺はリョウコの見えない速度のタックルを受けて吹き飛んでいた。
「ぜ、ぜんぱ~~~い!!」
い、痛い、マジでいたい。ってか落ちる……『固定』!!
ってかリョウコが抱きついて重い、動けない、なんて力だ……
「やっぱり先輩だ!! あのハンドルネームはやっぱりそうだったんですね! きつかったんですから! ブラックな会社よりブラックなんですからっ!!!」
「お、おう……」
「なっ……見えなかった……」
「そんな……あの距離を一瞬で……」
「……知り合いだったのね……」
なんか違う方向でみんな驚いてるし……確かにどうやってあの距離をあの速度で近づいたんだ??? 新たなスキルか?




