第61話 プレイヤーの痕跡
24日目
俺はナオエさん、ウィンディードさんに連れられてプレイヤーらしき痕跡がある場所まで案内されて来ていた。
拠点からは2キロほど離れた場所になり、あまり散策ルートには入っていない場所だった。
痕跡とやらは……正直、言われるまではわからなかったが、地面の土部分に人間の靴型の足跡を見つけることが出来た。
「……これ、よくわかったね」
「ウィンディが見つけてくれたの」
「ワタシ、ミツケタ。ホメル?」
「ありがとう、ウィンディードさん」
「……ウィンディ」
「……ありがとう、ウィンディ」
「♪」
なんかすごくうれしそうだな……ナオエさんが少しだけジトっとした視線を俺に送ってくるが……もう少し優しい視線をください。最近厳しい目が多いです!
なんか最近ウィンディードさんの距離感がかなり近いんだけど……やっぱり鬼人族語辞典のおかげだろうか?
それからウィンディードさんのリアル追跡スキルで足跡をたどる。暫くするとリアス海岸の岸壁あたりに到着する。ナオエさんが『気配察知』を使用して人間の位置を把握する。
「いるわね……人の気配。一人かな……」
「……複数の線は無し? 」
「うん、動いてない。たぶんこっちに気が付いてないんじゃないかな……」
「逃げて隠れてる……って感じかな?」
「多分……」
ナオエさんが特定した場所近くにたどり着くと、四次元収納ポーチから新調した鉄と皮の合成盾と、鉄の槍を構えて慎重に気配の方へと近づいていく。
どうやら洞窟……というより岩の穴……隙間の中にいるようだな。
俺はゆっくりとなるべく音を立てないようにして近づく。隙間の入り口に立つと、奥で物が落ちる音がする。
カラーン!
あ、気付かれた?
俺は一瞬だけ岩の隙間にいた人間と目が合った気がした。
やせ細った女性だった。
俺のことを恐れてみる目……そして諦めたような目に瞬間的に変わる。
その瞬間に彼女が光に包まれたかと思うと、光の粒子となって消えていった。
「えっ? なにが??」
「どういうこと??」
俺の視界の片隅でログが流れる。
【Player:HarunoOgawa が自決。Pos<002612. 00120. 000874>】
【Player:HarunoOgawa のエーテルを回収。HP+0.10 MP+0.22 STR +0.11 DEX +0.15 AGI +0.14 INT +0.21 MND +0.11 SP+0.25 ……】
「自決……」
「……ああ……そういう事ね……あの機能はこれなのね……」
ナオエさんは何やら納得しているが……どういう意味だ?? 俺は確認のために前へと進む。まだ日中のおかげで日光の照り返しで中はかなり明るかった。
恐らくHarunoOgawaさんがいた場所にスキルオーブが出現し、色々な雑貨が飛び散っていた。が、前見たプレイヤー達と比べると……少ない……というか、ほとんど無い。
野兎の死体はあったが、解体はされておらず、洞窟内に腐った匂いが充満していく……
どうやら狩りはしてみたが、捌くことが出来ずに……そのまま力尽きた……って感じか……
自決……って、自殺……だよなぁ……
四次元収納ポーチから排出されたものの少なさに唖然としてしまって、俺は足を動かせなかった……俺じゃなくてナオエさんが前に出てれば……自決しなかった……かもしれない……
ナオエさんがスキルオーブに手をかざす。
「カタシくん、スキルオーブ拾っちゃって。「バネ」だって」
「え? トップを取りたいんだったら……ナオエさんが拾っておけばいいだろ?」
「うーん、これ、おそらく、移動手段になるかなって、カタシ君、自分を高速で移動させるスキル無いでしょ?」
「そうなんだけど……」
「このままゲーム終了まで私に運ばせるつもり?」
「え? 駄目?」
ナオエさんが一瞬はっとした表情をした後、ジトっとした目を送ってくる。
「……そうきたか……可愛く言ってもダメ。拾って」
「わかった……」
可愛く言ったつもりはないんだけど……まぁ、甘えてるよなぁ……
俺は、決めたらあまり譲らないナオエさんの意思に従ってスキルオーブに手をかざす。
【スキル『弾力』を習得しますか? Yes / No 】
え? バネ……じゃなくて弾力って出てるけど……やっぱり人のイメージによって内容が変わるのか?
俺は Yes を選択すると、この前と同じ様に何かの力が俺の中に吸い込まれていく。
あれ? これで4個目だけど……もしかしてナオエさんって……もっと持ってるのか?
……まぁ……持ってるよな……トップ3に入りたいんだから……
【スキル『弾力』を習得しました】
**********************
スキル:『弾力』
スキルレベル:2.5
現在の使用可能容量:0/1.25㎥
反発速度:物質の固さx 150km/h
・任意の座標の固体に『弾力』を与える事が出来る。
・ワールド座標固定
ワールド座標の位置を指定して『弾力』を与える事が出来る。『弾力』の範囲を任意で移動させることが出来る。
・ローカル座標固定
物の位置の座標を指定して『弾力』を与えることが出来る。『弾力』範囲は対象の物質の範囲内。
ローカル座標指定で指定する際に固体には一度は直接触る必要がある。
『弾力』範囲を任意で移動させることが出来る。
.....
**********************
なるほど……『固定』の『弾力』バージョンか……
最初から細かい解説をみれるのはなんでだろ?
「カタシ君、逃げよ」
「わかった、あ、すまないけど移動はいつも通りで、新しいスキルがどうなるかわからない」
「え? そうか……さすがに無理か……大丈夫。掴まって」
ナオエさんの『伸びる』高速移動でその場を離脱していった。
俺は掴まりながらも考えていた。自決した彼女は……恐らく俺が……妖魔とか、敵性プレイヤーとかに見えたんだろうなぁ……ちょっとだけでも話せれば未来は変わったかもしれないのに……
次は近づくときに声をかけながらにしよう……なるべくナオエさんが声をかけた方が良いか。安心するだろうし。
§ § § §
俺たち三人は、一旦、拠点の方面へと戻り周囲を警戒する。
先ほどの場所へ、他のプレイヤーが群がる事はなかったようだ。やっぱり辺境だからだろうか?
待っている間も暇だったので、試しに『弾力』を試してみる。
物がゴムみたいに曲がるのは面白いな……木の棒もびょんびょんとゴムのようになる……が触ると固いという変な感覚……いろんな意味で人をだませそうな能力だな……
両脚に『弾力』をかけて走ってみる……びょんびょんと飛び跳ねてなんか面白い……凄い速度で駆けれるが……上に飛び過ぎな気がする……面白いんだけどねぇ……
「アタラシイスキル? トブ? ジャンプ?」
「カタシくん! 飛び跳ねすぎ! もっと、こう、前に力を集中させて! そんなにふわりと浮いたら相手から良い的になるよ!」
「わかってるんだけど……これ、慣れないと駄目だ。怖い!」
「それだと『伸びる』での移動の方が早いでしょ!」
「そんなことを言っても!」
「カタシ。スゴイ!! ジャンプスゴイ!!」
「ああ、ジャンプじゃない……弾力……なんていえばいいんだ、あとで辞典で!!」
まるで足の裏にバネをつけて走っている感じだ……確かに力を前に集中させれば……って思うけど、練習しないと駄目だ。ってか怖い。慣れることが出来るのかこれ?
ウィンディードさんは喜んで楽しんでいてくれるが、ナオエさんがモドカシイ表情をしている。運動会を参観する大人じゃなくて……見られている子供になった気分だ……うまく行かなくてごめん……
うーん。録画機能が欲しい……多分外から見たら……客観的に見たらコツがすぐわかるやつだ。
【頑張って視点を移動させるスキルをゲットしてください】
……あるんだ、そんなの……ズルい系だなぁ……
スキルの検証……『弾力』走りをして彼女たちの元へと戻る。
ナオエさんが本気でがっかりした表情をしている……そりゃスキルを譲ってくれたからなぁ……結果を出してほしいよな……
「うーん、すぐには使えないかぁ……」
「すんません……」
「まぁ、大丈夫よ、気長に練習しよ! ……あ、ほかのプレイヤーが寄ってこないみたいだし、もう一つの場所に行こう。そっちはおそらく複数の人間がいたと思われる場所なんだけど……」
「次は自決とかなしにしてほしいなぁ……」
「それは……相手次第かな……」
「次はナオエさんが声かけてよ」
「……え? ……そうか、女性だと大丈夫な場合もあるのか……」
「そういうこと……かなり反省したよ……」
「気にしない。次に生かせばいいよ」
「……おう、わかった」
ナオエさん……前向きなんだけどかなり前のめりだよなぁ……俺はふとウィンディードさんの方を見る。目が合うとニコリと微笑んでくれる。言葉の分からない彼女に癒された気になった。
§ § § §
俺たちは、ナオエさんに案内されて妖魔の砦近くにある山の奥まった場所にある小さな滝に到達する。
滝の落ちる音と川の流れる水の音でなんか癒された気分になる。岩場が所々入り組んでいるので隠れやすそうな場所だな……確かにここなら妖魔の目を盗んで野営が出来そうだ。
「気配がしないわね……」
「キノウ、ココイル。イマハワカラナイ」
ウィンディードさんが、地面を調べた後、魔力を使った魔法で周囲を探知してくれているが反応が無いみたいだな。
しばらく周辺を調べるが、焚き火の跡や何かしらを食べた形跡はあったが気配は無かった。
諦めて拠点の方に戻ろうとすると、二人が俺の手を取って同時に左右に引っ張り合う。
「あだっ!」
いってー…二人ともなんてパワーなんだ。又裂きならぬ腕裂きだよこれじゃ!
ん? なんで二人が別方向に?
俺は左右を見ると、ナオエさんとウィンディードさんがお互いに顔を見合わせていた。二人とも予想外みたいな表情をしている。
「……どうしたの? マジで痛いんだけど……」
「あー、しまった……ごめんね……」
「ゴメンナサイ。カクレル、シッパイ」
二人は俺を見ていなかった。彼女達の目線の先を辿ると、二人の探検家のベストを着た人間の男女がこちらの様子を伺っていた。一人は鉄の鎧などをいたるところにつけており、戦士の様ないでたちだった。ってか見るからに強そうだな……そりゃ逃げたくなるか……エーテルみたいな変な感じも強く感じるし……
……あー、咄嗟だったから隠れる方向か真逆になっちゃったのね……
二人の男女は四次元収納ポーチから武器を取り出す。男性は馬鹿でかい鉄っぽい棍棒と盾、女性は両手に山刀を二つ持ち警戒の態勢に入ったようだった。
相手もこちらを一瞬にして探ってくる感じだ。突き刺してくる何かを感じた。
「こんにちは……あなた達は? ……一体?」
「……マジかよ……鬼人族と一緒なのか!?」
「動揺しない……」
「すまん……」
ああ、そうか、俺じゃなくてどちらかというとウィンディードさんに驚いているようだな……まぁ、そりゃそうか……鬼人族は敵対勢力って思っている人が多いみたいだし。
「彼女は敵じゃない!! 俺たちの仲間だ!」
「……」
……なんかすごい堂々としてるな……とても強そうな雰囲気がする……どうしたもんだか……




