第56話 救助活動
22日目
俺たちは空が白む前に準備を終える。重傷者がおり、早めの救助が必要だとしても、夜中の移動は……俺たちのスキルだけじゃまだ危険と判断した。やはり暗視とか、超音波的なものがないと……かなり厳しい。いくら月明かりが強いと言っても暗い所はとても暗く見えないからな……
タチキさんが心配そうに昨日助けた女性プレイヤー、隠れ家の洞窟までの案内役でもある比高ショウコさんを見送りしていた。
タチキさん本人はものすごく同行をしたがっていたが、彼は移動速度の問題でこの拠点に居残りになった。
「本当に気を付けてくださいね!」
「大丈夫よ。案内するだけなんだから。私だけだったら逃げられるし!」
「……ほんとすんません……」
「タチキくんだったら戦えるんだから、この砦の皆を守ってあげて」
「はい……」
今日はショウコさんの案内で隠れ家の洞窟まで行くことになった。
機動力のあるナオエさん、護衛のウィンディードさん、妖魔の撃退ができる俺、案内役のショウコさんの4人での探索になった。
多分、ナオエさんの速度だったら半日の距離を1時間以内で走破できる……とのことでこの人選になったんだけど……
めっちゃ羨ましい。本当に羨ましい。
「いいなぁ……」
「ショウコ、スゴイネ!」
「舞空術……いいなぁ……」
俺はナオエさんの伸ばす棒にしがみつきながら、前方の空を飛んでいるショウコさんを見ていた。
彼女のスキルは『飛行』だった。
「ナオエさんのおかげで消費SPも随分節約できてます。ありがとうございます」
いろいろ工夫をして、ウィンディードさんが風の魔法を皆にかけて飛び跳ねやすいようにした後、ナオエさんが『伸びる』を使い全員で移動、その移動力を利用して『飛行』などをすると、ショウコさんが紙飛行機のように飛んで先行してくれる。
紙飛行機というよりモモンガか? どちらにしろ『飛行』はロマンだな……
道中も帰りを考えて倒せる妖魔は倒しながら進んでいた。
やはり昨日の戦いの影響かはわからないが、妖魔の数も多く、傷ついた妖魔が多いような気がした。妖魔を遠距離で打倒していくたびにショウコさんが驚きの表情をしていた。
まぁ、一方的に殲滅してるし……ずるいからなぁ……
「あともう少しです」
ショウコさんが先行して森の中を『飛行』していく。
ほんとにこの三人での移動は早い。移動に関しては俺はほとんど役に立ってないけど……妖魔のつゆ払いはしてるか……
文字通りに飛ぶように進んでいくと森が切れて開けた空間に出る。目の前には巨大な崖が見え始める。あまりの大きさにこの島が割れているんじゃないかという錯覚に陥る。
テーブルマウンテンみたいだな……廬山(中国にある切り立った岩山のある場所)とかそんな感じか?
岩山がやたら切り立った崖だらけだったけど、島全体がこれっぽいな……ルートを知らないと大きく迂回しないと駄目な島なんだな……
「絶景……ってやつね」
「すごいもんだ……世界自然遺産とかだな……」
「ほんとね……『伸びる』が無いと目的地までかなり時間がかかる地形よね……」
「そうだね……無かったら頑張って登ったり、決まったルート……あ、獣道通らないと駄目か……」
俺たちが絶景に見とれていると、ショウコさんが周囲をキョロキョロと確認した後、何もない崖の一部分を指し示す。
「あそこです」
指差した方向を見るが……洞窟の穴が……無いな……隙間も無いように見えるけど……
「……岩の壁に見えるんだけど……」
「え? ただ……岩があるだけじゃないですか? 穴はどこ?」
「ああ、たぶん……妖魔が来たんじゃないかと……スキルで入口を覆っているんではないでしょうか」
「入口を覆う……」
「そんな便利なスキルが……」
四人でショウコさんが入り口と言っている岩の前に来る。ちょっとした崖だったけど『伸びる』と『飛行』で一瞬だった。本当に便利……無かったらここへの移動は厳しいな。
一人だったらへっぴり腰で岩を伝っていかないとだめだったろうな……
「戻って来たわ! 開けて!」
「合言葉は?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 外は安全?」
「安全よ」
中から声が聞こえる。ほんと入り口どこだ? そう思っていると、岩がスライド……いや、生き物のように動いて洞窟の壁へと変化していく……
「まじかよ……」
「……すごいわね……」
「スゴイネ……ツチ、マホウ」
「え、これ土魔法なのか……現実感ないスキルだね……」
中で出迎えに来ていた二人の女性が俺たちの姿に驚いて洞窟の奥に飛びのき岩の陰に隠れる。
「ちょ、ちょっと、ショウコさん! その人たち大丈夫なの!?」
「鬼人族もいるじゃない!!」
「大丈夫よ。カンコちゃんは大丈夫?」
「……ヤバいかも……」
「熱がやばくて……意識も……」
洞窟の中は不自然な感じで明るいな……LEDランプ?? 違うな……空中を漂う光る玉??……なんだこれは? 精霊とかか?
照明に気を取られていると、洞窟の中からは、なにか嫌なにおいがした……ちょっと腐ったような……
ショウコさんが慌てて中に入っていき、倒れている女性の方へと歩み寄る。
「昨日の夜に意識が無くなって……」
「もうだめなの?」
「薬とかあった?」
「……」
倒れている女性は至る所に添え木がされ、そこまできれいじゃない布で固定されていた。そこら中擦り傷だらけだな……
大怪我が原因での発熱……日本とかだったら、どう見ても緊急搬送しないと駄目なレベルだ……
俺は思わずナオエさんの方を見る。
とても険しい表情をしていた。俺の視線に気が付くと諦めたような表情をして前に進み出る。
俺は慌ててナオエさんの肩をつかんで止める。
「ちょっとみなさん、いいですか。今からその人を治療しますので、いったん洞窟から出てください」
「……え?」
「治るの?」
「そんなばかな……もう……」
「ちょっと、見せられないスキルなんでよろしくお願いします」
ショウコさんは怪訝な、不思議そうな顔をしていた。
「本当……なのですか? お願いします! 手持ちの支給された薬だけじゃ治らなくて……」
洞窟にいたメンバー全員がショウコさんに促されて外に一旦出る。
ナオエさんがそれを見届けながら俺の方に近づいて小声で話しかけてくる。
「……もうバレバレだと思うんだけど」
「鬼人族だったらバレても大丈夫、守ってくれる。だけど、プレイヤーだったら……奪えるだろ、スキル」
「……確かに……襲われちゃう可能性があるのね……みんなお人好しばっかりだから忘れてたよ……」
「拠点での新規参入組、「黄金の鷲」には誰も話をしていないと思うから……一応ジンパチさんがそう立ち回るようにしておいたって言ってたし」
「助かるわ……」
ナオエさんが意識を失っている女性をスキルで『治療』していく。
みるみると傷がふさがって、肌の表面もきれいになっていく……だが、大分げっそりとしているな。
食糧が無くなりそうって言ってたもんな……『治療』では腹の減りまでは治らない感じか……
そんな事を考えていると、目の前の女性がうっすらと目を開けて俺の方を見る。
「あれ? ……死んだのかな……あなたは……カミの使い?」
「俺は不動カタシ、こちらはナオエさん。君たちを助けに来たんだ」
「……え? ……あれ? 動ける……痛くない……ありがとうございます!! もう死ぬもんだと……」
感極まった女性は泣きながら上半身を起こして俺に抱きついてくる。
あ、あれ? 治したのはナオエさんなのに……勘違いってやつか?
ナオエさんの方を見るとジトっとした視線を俺に送っていた。あ、いやこれは不可抗力で……
ってか、臭い! 腐った匂いと、浮浪者の匂いがする!
全然役得じゃないぞ?! 洗ってないのか?? って当たり前か!?
俺が慌てて困った顔をするとナオエさんがうっすらと笑っていた。 何か性格悪くなってるぞ??? こんな性格だったっけ? もっとさっぱりとした良い性格だったような???
「……うそ!」
「動いてる!!」
「すげぇ! 怪我が治ってるよ!!!」
重症の女性の声を聴いた洞窟組が喜びながら彼女の方に走って抱きつき、歓喜の輪が広がっていた。
§ § § §
俺たちはアヤノさん達が作ってくれた、弁当を食べていた。
竹を改造して弁当箱状にしてあり、中にはお握りや肉、山菜の炒め物……などが入っていて、本当に弁当だなコレ……どっかのお土産の商品レベルの弁当だ。
竹の箸はお願いされて俺が作ったんだよね……『削る』は便利なんだよね。
「!!」
「「うまい!!!」」
「……この世界来てから一番うまい!!」
「……何でほのかにあったかいんだろう……」
「はぁ……実家に帰ったみたいだ……」
「グズッ……」
洞窟に隠れていた五人は涙ながらにご飯を食べていた。全員大分ほっそり……いや、げっそりとしている。
最初に支給された食料を食べきって……もう10日くらいは経つのか……
この世界に来てからひもじい思いはしたこと無いから……気持ちがちょっとわからないんだよなぁ……
ああ、やっぱり……何人かは本気で泣き出した……
ショウコさんが頭を下げてお礼を言ってくる。
「何から何までありがとうございます……」
「いえいえ、まぁ、ここからが本番なんですけどね」
ナオエさんが低く響き渡る声でご飯を涙ながらに食べている洞窟組に声をかける。
「そうね、申し訳ないのだけれどもあなた達の『スキル』と出来る事を教えてくれないかしら? 拠点までどうやって移動するか考えないと駄目だから」
「……わかりました、みんないい?」
ショウコさんが洞窟組のメンバーに質問をするが……みんな微妙な表情をしていた。
お互いに顔を見合って、しぶしぶと一人が自己紹介を始める。
「ええっと……草田ハツコです、一般事務をしてるOLでした。スキルはおそらく『腐る』です……触ったものを徐々に腐らせて柔らかくする……と考えています……運動はあまり得意じゃないです……絵なら得意です!」
「八甲ライト。高2です。スキルは『光る』です。ライト的な感じです……結構明るくなって目つぶしにはなるんですけど……自分も眩しくて……夜は便利ですよ! この洞窟の中でも便利でした! バスケなら得意なんですが……殺し合い……対人になると緊張して体が……」
「伊地カンコです。 えっと、飲食店の店員です、スキルは『位置交換』になります……皆の話だと強いスキルらしいんですがイメージがわかなくて……戦闘……はちょっとやったことがありません」
「新地ケイ、中3っス。スキルは『地形操作』っス、無理をすると消費が大きいのと、速度が遅いので……本当に戦闘に向かなくて……この洞窟の蓋をしたり、洞窟を広げたりしていました。本当に地面とか岩だけっス。操作できるの……」
「伊田カイと申します。現実では重機つかって解体業やってます。スキルは『解体』です……解体するものがないのに……解体なんです……笑っちゃいますよね……現実世界だったら便利なスキルなんですが……」
なるほど……うーん……困ったな、移動する時にはあまり役に立ってくれなさそうだ……拠点設営とか生活には役に立ってくれそうな人はいるけど……
『光る』で目つぶしくらいか……『位置交換』はどこまで交換できるんだろう? 距離と消費SPによっては移動に仕えるけど……
ナオエさんがしばらく口に手を当てて考えた後、俺に近づいてくる。
「一番効率がいいのは私が一人を抱えて……荷物みたいに括り付けて往復する……なんだけど……」
「敵に襲われたら、運んでいた人が戦えないと厳しくないか?」
「そうなんだよね……一人だけだったら逃げれるんだけど、抱きかかえてると厳しいね。カタシ君の身体能力とスキルの援護ありきの移動だからなぁ……落としたら……即死しちゃいそうだもんね……逃げるときの移動速度に耐えられないと首の骨とか折れそうだし……」
そういえば、ナオエさんが俺を運搬しているときは『固定』のおかげもあって、どこでも捨てていけるくらいな感じで移動するけど……
ステータスが上がって『伸びる』槍を握っても振り落とされなくなってるからなぁ……現実であの速度で伸びる棒をつかんでたら振り落とされるよなぁ……なんか……とても危険な移動している実感がわいてきてしまった……
あれ? この人たちのステータスってどうなってるんだろ?
「えっと、みなさんは妖魔とか魔獣を倒したりとかは……」
「……無いです……」
「私は逃げ回ってたので……ショウコさんに発見されなかったら私は今頃……」
「私も木に登って逃げてるところをショウコさんに見つけて保護してもらった感じです……」
「地面掘って隠れてただけっス……すぐにゲーム終わると思ってたので」
「一応、小さな兎だけは……狩った事あるな……でっけぇイノシシがおっかなくて逃げたけど……」
何とも頼りない……初期状態で腹が減って身体能力が減ってる状態かぁ……現実世界でのアラサーくらいの体力か……それならイメージが付きやすいな。
「よし、歩いていこう。急な傾斜とかはナオエさんとショウコさんが運搬する感じで」
「……やっぱりそうなるかぁ……この人たちが収納ポーチに入れられれば楽だったんだけどね……」
「それ、空気無いから死んじゃうよ……」
ナオエさんの目が割と本気な気がした。
§ § § §




