第54話 100人脱落記念
21日目
§ § § §
俺は目覚めた……あれ? 現実??……ああ夢か……
ん? あれ? 石じゃない……木でできた部屋?
「あれ? ここどこ?」
そうか……鬼人族の砦に泊めてもらってたんだ……
お腹と足のあたりに重量のある……あ、またナオエさんに抱き枕にされてる……昨日は俺が寝る前にもウィンディードさんに連れられて何かやってたっぽいもんなぁ……待ってたら寝ちゃったんだっけ。
【ずっとカタシを抱いて寝てましたよ?】
……なるほど……不安なんだろうか?
ナオエさんを起こさない様に昨日のログを確認する……って何だこのアイコン? また「カミ」からのメールか?
昨日の夜の時間帯に送られてきたっぽいな……
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100人脱落記念!!!
本日、というよりたった今、プレイヤーが100人脱落したよ!
ちょっ~とペースが遅いかな!?
みんなもっと頑張れ!!
スキルを二つ持つと賞金二千万円だよ!
スキル二つ持ちを倒せば 一気に二千万円ゲットだよ?!
スキル三つ持ちを倒せば 一気に三千万円だ!
あちらの世界での税金対策はしてあるから丸々っと、税金を引かれずにもらえるよ!!
あ~そうそう。
ここまで運よく生存したみんなに生存特典をあげよう。
ポーチを不運にも無くした人もいるみたいだけど、ポーチに君たちが「今、欲しい!!」と思っていたアイテムをささやかながらだけど入れておいたよ!
有効活用してね!!
では黒結晶の破壊と、サバイバルの勝者を目指して頑張ってくれ!
PS 餓死しないうちに引きこもりはやめた方がいいよ! 今回支給したご飯だけじゃ持たないよ! 現実的な世界じゃないけど現実をみよう!
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……まじか!?
欲しいものって、物凄くたくさんあるぞ!??
俺は慌てて四次元収納ポーチを確認する。ナオエさんの体がちょっと邪魔だな……
ん? 見覚えのない本があるな……え?
……鬼人族語の辞書(未翻訳のため随時更新)??
まぁ、確かに、昨日、言葉の壁にやきもきしてたけど……これかぁ……まぁ、確かに欲しいけど……酒とか甘味とかそっちの方がよかった……いや、違う、これはすごい有効活用できる……皆で回し読みかな……渡したら消えるとかないよね?
【おそらく。ソウルバインドされていないようなので大丈夫かと?】
……そうるばいんど……魂の束縛、紐づけ?……ああ、死んでも消えない系ね……
って、いつも思うけど何なんだろう、このテンション……
【本当に楽しいみたいですね。テストプレイヤーの時はあまり楽しくなかった様です】
……なんだそれ? みんな動き回ってるって事か??
【かと思いますが……】
スキルとかもかなり伸びてるな……『自動追尾』のスキルレベルが上がったのが嬉しい。これのおかげで今回なんとかなったようなもんだもんな。
脱落者もなんか増え始めてる。昨日だけで十人か……プレイヤー同士の戦いは始まったのかな……微妙な脱落原因だ。自死ってのも出てるな……あっちに魂が残ってるって話だと……そっち選ぶ人多そうだよなぁ……
【やはりそう思いますが……】
うん。
「あ、おはよう……」
「おはよう。なんか運営からメール来てるよ?」
「ん?」
ナオエさんが俺を抱き枕にしながらUIを操作し始める。……あの……ちょっと離れてほしいんだけど……なんか最近、恥じらい……みたいなのを感じなくなってきたんだけど?? 色々と柔らかいから、マジで変なところが勝手に反応するんだから! 俺もオスなんだよ??
「え? 特典なんてもらえるの? ……」
ナオエさんがUIを操作していると、確認が出来た様でしばらく固まっていた。
「なんかいいやつもらえた? 俺は鬼人族語の辞書だったよ……」
「……」
「どうした?」
「……」
「大丈夫か??」
「……!!!!!」
ナオエさんの顔が真っ赤になり、飛び起きて俺から離れる。
「ほんと大丈夫? なにをもらったの? ってか変だぞ?」
「……絶対に言わない……」
「え?」
「たしかに、昨日の夜に、欲しいって思ったものだ……ずっと欲しいと思ってたものにしてほしかった……何で昨日の夜に欲しいと思ったものなのよ!」
「あ~確かにね、水洗トイレとかもえらえたらラッキーだったよね」
「……そうね……」
ナオエさんの感情が落ち着いてきてからも貰った特典について聞くと、相変わらず絶対に言えないとはぐらかされる。しつこく聞こうとすると怒り始めたので聞くのをやめた。
何をもらったのかが気になるが……
それよりも、今日、今後の事だ。仲間の元に戻らないとな。
俺たちが準備を終えて、出発する時にはアスティナさんはすでにこの砦にはいなかった。どうやらとても忙しいらしい。代わりにこの砦の鬼人族からお礼を言われた後、米を三俵、麦の麻袋X3 小さめの麻袋の茶色の砂糖X1 味噌の大瓶、醤油大瓶、日本酒大瓶を数本もらった。相変わらず四次元収納ポーチに入れるときのびっくり顔が面白い。
……ってことは四次元収納ポーチはこの世界にあまりない……のは確定か。
この世界の人が使っているのを見たら「魔法王国」が関わっているって事だな。
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朝日と共に、ナオエさんの高速『伸びる』移動を繰り返して川の拠点へと向かう。ウィンディードさんもなんか風の魔法を使って凄い速度で移動してるな……俺も風の魔法が使いたい……鬼人族語辞典を帰ったら活用せねば。
「ねぇ、なんかまた争いの音が聞こえるけど……」
「あ、俺もわかるよ。撃ち漏らした妖魔が散ってったからかな?」
「ナオエ、ドウスル? たすける?」
ナオエさんは移動をいったんやめて争いの音のする方向を見る。
ウィンディードさんが助ける……って言ってたから……ああ、なるほど……探検家のベストを着た二人が妖魔に襲われてる感じだな……一人は怪我をしている? 一人を背負いながら……降ろして迎撃になってるな……
スキルで突然血しぶきがあがってるのか? 彼なら勝てそうな感じもするが……多勢に無勢だな……後ろのやつらが槍を投げようとしてる……気が付いてなかったら当たりそうだな……
「カタシ君、助ける?」
「……やろっか……だけどあまり近づかないでね……嫌な感じがする」
「……わかった」
俺は昨日と同じ要領で『自動追尾』の妖魔の槍を放っていく。さらにスキルレベルが上がったのでターゲット数が五つになっていた。
妖魔たちは襲おうとしたプレイヤーに集中しすぎでこちらに全く気が付いておらず、面白いくらい突き刺さっていくな……完全に不意打ちになってる。
同時にウィンディードさんが風の弓矢を放ち、遅れて到着した相手の弓矢持ちを無効化してくれる。
俺はまだ相手の様相で判断できないんだよね……彼女の判断力がすごいのかもしれないけど。
気が付くとナオエさんも妖魔の側面からザクザクと両手に持った『伸びる槍』を突き刺していた。どうやら妖魔の集団に強い個体はいないようだな……
あっという間に数十体の妖魔の軍団の殲滅が終わる……俺たちすごく強くなってる??
俺は二人のプレイヤーにゆっくりと近づいていく。
男性プレイヤーのスキルでいきなり妖魔が血しぶきを上げていたので、慎重に距離を詰めていくことにした。
男性プレイヤーも剣を構えながら俺とナオエさん、ウィンディードさんの方にも警戒し続けていた。
「ありがとう……でいいのか? 鬼人族まで……仲間なのか?」
「敵意は無いです。厳しそうだったので手助けしましたが……一人でもやれました?」
「……そうだな……やれなくは無かった……けど、連れがこの状態でね……」
男性プレイヤーの目が色々なところを見ている。どうやって逃げるかひたすら考えているんだろう……
連れの女性もぐったりとして気絶している……おそらくSP切れ……なんだろうな、この状況でも起きないって事は。
外傷はそこまでないみたいだし。
ナオエさんが不憫そうな目を倒れている女性に向ける。
「私たちの拠点が近くにあるので来ます?」
「……大丈夫なんだろうな……」
ナオエさんが妖魔の槍などを回収しながら冷静な口調で答える。
「倒すつもりだったらあなた達を先に狙ってますよ」
「……たしかにそうだ……」
……ナオエさんのさっきの質問は、助けるのか、プレイヤーを狩るのかを聞いてきてたのかもな……
男性プレイヤーは結構傷がついているが……ナオエさんは治す素振りは見せないな……
寝静まってからやるのが恒例になってるのかな? バレないように……
ナオエさんが横たわって動かない女性を持ち上げ、肩に抱え上げる。
身体能力のステータスが上がりすぎて、大きなぬいぐるみを肩に抱え上げる勢いだな。
「え? そんなに……荷物みたいに……」
「行くわよ。付いて来てね」
「え?」
ナオエさんが地面についた槍に『伸びる』のスキルを発動させ高速移動をして一瞬に拠点方向へと飛んでいく。
凄いな、女性一人、50㎏を肩に抱えながらあんなに軽々と早く移動を……
「……すげぇな……伸びる槍のスキルか……孫悟空みたいだな……」
「……あ、俺たちは走ってついていく感じか……行こうか」
「……わかりました。……スキル格差酷いな……」
「……ほんとに……あ、名前……」
「加藤タチキだ」
「俺は不動カタシ。よろしく……頑張ってついこうか……」
「わかった……あんたは高速移動が無いんだな……」
「スキル格差ってやつだ」
「……なるほど」
俺たちはナオエさんを追って走り始める。ウィンディードさんの風の魔法のアシストもあった様で、かなり軽く飛ぶように走れた。タチキさんも風の魔法の効果に驚いているようだった。俺も風の魔法を覚えたい……ナオエさんの移動力ありすぎだわ。彼女がいないとヒット&ウェイの戦術はできないなぁ……まぁ、今回の妖魔の軍勢への援護も彼女がいなかったら出るなんて言わなかったわけだけど……
三十分ほど移動をすると、前方でナオエさんが待っていた。
よく見ると拠点の方から白い煙が大量に上がっている様に見える。
もしかして襲撃があったとか? 急いで彼女の元に走り寄る。
「カタシ君、行こう、拠点が妖魔の襲撃にあってる!」
「わかった!」
「えっと、それじゃ、この子お願いね」
ナオエさんが女性プレイヤーを肩から降ろし、お姫様抱っこでやさしくタチキさんに手渡す。
タチキさんは手渡された後キョロキョロと見まわし、どうしようか悩んでいる感じだった。
「わ、わかった。俺たちはどうすれば……」
「多分勝てると思うので、様子をみて砦まで来て」
「周囲には敵性生物がいないから、落ち着いて戦いの音のする方に来てくれればいいかな」
「……わ、わかった、マジかよ……戦いの音のする方にって……って、あの人数勝てるのか?」
「もちろんよ?」
「まぁ、大丈夫でしょ」
「……」
タチキさんは場の雰囲気にのまれたのかコクコクと頷くだけだった。
普通は戦いの音のする方向から逃げる……だよなぁ……と思いながら、ナオエさんの持っている槍の持ち手辺りを握る。
「行くよ。しっかりつかまってね」
「おっけ。行っちゃって」
俺はナオエさんの伸ばす槍に捕まって一気に砦方向へと向かった。
確かにこれは如意棒をつかった移動だなぁ……孫悟空プレイをしていたんだな。俺たち。
【なるほど……孫悟空……伸びる棒を使っていますね……あなた達の世界の人間は発想が面白い】
……そんなもんなんすかね……




