第51話 妖魔陽動作戦
20日目
空が白む前に俺たち三人、俺、ナオエさん、ウィンディードさんは不安そうな表情をする仲間に見送られながら移動を開始する。
昨夜はさすがにいろいろな人に反対されたが、今後の事を考えるとできるだけ数を減らした方が良い……とのことで俺とナオエさんだけで行くことになった。ジンパチさんが残っていれば何とかなりそうな気もするからね……
ナオエさんの高速『槍伸ばし』移動はかなりスリリングだが、操作のコツを彼女が覚えた用で思ったよりはソフトランディングだった……が、夜明け前で暗いのも相まってスピード感がありすぎてやっぱり怖いな……絶叫マシンなんてレベルじゃない気もするんだけど?
ナオエさんは俺のひきつった顔を見て楽しんでるな……昔からちょっと思ってたけど……エスっ気があるよなぁ。
途中で鬼人族の仲間と連絡をするためにウィンディードさんが別行動になる。
俺とナオエさんは教えられた鬼人族の前線の野営地に近づいていく。そこら中に野営をしている妖魔の集団がいた。
まだ眠っている妖魔が大半で、見張りらしい見張りも殆どいなかった。これだけの集団を見たら普通の生物は逃げるだろうな……魔獣どころか小動物も見当たらない。
「多いなぁ……」
「……まだ準備している段階みたいね……私たちの拠点方向じゃなくて……やっぱり鬼人族の砦を避けて、その先の村が目的かしら……これだけいると食料問題ありそうね……」
「……うーん。足止めしないと援軍が来てくれないんでしょ?」
「みたいね……援軍ってどれくらいくるのかしら……」
「……んじゃやっときますか……」
「えっ!? 手を出すの?」
「気が付かれたらすぐ逃げれば大丈夫だよ」
「うーん、大丈夫かなぁ……」
俺は心配そうにするナオエさんをよそに、スキルアップした『自動追尾』を使って遠距離ギリギリの位置から標的の頭をこっそりと串刺しにしていく。寝ている妖魔はそのままで、起きている妖魔でも『目標』、ターゲットになった瞬間、何かに気が付いてキョロキョロとした瞬間に妖魔の槍が突き刺さって絶命していった。
さすがに突然飛んでくる時速二百キロ近い槍には反応できないようだ。面白いように一方的に狩れる。ついでに言えばスキルレベルが上がっていたので同時に追尾する標的の数も3から4に増えたおかげでかなり効率が良かった。
……しっかし……やっぱりエグイな……頭に槍が……突き刺さるってのはやっぱりなぁ……
【……カタシがここまでやるとは思いませんでした】
仕方ないっでしょ? こんな敵意むき出しの集団がこんな近くにいるんだから。
【鬼人族に多少被害は出るでしょうが、見守ればあなた達への被害はなかったかもしれません】
助けてもらってるんだから、その辺は少しでも返さないと……
【……少しには見えませんが……】
「……物凄く簡単ね……」
「そうだね、次いこう」
「わかった……今度から寝る場所には注意するわ……」
「え? ナオエさんは攻撃しないって」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」
「?」
ナオエさんの表情が若干青ざめている様に見える……寝込みを襲われると……他のプレイヤーから攻撃されたら……一瞬でゲームオーバーだろうな……その辺想像しちゃったかな?
それからナオエさんの『伸びる』を使った高速移動で場所を変えて部隊の端っこにいる妖魔を狩っていく。
「槍を回収したいところだけど……」
「大丈夫よ。こんなこともあるかと思って沢山回収してあるから」
「それは心強い」
俺はひたすら『自動追尾』で妖魔の槍を放っていく。見張りで起きている妖魔を先に倒し、寝ている妖魔も座っている妖魔も容赦なく頭に向けて投げ続けた。
突き刺さるところを見てもあまり忌避感を感じなくなったな……慣れてきたのだろうか?
「……ズルいレベルね……」
「そうだね、木の上からノーリスクで一方的に殺してる感じだもんね……」
「あ、いや……そうね、私一人よりも一緒にやった方が良かったね……」
それからも高速移動と『自動追尾』で妖魔の槍での攻撃をひたすら加えていく。びっくりするくらい気が付かれないな? なんでだろ? 槍が突き刺さる時、結構良い音がしてそうなんだけど? 槍が頭蓋骨を貫通してるんだよ?
【集団心理というものでしょうね。徒党を組むことによって安心しきっているのかと】
それで警戒心が全くない状態か……見張りで起きている妖魔も少ないものな……
「本当に朝の襲撃って……効果的なのね……倒れる音聞いても起きない」
「うーん。みんな頭が起きてないし、準備もしてないしね。盾とかもってないからやりやすいね」
ブオーン。ブオーン!!
最初に妖魔を襲撃した辺りで角笛の音が聞こえる。
さすがに見回りの妖魔が死体を発見したか……
「じゃぁ、手はず通りに反対方向に」
「わかった……カタシ君って結構容赦ないのね……あんなに悩んでたのに……」
「鬼人族にはお世話になってるからね。妖魔には世話になってない……あ、槍は提供してくれてるから世話になってるか?」
「……この世界に染まってきたわね」
「そりゃ、もう……何匹倒していると思ってるの……」
騒ぎが起きている間に移動をし、何事かと突っ立って見物している妖魔の後ろから『自動追尾』を連投する。妖魔に気が付かれそうになったら高速で移動……を繰り返していた。
「すごいな、1000人以上はいるんじゃないのかこれ?」
「……そうね……もうすでに……100人以上狩ってるんだけどね……」
「え? そんなに? 槍のストックそろそろヤバいか?」
それからも妖魔を狩り続ける。さすがに色々と察知されたようで、槍を構えて集団で固まり円陣を組んで森の方にほぼ全員の妖魔が槍や武器を構えて警戒を始めていた。妖魔の集団の中に二回りくらい大きな妖魔もいて、そいつらが指揮を執っている感じだな……よく見ると杖とか、戦斧とか見たことのない武器を持った妖魔もいるし、長弓を構えた妖魔もいる。あっちも色々な武器があるみたいだな。変わった武器を持っている妖魔はもれなくマッチョで強そうだ……
「んじゃ距離を取りますか」
「うん……とりあえず合流予定場所までいきましょう」
ナオエさんに抱えられるように森の中を『伸びる』の高速移動をして鬼人族の砦の方へと向かう。ちょっと不格好だが仕方がない……抱えられた姿勢のまま移動中もやれるだけ妖魔を狩っておいた。
ほんと『自動追尾』は奇襲にもってこいすぎるな……スナイパーライフルで一方的に狩っている気分だ。チート過ぎるな……
「見えた、あれね」
ナオエさんの視線の先には木の丸太で作られた砦があった。本丸の方は石造り……というよりコンクリートと岩を組みあわさせていて、かなり丈夫そうに見える。
砦の見張り台にウィンディードさんの姿が見えたので、ナオエさんの『伸びる』でひとっ跳びで着地する。
ウィンディードさん以外の鬼人族は完全に呆然としていた。『伸びる』でいきなり来たからだろうなぁ……魔法がある世界でもさすがにみんな驚くもんだな。
「「!!!!!」」
「ナオエ、カタシ、ダイジョウブ?」
「もちろん。大丈夫」
「こっちはまだ安全みたいね。よかった」
挨拶もそこそこに、広げられた地図……ん?
鬼人族の方が地図の精度はいいな……プリントっぽいな……印刷か? って、今はそこじゃない。
「発見した妖魔の位置を伝えないとね……ん? ナオエさん?」
「あ、そうだった……ごめんなさい。あまりの事にちょっとぼーっとしてた……情報量多すぎね」
珍しくナオエさんの頭が働いてない? 妖魔の数が多すぎたのだろうか? 確かに目の前には見たことも無い鬼人族だらけだし、砦の中には獣人みたいな人もいる。狼男と猫娘だろうか? 頭がパニックになる。まるでファンタジー映画だ……向こうもこっちを見て驚いている。ウィンディードさんから説明を受けてたんじゃなかったの? あれ?
若干緊張しながらも図と絵で、妖魔の位置と数を伝える。鬼人族の首脳陣に明らかに焦りの色が浮き出てくる。
俺たちの持ち帰った妖魔の数や位置情報を元に、何やら鬼人族や獣人族の中で相談をしている。
……なんとなく俺達の中にいるウィンディードさんの気持ちがわかる気がする。蚊帳の外感が半端ないな。
言葉が分からないって……面白くないなぁ……
ナオエさんが隣で水を飲みながら一息ついていた。気持ちが落ち着いたようだ。
「SPの残りは大丈夫なの?」
「ん?残り八割だね。流石に投げすぎた」
「そんなにコスパのいいスキルだったんだ……」
「当たると思ったらすぐに切ってるからかなぁ、後はある程度目標の方に投げるとSP消費が少ないみたい。逆方向に誘導し続けるとすごい消費するんだよね」
「なるほど……後300人は行けそうね……」
「え、そんなにやれる?」
「二割で100人越えだから……行けるんじゃないかな……」
「寝てたやつが殆どだったからじゃない?」
「……それもあるか……」
俺たちが休憩して砦の中を見学している間に鬼人族の話はまとまったようだった。どうやら昼、正午まで耐えれば主力の戦士達が到着するらしい。それまでは頑張って耐える……というのが目的になった。
ん? 作戦はないのか? 絵とカタコト鬼人族語で聞いてみるか、籠城して耐える……
だけらしい。
籠城だったらアヤノさんを連れてくればよかった。彼女のステータスの上がった岩石投げは集団に対して非常に効果的なんだけど……
カタパルトの岩石投石レベルだからな、今。
「ナオエさんのSPはどう? 余裕ある?」
「残り90%あるから大丈夫。移動しかしてないもの」
「それじゃ二人でゲリラ戦でもやろうか?」
「……本気?」
「おそらく森の中だと一方的にやれると思う。あとは足止め目的だったら散発的に攻撃する方が良いからね」
「うーん、さっきもうまく行ったからいけるかな……危なくなったら絶対に逃げるからね?」
「もちろん」
「私たちの命優先だからね?」
「もちろん」
「鬼人族が死にそうでも助けないよ? いい?」
「……もちろん……」
「いい? 見捨てる勇気よ?」
「わかった……自分たち優先で……」
ウィンディードさんに作戦を頑張って伝える。彼女は理解してくれたが、戦士らしい鬼人族からは困惑した表情が伺えた。あんまりやらない戦術なのかな? ってかみんな強そうだし、基本真っ向勝負……なんだろうなぁ……エーテルみたいのもみんなすごい纏って見えるし。
何人かの鬼人族や獣人の狩人もゲリラ戦に参加してくれる事になった。至る方向から弓矢を撃って逃げる。それだけだけど時間稼ぎにはなるはずだ。
§ § § §
砦から妖魔の先遣隊が目視できると同時に「足止めゲリラ戦」がスタートした。
ナオエさんの高速移動と気配察知でギリギリの位置からの自動追尾槍投げを繰り返す。少しでも釣れたならすぐに移動して気がついていない部隊を攻撃していく。
たまに木の上に登り全体を俯瞰して相手の隊列を見る。なんか相手の隊列がもうぐちゃぐちゃになってるな……角笛が至る所で吹かれてるし。
「後ろの方回って攻撃してみようか?」
「相手の隊列が……ぼろぼろに見えるけど?」
「ほら、後ろの真ん中あたりに陣取ってる大型の妖魔を混乱させたら撤退するかもよ?」
「なるほど、あれが指揮官ね」
ナオエさんに連れられて一瞬で妖魔の部隊の後方まで回り込む。後ろに行くほど装備が豪華だったり杖持ちが多いように見える。将軍とか軍師なんだろうか? やっぱり魔法使い?
「強そうだから、射程距離ギリギリから投げたらすぐ移動を繰り返そう」
「わかったわ。どんな魔法を使ってくるかわからないものね」
それから投げては逃げる「ヒット&ウェイ」を繰り返す。
射程は俺たちの方が圧倒的にあるようで、こちらに気が付かれても反撃をされることは無かった。
兜を被っている妖魔は耐えるものもいたが、杖持ちや文官っぽい妖魔の頭は貫いているようだった。
移動と投擲を十投ほど試みて、三分の二くらいは倒せてたと思う。
妖魔の大将らしき人物が何やら大声で叫び、何時もと違う角笛が吹き鳴らされる。妖魔の部隊が大将の方にまとまり始めた様に見える。
「じゃあ、側面の方まで移動しよう」
「わかった。なんだか缶蹴りしてるみたいね」
ナオエさんが真面目な顔をしながらも少し微笑む。
「ナオエさん、そろそろ槍の数やばいんじゃないの? もう百本くらい投げたよね?」
「……大丈夫、こんなこともあるかと思ってたくさん持ってるから」
「すごいな……あれ? そんなにあったっけ?」
それから側面に回った後も同じようにヒット&ウェイを繰り返す。妖魔は大混乱して滅茶苦茶になっていた。妖魔の砦方面に逃げ出す奴も出てきたみたいだな。
「ナオエさん、そろそろ、終わりだよね?」
「……ま、まだまだ大丈夫…」
「ナオエさん……なんか隠してない?」
「……」
どう考えても合流してから狩った妖魔の数や、回収した槍の数が合わない……これは……
「もしかして……ウィンディードさんと一緒に、妖魔の砦に忍び込んで武器調達とかしてたりしない?」
「……怒るから言いたく無い」
確定だな、これは。ナオエさんは図星をつくと目をすぐに逸らす。
危険なことしないって約束したのに……見張りと称して妖魔狩りをやってたな?
それからも混乱に乗じて、幹部らしき妖魔を狙い撃ったり、はぐれて混乱している妖魔を一方的に打ち抜いたり、ヒット&ウェイを繰り返す。
散り散りに逃げそうだったので、俺たちの拠点方向に逃げそうな妖魔を重点的に狩る。
「ねぇ、もう戻っても大丈夫かもね」
「まだいる様に見えるけど……」
「ほら、もう正午。お日様が登り切ってるよ?」
あ、たしかに。
夢中で狩りすぎたか……
あれから何本投げたか分からないほど沢山投げたけど、ナオエさんは何本槍を持ってたのかも分からないな。やっぱり砦の武器庫にでも忍び込んだのか? それとも相当数の妖魔を狩っていたとか? あり得るような、ありえないようなギリギリの線だな。
§ § § §
俺たちは鬼人族の砦に向かう。
俺たちがやった以外の妖魔の死体がゴロゴロとしていた。よく見るとウィンディードさん達鬼人族も砦から打って出てたみたいだ。
「カタシ!ナオエ!アリガトウ!」
こちらを発見したウィンディードさんが駆け寄ってくる。
と、当時に違和感を感じる。
ウィンディードさんの周辺に違和感が集まってくる。
俺はできる限りの速度でダッシュしてウィンディさんを抱えてダイブする。
ドーーーーン!!!
突然、ウィンディードさんがいたところが爆発した。
あれ? 耳がキーンってして視界がぼやける? なんだこりゃ? 耳も何か詰まった??
って、立てない……頭がユラユラする?? 意識が朦朧としていると、突然何かに抱きかかえられて高速で移動した感覚になる。
俺とウィンディードさんはナオエさんらしき影に拾われて高速で移動したようだった。
くっそ、妖魔の魔術師か?
すごい威力だった。グレネード?? 爆発の魔法か?
銃撃ゲームでフラフラになるあれか? こんなに痛いの? 食らってないのに?
フラフラとしながらも周りを見回すと鬼人族の戦士と獣人の狩人達が臨戦態勢に入る。
二人組の人間が堂々と歩いて木の影から出てくる。
「なんだよ邪魔してくれちゃって。風の武将の変化前に倒したかったのに!」
「てめぇも日本人なら手伝えよ! なに敵と馴れ合ってんだよ!」
俺たちの前には、近代的なプロテクターに包まれた二人組の日本人がいた。




