第49話 「黄金の鷲」の生産組合流
19日目
今日はアヤノさんに代わり、ウィンディードさんが朝ごはんの味付けをしてくれた。
アヤノさんはぐっすりと眠っていて、何時もなら朝日と共に起きるのに熟睡したままだった。
どうやらSPを使いすぎると……普通に起きれないみたいだな……この島で再会した時のナオエさんもそうだったし。
ウィンディードさんの味付けはかなり薄目で出汁が多目な感じだな……ちょっとだけ塩を足したくなるが、素材の味が生きているからこれで良いのかな?
……なんかウィンディードさんの表情が浮かないな……あ、リアクション……美味しいってリアクションを……
俺は周りを見回すが、俺と同じような表情をしていた。
アヤノさんの料理がうますぎるのが問題のようだ。
崖の拠点の資材をいったん四次元収納ポーチにしまい、アヤノさんを起こして拠点設営地へと向かう。
起こされる側に慣れていないのか、あわあわとして慌てて準備しているアヤノさんが可愛らしかった。
いつもは俺たちを起こしてくれてる側だもんなぁ……
今日は天気も良いな……雲っている方が作業をする分にはありがたいんだけどね……
俺たちが拠点設営地に近づくと、拠点から煙が上がっている。
「え? 煙?」
「もしかしてもう到着してるのかも、ちょっと待ってて。見てくる。支えててね!」
ナオエさんが一瞬にして木の上へと『伸びる』で飛んでいく。スキルアップをさらにしたそうで……ほんと一瞬だな。もう戻って来てるし。40メートルジャンプするのと変わらないじゃない……
「7人いた。結構来てくれたのかな?」
「護衛的な人もいるだろうから……少ないとは思うけど……」
警戒しながら歩いて近づいていくと、手を振る人がいる。
見覚えがあるな……この間も来てた人だな、確か元気な女性はカエデさん……落ち着いた感じの男性はコウタさんだっけ?
【はい、その認識であってます】
ありがたいね……確認してくれて……名前を間違えると失礼だもんなぁ……
「待ってましたよー!!」
「すみませーん!! 留守にしてしまって!」
「なんかすごいですね、前見た時は土台だけだったのに、たった三日で城壁が……」
「ほんとだね……詮索はしないけど……凄いもんだね……」
カエデさんの視線が俺の後ろの方に向くと驚きの表情になる。
「って、え? 鬼人族??」
「ああ、鬼人族のウィンディードさん。訳あって、鬼人族とのつなぎ役とか、俺たちの護衛をしてくれてます」
「ウィンディード。ヨロシク。オネガイシマス。」
「ああ、これはご丁寧に……よろしくおねがいします。カエデです……言葉は通じないの?」
「頑張って勉強中だよ! 私もやってる感じ」
「コトバ、ベンキョウシテマス」
ウィンディードさんとすっかり仲が良くなったリンカさんが答えていた。
「すごいですね……てっきり物品のやり取りだけをしてると思ってたんですが……一緒に行動してたんですね」
まぁ、確かに……前会った時は隠れてもらってたもんな。
後ろの五人も驚いていたが、「綺麗な人だ……」「本当に角が生えてる人間ね……」と素で口に出しているのを見るとあんまり敵意とか差別とかそう言うのはなさそうだな。
怖そうな顔だったら……警戒されたんだろうだけど……
カエデさんとコウタさんがガイド役ってことは……残る5人が生産職のスキル持ちって事かな?
ほっとした表情の人もいれば、こっちの事を警戒している人もいる感じだな……確かにみんなからは「陽キャラ」な感じはしないな。カエデさんとコウタさんがスポーティすぎるんだろう。
「こんにちは。はじめまして不動カタシです。遠路はるばる来てくださってありがとうございます。この度は拠点設営の協力の呼びかけに答えていただき誠にありがとうございます」
カエデさんとナオエさんはちょっと呆れた感じだった。
「……カタシさん、なんか名刺交換が始まりそうだけど?」
「カタシくん、緊張しすぎよ。会社じゃないんだから」
ちょっとした笑いが起きる。
確かにちょっと固かったか。久々のスピーチにちょっと戸惑ってしまった……
「んー、えっと、それじゃ……こっちの流儀か……ナオエさん、どうしよう?」
「私にふる? えーっとそれじゃ自己紹介を、あとこの拠点を作るのに役立ちそうなスキルがあったら教えてくれるとありがたいかな。あ、私は伸上ナオエ、色々なものを『伸ばす』スキルを持っているわ」
ナオエさんが持っていた槍を空高くまで『伸ばす』皆の視線が集まって一斉に上を向いている……縮むと、視線も一緒に下に戻ってくる。猫がおもちゃを見る感じでおもろいな。
「それじゃ俺から行きます。住黒カンジ、現実ではITエンジニアやってます。スキルは『鍛冶』……なんですけど、炉がなくて武器を研ぐことしかできて無い感じです。宜しくお願いします」
パラパラとした拍手が起こる。
自己紹介をするなんて久しぶりな気がするな……
カンジさんは随分と細い感じだな……理系プログラマーって感じだ。鍛冶ってハンマーとかも無いと駄目だよなぁ……ジンパチさんが道具作ってくれそうだな。
「乾ライラです。OLやってました。この世界に来たら目が良くなっててびっくりです。『乾燥』的に乾かすことが出来るスキルを持っています。薪づくりを大量にやってました。もしかしたら塩づくりに貢献できると思って志願しました。よろしくおねがいします!」
ライラさんからはなんか……オタク臭がちょっとするな……『乾燥』か……対人で使ったらミイラとか干物も作れそうだな……あれ? フリーズドライ的な乾物がつくれないか?
「天海カイトです。サラリーマンで仕事に子育てに奔走していましたが、気が付いたらこちらに来ていました。スキルは……『回転』という、何でも回転出来るんですけど……戦闘では使いどころがイマイチな感じだったのでこちらに来ました。よろしくおねがいします」
カイトさんはサラリーマン……子育てって事は俺より年上かな? 『回転』……聞いているだけだとかなり使えるスキルに思えるけど……回転させる器具が無いとあまり意味がないのか? なんだかやりようによっては戦えそうな気がするんだけど……
「滑川サツナです。えっと……浪……大学受験生をがんばってました。……えっと…………スキルは……『滑る』です……」
その場にいたリンカさん以外が何かしらのリアクションをとっていた。口に手を当てたり、かわいそう……といった感じだった。
大学受験生に『滑る』のスキルは酷いんじゃないか? カミよ?
「えっと……えっと……『滑る』……摩擦を減らす系なんですけど、戦闘では使いにくくて……建築とかモノづくりの方が向いていると思ってこっちに来ました。よろしくおねがいします」
『滑る』……これも使い方によっては強いスキルな気がするんだけど……板の摩擦をゼロにすれば滑り放題な気がするし、摩擦ゼロにした岩を坂から落としたら凄い事になりそうなんだけどなぁ……
「最後は私ですね。下城ヨウカです。『浄化』のスキルを持っています。物をきれいにしたり、水をきれいにしたりしてましたが、みなさんのストレージいっぱいのきれいな水を作って、手持無沙汰になって来たのでこっちに来ました。こちらでも綺麗な水や洗濯などで貢献できると嬉しいです」
……『浄化』? この世界だとすごい重宝されるスキルっぽいな。んー綺麗にするだけ……かな? なんか霊も浄化できたりして……色々試してみたい気がするな……
コウタさんが手を上げた後に発言をする。
「あ、ちょっといいですか? ヨウカさんに関しては、俺たち「黄金の鷲」からも定期的に水の浄化と服や装備の浄化をお願いする予定です。あと乾さんにも定期的に薪の提供をお願いしています。もちろん報酬となる食料なども提供する予定です」
なるほど……それで「黄金の鷲」の装備とか、服は綺麗な感じなんだな。
それにしても……別に戦闘できないスキル……ではない人も混じっている気がするんだけど……戦闘に適した優良なスキルがもっとあるって事なんだろうなぁ……
それからは彼らは朝ごはんはまだ……とのことだったので食事を振舞うことにした。何となくだけどみんな若干痩せている様な気もした。この世界に来てから俺たちはどんどん筋肉マッチョになっているというのに……ナオエさんなんて腹筋がバキバキなのに。
アヤノさんを中心にしっかりと味付けをした肉中心のご飯とみそ汁、ハーブと醤油の良いブレンドのイノシシ焼き……などを作っている最中にもこちらに皆が集まってギャラリーの中での調理になった。
様子を見るに、米も醤油も味噌も……やはりないみたいだな……物凄く良い匂いだし。ってか何人かは本気でよだれが垂れて止まらないみたいだ……まぁ、気持ちはものすごくわかるけど……
「「「「「いただきますっ!」」」」」
凄い勢いでご飯を食べていく。
そして……なんか皆目に涙を浮かべてたり……泣いちゃってる人もいるな……どうしたのこれ?
「気持ちわかるわ……」
「そうですね、とてもわかります」
「魚の塩焼きだけでも泣きそうになりましたからね……」
「食べものって大切ですね……」
……なんか俺って、食に関しては恵まれてる方だったのか? こっちに来てすぐに魚の塩焼きを食べた記憶があるんだけど?
【食に関してはカタシが一番充実していたようです。ほかのプレイヤーは携帯食を食べ続けている様ですよ】
……そうなのか。まずは食料って言ってたから……
護衛のはずのコウタさんがぼそっと呟く。
「俺もこっち来ようかな……」
「……誰がこのゲームクリアするのよ!」
「……そうだった。賞金目指して頑張ります」
食事を終えるとカエデさんとコウタさんは約束していた塩と、逆算すると食べ切れずにダメになりそうなイノシシの肉などを受け取って戻って行った。本気で残りたかったらしく、かなり名残惜しかったみたいだったけど。
拠点の空き地には大量の妖魔の槍や戦闘で凹んだ革鎧や鉄の鎧などが大量に廃棄……じゃ無くて置いて行ってもらった。この世界では本気で資源になる。
「すごい量ですね」
「こんだけ狩れば……妖魔の拠点に大量の妖魔が流れ込んでくる訳だね」
「これが一部だもんね……他のギルドもプレイヤーも狩ってるわけだし」
「うわ……」
「侵略者だよね。プレイヤーって……」
他にも鉄鉱石らしきものや、魔法鉱石らしき物も寄贈してくれた。
ジンパチさんが鉱石を手に取りながら思い悩んでいた。
「どうします? 炉を作ります?」
「え? 作れるんですか?」
「なんとなくの構造は、ただ、木炭とか、巨大な吹子とかを作らないとダメかもしれませんね」
「サバイバル本に作り方書いてあったような……」
【基本的なものは載せてありますか、大量生産用のものはありません】
……なるほど、バランスが崩れるからか……
【そうなります。ただ、あなた達の知識をより合わせればできると思いますよ】
なるほど、三人集まって……文殊の知恵みたいな? あれか。
------------- キャラ説明補足 -------------
住黒カンジ 「鍛冶」炉が無いので全く役に立たない状態「研ぐ」だけだった
鉱物系や道具の出来などの情報を視覚化「鑑定」ができる。
男性25歳社会人エンジニア ・オタク気質な雰囲気
乾ライラ 「乾燥? 湿度調整?」 水気をとるのに適したスキル
女性・28サイOL 社会人文系オタクっぽい感じ
視力が良くなってびっくり系(元メガネっこ)
天海カイト 「回転」何でも回転させることが出来る。
男性・35歳、サラリーマン 子持ちで寝不足気味だった。
滑川サツナ 「滑る」と本人は思っているが、「摩擦を調整」できる。
19歳女性 大学受験をしようとして浪人中・割と活発系でギャル寄り
下城ヨウカ 「浄化」なんでもきれいに出来る。
20歳女性 文系大学二年生・ボランティア精神にあふれるタイプ
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