第48話 拠点の城塞化
18日目
俺たちは妖魔の動向を探る必要があったので、ナオエさんとウィンディードさんの二人に妖魔の砦近辺の偵察をしにいってもらった。異変が起きたり、危険だと判断したらすぐに戻ってくるようにお願いしておいた。ナオエさんはこういう事に慣れすぎな感じがするんだよね……まるで散歩に行くような感じだ。
……敵を探知しながら動けば相当なミスをしない限りは……大丈夫……だよな? ちょっと心配になった。
それから残った4人で拠点の完成を急ぐ。
今日か明日あたりに攻略組ギルドに所属する「黄金の鷲」の生産スキル組が合流するはずだが、その前に対妖魔用に防衛出来るくらいにはする……のが目標になった。
まぁ、妖魔が多すぎたり、軍隊を出して来たら逃げの一手になるけどね……
「あと3日は欲しいですね」
「そうですね……完成前に妖魔に発見されなければ問題が無いのですが……ちょっと……岩で壁を作ったら予想以上に目立つようになりましたね」
「打ち合わせしてた通りに地面に逃げ道つくっておこうよ。ジンパチクンが最初に言ってたやつ」
「そうですねぇ……退路があった方が安心ですし、大量に来るのなら道は狭い方が対処しやすいかもしれませんね」
俺たちは一旦、砦の外堀の作成をやめて、中央の建物の地下を掘って逃げ道を確保することになった。
「あれ? もう穴あいてない?」
「縦穴はあるんですが、横穴を掘っていない感じですね」
俺は海賊……じゃなくてこちらの世界の人間から接収した「つるはし」をもって二メートルの深さはある穴の中に飛び降りる。全然痛くないな……やっぱり体が丈夫になってる。
掘り始めようとするとあることに気が付く。掘った土はどうすればいいんだ?
「……ジンパチさんは、最初の……村の拠点の穴はどうやって掘ったんですか?」
「あれですか? 最初から開いていたのを活用しただけですよ。『柔化』では土を運べませんので……」
「手押し一輪車とか、土を運べる何かが無いと厳しいですね……土を入れる袋とか……四次元収納ポーチにも入ら無さそうだ……」
「……そうなると、直ぐにできる外堀を深くした方が現実的になりそうですね……」
「それでしたら外掘や塀を長く狭くするようにして、「スキル」を当てやすい構造にすればよいかもしれませんね」
なるほど……アヤノさんは頭がいいなぁ……あまり考えつかなかった。塀と堀の形をスキルが当てやすいように魔改造すればいいか……
『伸びる』『固定』『削る』『プレッシャー』『柔化』『重量操作』……なんか行ける気がしてきた。
一旦、地上に戻り、四人で集まって計画を練り直していた。
地面に色々な形状を書いて迎撃しやすい形を考える……星形にするとどこからでも攻撃できるけどなぁ……居住スペースが足りなくなりそうなんだよなぁ……
「あ、それ見た事あります! 五稜郭ですよね!」
「ああ、なるほど……今の我々は遠距離攻撃が得意ですからそれでいいかもしれませんね」
「たしかに……私の『重量操作』で岩を投擲しても……この形状なら当てやすいかもしれませんね」
「……え? これでいいの?」
何故か俺以外の三人が頷く。目がキラキラしている……駄目だこの流れは……妄想でプロジェクトが頓挫、つぶれる流れだ。
「……現実的な砦を作りましょう……四角くて城壁が高くて登れない奴を……」
「そんな!」
「ダメなの?」
「五稜郭って一体どれだけのサイズだと思ってるんですか? 野球場よりでかいですよ? これって銃とか大砲の射程だからこの形……って記憶にあるんで、同じくらいのサイズにしないと意味ないですよ?」
「……やっぱり駄目よねえ……大きすぎるわよね……」
「「……」」
「……残念ね……」
三人の目のキラキラが無くなっていく……
「やはり壁の上は歩けるようにしましょうか……」
「今の壁は城壁っていうよりも、ただの壁ですもんね、上から攻撃できるように塔みたいのも追加しましょう」
「穴を開けてナオエさんの『伸びる』を打ちやすくしようよ」
「『プレッシャー』でつぶしやすいように掘の幅を狭くしましょうか……壁の階段のところから岩でも落とせるようにしましょうか」
何か気を取り直して色々なアイディアを出し始めたけど、聞いているだけでも今の砦よりも……なんかすごいバージョンアップしそうだな……五稜郭のイメージのせいかみんなの高望みが凄くなった気がするんだけど……
それからは現在の拠点の魔改造がスタートした。
正方形のほとんど完成したはずの拠点の壁を2メートルほどの厚さにし、上部を歩けるようにし、矢を避けるための凹凸をつけ、四隅に下を狙い撃ちできるように塔のように高くし……なんか、砦じゃなくて城塞になりつつあるな……アヤノさんが張り切って石を運搬してるし……壁の中って普通土とかだったんじゃ?? 全部岩にするの?
「あの、製作する面積が物凄く増えたんですけど……大丈夫ですかね?」
「間に合わなかったら逃げましょう!」
「そうですよ~いざとなったら崖に逃げればいいんです!」
「今のペースなら……二日あれば行けます!」
なんだろう……昨日はブラックはいやだみたいな話をしてなかったっけ?
まぁ、SPヤバくなってきたら頭が痛くなるって話だから……とことんやった方が良いのかもなぁ……
近づいてくる妖魔はナオエさん達が倒してくれてるだろうし……
§ § § §
俺は疲れて横になっていた。ちょっと頭痛いなぁ……
何か随分日が落ちてきた気がする。
そういえばナオエさんとウィンディードさん大丈夫だろうか……
「黄金の鷲」の人たちも来ないなぁ……明日かな?
ぼーっとしていると俺の視界にナオエさんが突然入ってくる。
「ちょっと!! カタシ君!!これはどういう事??」
「え? おー、お帰り! 無事だったみたいで良かった……これって?」
あれ? ナオエさんはなんで怒ってる感じなんだ?
「この壁……城壁よ!! 地下に穴を掘るとか言ってなかったっけ??」
「ああ、地下に穴を掘るにも道具が必要で諦めて……なんかノリで城の砦みたいにしようってなって……」
「それで……ってみんなぐったりしてるのね……」
俺は起き上がり周りを見る。
皆で頑張ったが、体育館サイズはさすがに広すぎた様で、歩ける城壁を半分まで構築した。そのあたりでアヤノさんがSPの使い過ぎでフラフラしてたので慌てて止めたのだった……
俺もSP残量がヤバ目だったので休んでいたところだった。
面白くなってきたので注意を払っていなかった。みるみると城壁が出来ているのを見るとテンションが上がっちゃったんだよね。
ジンパチさんが塩生成用のカマドの様子をみていた。彼とリンカさんは元気なんだよね……
「やはり塔は時間がかかるようで後回しです。城壁は半分までですね。やはり二日かかりますね。思った以上に疲れました」
「アヤノさんがダウンしなかったらみんな休まなかったでしょ……私は止めたのに」
「やはり運搬が一番重労働なんですねぇ……」
アヤノさんがゆっくりと起き上がって座り水を飲む。
「……すみません、せめて砦全体を囲おうかと思いまして……SPの残りが一けたになると頭がガンガンするんですね……体は動くのに頭が痛くて……」
「……なるほど……私の頭痛の原因はそれだったのか……」
なるほど……リミット近くなるとそうなるのか……ナオエさんも最初会った時に頭に手をやる仕草とかしてたな……そういえば。フラフラだったもんな。今のアヤノさんみたいに。
ん? 砦の入り口にウィンディードさんが……ポカーンとして立ってるな……どうしたんだろ?
「あ、どうだったの? 妖魔の砦の様子は」
「そうね、ちょっと様子がおかしい感じだったんだよね……」
ナオエさんはむき出しの土の上のところまで移動をして地面に地図を描く。UIをトレースしているのか、かなりバランスの良い地図だな……妖魔の砦の形状も……結構大きいな。小さな村くらいはありそうだな……
「砦は結構大きくて、なんか増築を繰り返してる感じだった。この拠点の十倍はあると思う。それで変なところなんだけど……怪我した妖魔がこの砦に運び込まれてきてるんだよね。しかもリヤカーみたいので生活資材が山のように積まれた荷物を運び込んでたりするから、どっかから逃げて来たっていうのが一番表現が正しいかも」
「なるほど……」
鬼人族はそんなに手を出す感じは無かったから……プレイヤーかこの世界の人間からの襲撃があったのか? それともいつだか遠目で見た「草原の巨大恐竜」が大暴れしまくってるとか?
うーん……恐竜とか大型の魔獣は縄張りから動かずにずっと同じ場所にいるだろうし獲物もそれなりにいるはずだから……
やっぱり中央を目指しているプレイヤー、攻略組が妖魔を狩りまくってるから……かもしれないなぁ……
「海は遠いよね」
「うん、この世界の人間の線は薄いかもね……大砲の音とか、銃の音は全然聞こえなかったし」
「だとすると、攻略組に砦を落とされて逃げて来た……って感じなんだろうな……しかもそこらじゅうの砦や居住区がまとめてプレイヤーに襲われるわけだから……」
「……妖魔視点で見ると偉い迷惑な話ね……」
避難民を襲うのもなんかなぁ……夜のうちに侵入して火を放って砦を燃やしてもらおうかとも思ってたけど……情報を聞いちゃうと踏みとどまってしまうよね。
避難民……子供とか女性もいるんだろうか?
そういえば女性の妖魔って見たこと無いな……
「やっぱり子供とか、女性とかも逃げている感じ?」
「それが……いないんだよね。みんな男子って感じ。どこに生活基盤があるんだろうねぇ……」
「前線基地……って感じなのかもね」
【妖魔は地底に家族を持ち生活基盤を持つと言われています】
……なるほど……入り口をふさがない限りは増え続けるって事か……
【そういう事になりますね】
それは当面無理だよなぁ……
とりあえず確実なのは、あそこの砦に他のエリアからの妖魔が集まりつつあって、俺たちにとっては大変な脅威に成長していってる……ってのは確実だな。
俺たちは色々話しながら「黄金の鷲」が来るのを夕日が見えるくらいまで待っていたが、くる気配がなかったので一番安全な崖の拠点まで戻ることにした。
一応地面の石に、「明日マタクル」と書置きを残しておいた。『削る』はやっぱり便利なスキルだなぁ……




