第47話 加速する拠点づくり
17日目
俺たちは拠点設営にいそしんでいた。
今日は曇り空だったのであまり暑さを感じない。
「それじゃぁ、休憩しましょうか」
「おっけー!」
「大分進みましたねぇ……」
拠点作りが想定よりはるかに捗っていた。
『削る』のスキルの範囲をできるだけ細く長くして電動カッターばりにしたおかげで、岩場から岩を簡単に削り出せた。そのあとアヤノさんが『重力操作』で四次元収納ポーチに軽々と収納、運搬してアヤノさんがポイポイと配置……と、子供のブロック遊び並みの手軽さでみるみると拠点の外壁を積み上げ、仕上げはジンパチさんの『柔化』で隙間を完全に埋める。気が付いたら外壁とメインの家の壁の土台の制作がほぼ終わりかけていた。
「これだけの石壁だったら大砲でも持ってこないと壊せないかな?」
「そうですねぇ……相当威力のある爆弾じゃないと崩れないのではないでしょうか? 継ぎ目も「柔化」で溶かして固めてるので一枚岩みたいなものですし」
「……爆裂魔法とかあったらやばいですね……」
「爆発に強い建築ですか……それだったら地下に施設作るしかありませんね……」
「秘密基地みたいですね」
「……余裕が出てきたらやりましょうか……フフフ」
周りを見張っていたナオエさんが木から降りてくる。
「このペースだとここを本丸にしてその外に外壁をつくってもいいかもね」
「ほんとに……このままだとそれが出来ちゃうねぇ……」
「まぁ、実際の都市の成り立ちは砦から周りを民家などの町が囲って、その外をさらに外壁で囲っていくわけですから、そういう流れもいいかもしれませんね」
「……そうだったのか……」
街の成り立ちの歴史なんて考えた事も無かった……ヨーロッパの古都はそんな感じだったか?
「SP消費はどうなの?」
「僕は60%残ってますね」
「俺は……50%……削りすぎたか……」
「私は……40%ですね、節約しながら使っていますが、さすがにこれだけの量の体積を軽減していると減りも早いみたいですね」
「そうなると午後は洗濯と塩づくりね……」
「あとは周辺に妖魔がいたら狩っておくくらいかなぁ……」
一日中作業が出来ればいいけど、そうすると一日の終わりにはSPがほぼゼロになる。
今の俺たちだとこの世界の何かが襲ってきたらかなり厳しい。ステータスが上がっても武術の心得が無いから太刀打ちできない。SPが無いとどうしようもないからな……SPの最大容量が増えるか、回復速度が上がるまで頑張るしかないなぁ……
「まぁ、それでも6時間労働なんですよね、日の出から働きづめですし」
「……たしかに……」
「私もこの世界ではブラック気質はやめたいですねぇ……」
「……たしかに……」
アヤノさんの発言に俺は心の中で同意をしていたが、アヤノさんくらいほやほやした感じの人でもブラック系企業につとめてるのか……まぁ、過去の発言内容思い出すとものすごくしっかりした人だものなぁ……
休憩の後、洗濯組と周囲を散策する組に別れる。
ウィンディードさんがナオエさんについてきたがってたが、俺とナオエさんだけでも十分この辺の魔獣なら逃げれるし殲滅が出来るから、遠隔攻撃手段があまりないアヤノさん達、洗濯組の護衛をお願いした。
ナオエさんと二人で拠点の北西、妖魔のテリトリー付近を巡回する。
「なんだか久々の二人ね」
「そうだね、なんか濃い一週間だった……」
「そうね……これからも人増えるんだものね」
「明日か明後日には合流するって言ってたけど……昨日の騒ぎもあったからどうだろうね」
「ちょっと遅れるかもね。あ、目の前に3匹の集団」
「おっけ」
俺は迷わず『自動追尾』で妖魔の槍を放つ。二巡目には全員の頭を貫いていた。小妖魔を殺すことに慣れ過ぎてきてるな……人として大丈夫なんだろうか?
「やっぱり多いね……相手の拠点をつぶすくらいしないと駄目なのかな……」
「うーん。この辺で暮らす分にはそうかもね……」
「それか妖魔勢力をチクチク削るか……」
「そっちが現実的だけど、やりすぎると砦にいる本隊が襲ってくるんじゃないの?」
「……確かに……」
とりあえず小妖魔の死体から槍や持ち物を回収したら、この間回収したスコップで土をもって軽く埋めておいた。これくらいじゃ獣が地面を掘り起こして食べちゃうかな……
それからも俺とナオエさんで拠点方向にくる小妖魔、中型の妖魔を駆除していく。やっぱり数が多いな……昨日の銃撃戦以降、妖魔のテリトリーが騒がしくなっているみたいだな。それか何か違う要因があったとかか?
「一旦戻ろうか」
「うん、この分だと拠点の完成前に大軍で襲ってきそうだね……」
「その時は崖の拠点に移動するしかないか……」
「そうね……」
拠点設営現場まで戻ると、洗濯物が干してあった。
生物を殺してきた感覚と、平和な拠点とのギャップに若干の戸惑いを覚える。
かまどが何個も横に並んでいた。大量の鍋で塩を生成していたみたいだ。『健脚』もちのジンパチさんが追加で海水を組んできてくれたのかな?
「おかえりなさい! 聞いて! 魔法が使えるの!」
「「え???」」
リンカさんが嬉しそうに俺たちに駆け寄ってくる。
「見ててね!! 『炎の精霊よ力を貸して……灯を指先に!』」
リンカさんの指からろうそくの炎の様なものが浮かび上がる。
ライターみたいだな……呪文みたいの言ってたけど、鬼人族語かな?
「すごい……わね」
「何かねぇ、試したら出来たの」
「それはリンカさん以外も出来たりしてるの?」
ジンパチさんとアヤノさんが塩の生成作業をしながら残念そうな表情をしてこちらを見る。
「いえ、リンカさんだけですね……僕は駄目です。今のところ」
「私もです……得意な魔法があるらしいのでそのせいかもしれませんね。発音かもしれませんが……リンカちゃんが一番この世界の言葉の発音が綺麗に聞こえるし」
ウィンディードさんの方を見ると……なんか遠い目をしていた。多分お試しで教えたら出来ちゃった……的な感じなんだろうな。
「そっちはどうでした?」
「なんだか浮かない表情をしていますが……」
本来なら魔法を見て浮かれる所だったが……妖魔の活動が活発になっていて、そこら中妖魔だらけだったことを包み隠さずに伝える。
不穏な空気を感じたウィンディードさんからも説明を求められたので、絵、図、地図で状況を説明する。
「ココ、ヨウマ。スム、ナカッタ」
「……って事はこの前見た木の砦は……」
「新設された拠点だったみたいね」
これは攻略組の手を借りて妖魔の砦を攻略しないとダメかもしれないな……
でも彼らは中央を目指しているわけだから……この辺境の地には人は割かないか……
当初の予定では拠点を今日から移し、新規の仲間を迎え入れる準備をする予定だったが、念のため今日も崖の拠点まで戻る。
アヤノさんの美味しい味付けの夜ご飯を食べながら今後の事を話し合う。
この崖の拠点はこの6人以外には漏らさないで、新たな仲間には教えず緊急時のみに使用する事になった。
突然バサバサと音がしたと思ったらウィンディードさんの近くにフクロウが舞い降りてくる。
足に何か括り付けられてるな……伝書バトならぬ伝書フクロウ?
ウィンディードさんが枝に止まったフクロウの足からメモをはずして中身を見ている。
そっか、伝書フクロウがいたから今回の支援してくれた物資は必要なものばっかりだったんだなぁ……
全然気が付かなかった。
ってか珍しいフクロウだな……さすが異世界だ……フクロウとオウムとのハイブリッドに見える。
ウィンディードさんが返信を書いてるな……相変わらず文字が読めない。
撫でてみたいけど……だめだよなぁ……リンカさんもうずうずしている……俺は中学生レベルか……
「カタシ、人間、ヤルコト、マコウセキ、トル、イッテタ?」
「うん、マコウセキ。だった」
「マコウセキ……ワタシタチ、タイセツ。トラレタクナイ」
「……なるほど……」
この辺は商人たちに聞いていた通りか……百年前には魔鉱石の奪い合いになったって……どんなものなんだろう?
魔法の武器の素材になるとかか?
それとも大きな施設の名前?
俺は地図を地面に描きながら情報を整理していた。
・鬼人族と「魔鉱石」保護勢力。
この島の現地住民……米もあるのを見るとかなり根付いている感じだよね。百年前からこの地にいるみたいだから……って、その前からいるからもっとか? ってかこの人たちの土地じゃない? ここ?
とりあえず今は共闘関係になっているからしばらくは安心……かな?
・妖魔族。
こちらの目的は生存? 勢力を拡大させる? 「マコウセキ」とは関係ないか?
今の俺たちにとって一番厄介な相手だな……数で押し切られると非常に怖い……
人間たちには銃で撃っている間にも槍や投石をしながら近づいて突撃してたからな……数の暴力を使う感じだな。
飛び道具が槍と弓だから今のとこれは俺たちが先に発見さえすれば少数なら簡単に倒せる。
……だけど百人同時に来られたら……恐らく逃げるしかないし、足の遅そうなアヤノさんと機動力が低い俺がやられるな……あれ? 『重量操作』を自分にかければアヤノさんは早く移動できる……彼女は逃げられるか……リンカさんも『プレッシャー』を反動にして早く動くことが出来るみたいだし……
俺だけが逃げ遅れるか……やばいな……
・人間族
この世界の「人間」。「マコウセキ」獲得を目的とした勢力。
人数は未定だけど、確認している中ではガレー船が三隻、人数的にも結構いそうだな……百人くらい乗れるのか? アレ?
マコウセキで商売したいとか、そんな感じの目的だろうな……海賊が三百人いるイメージで良いのかな……船が到着するたびに勢力が増す感じか……銃をそろえて一斉射撃……とか、大砲を打ち込まれまくったらヤバいな……
ゲリラ戦で対抗するしかないかな。
・プレイヤー
「黒結晶」の破壊を目的としたグループ
俺は今、かなりの可能性で「マコウセキ」と「黒結晶」が同じ意味を成している気がしている。
もしくは馬鹿でかい「マコウセキ」が「黒結晶」なのかもしれない……どちらにしろ今までのカミの目的の誘導を見る限りは……
現在は派閥争いと勢力争いがプレイヤー間で行われている真っ最中。まさに戦国時代。
スキル一つで一千万円なのと、相手のスキルを奪えるから、人によっては問答無用に襲ってくる。あとは人間だから、だまし討ちとか詐欺とか何でもありなんだよなぁ……気を付けないと……
うーん。情報をまとめると……
カミの目的はこの地から「黒結晶」を無くすか壊して持ち去らせる事なんだろうなぁ……
だから鬼人族の言葉をわからなくしている……そう考えるのがいい気がする。俺たちが鬼人族の勢力につかれると困るのか?
【……】
「もしもーし? カタシさんだいじょーぶ?」
「うわっ!」
俺の瞳の中はリンカさんがドアップで映っていた。まじでびびる……考えに没頭しすぎた……
ウィンディードさんが不安そうにこちらを見ていた……
「カタシ君、話しはちゃんと聞いてよ……妖魔の砦の位置を鬼人族の方に知らせるのはオッケーよね?」
「お、おう、もちろん……ごめん、考え事していた」
「その辺は昔と変わらないのね……ウィンディード、大丈夫よ。OK」
ウィンディードさんが頷くと手紙に簡易的な地図が追加されていく……俺が地面に描いたやつを写し取っている感じだな。
手紙を書きを得るとフクロウが飛び立つ。今は夜だけど……そうか、夜の方がフクロウにとっては安全か。
さすがにカミ……この世界の管理者が凄い能力のスキルを与えてバトルロワイヤルさせているだけあって……この島はかなり危険な地域だと思い知らされた気がした。
明日から生きていけるんだろうか……順風満帆な雰囲気が無くなっていくな……




