第42話 新たなスキル『削る』
俺は光る玉に手を伸ばす。
前回同様に何もない空間に光るメニューが表示される。これはほかの人には見えてないみたいだな。
【スキル『削る』を習得しますか? Yes / No 】
俺は Yes を選択すると、この前と同じ様に何かの力が俺の中に吸い込まれていく。
【スキル『削る』を習得しました】
ジンパチさんもスキルオーブに手を伸ばし、新たなスキルを習得する。
「不思議な感覚ですね、力が体に入っていくような……おや? 最初からスキルレベルが5.5ですね」
「スキルレベルは引き継がれるのか……本当にインフレバトルだな……」
「どうやら予想通りに、歩く、走るなどの走力と持久力がアップするスキルみたいですね……SP使っている間は疲れない……みたいです……本当ですかね」
「……それってSPが切れるまで永遠に走り続けられるってこと?」
「みたいですね……少し試してみましょうか」
ジンパチさんが走り出す、色々と試しながらみたいで速度が上がったり下がったりしている……ってか速い時は速いな……一番移動速度がはやくなった? いや、ナオエさんの『伸びる』縮むコンボの方が早いか?でも息切れしてる様に見えないな? 近接戦闘する人が持ったほうが良かったか?
とりあえず『削る』のスキルを見てみるか……
**********************
スキル:『削る』
スキルレベル:1.9
現在の使用可能容量:0/37.8㎤
掘削速度:秒間1.9㎤
・任意の座標の固体の表面を『削る』事が出来る。
・ワールド座標固定
ワールド座標の位置を指定して『削る』ことが出来る。『削る』範囲を任意で移動させることが出来る。
・ローカル座標固定
物の位置の座標を指定して『削る』ことが出来る。『削る』範囲は対象の物質の範囲内。
ローカル座標指定で削る対象の固体には一度は直接触る必要がある。
『削る』範囲を任意で移動させることが出来る。
『削る』と自動的に『削る』部分が侵食するように移動をする。
・形状変化
スキルレベルに応じて『削る』形状を変化させることが出来る。
『削る』が発動した後の激しい形状変化は不可
複雑な形状は最初からイメージする必要がある。
・対象:生物
プレイヤーと相手のスキルレベルと生命力の差によって消費SPが増える。
プレイヤーとの相手の生命力、魔力の差が高い場合はかかりにくい場合があるので注意
・対象:物質
魔力、生命力がないものに関しては無条件で『削る』ことが出来る。
物質が魔力を持っている場合はSP消費が大きくなる。
**********************
え?
スキルレベル 1.9 って低くない?
全然鍛錬してなかったのこの人?
あれ? このスキル強くないか?? 武器を破壊するために使ってたんだよな?
そっちだけに使うと取り扱いが難しくないか? 相手の武器を触らないとダメだし。
俺は試しに、足の下に転がっている岩を指で触れて『削る』を発動させる。
振れたところが徐々に砂になってくな……お、面白い……削る方向もイメージで操作できるのか……岩に文字を書けるんじゃないこれ?
……これ完全破壊スキルじゃ??……なんかチートじゃないか?
定規くらいのサイズをイメージして『削る』を使ってみる……小さな石を……削っているんじゃなくて、ほとんど「切断」している感じだな……電動カッターで石を切っているみたいだ……音がほとんどしないんだけど……なんだこれ?
俺のスキルテストを真横で見ていたナオエさんが俺の腕を引っ張る。
「ね、ねぇ、カタシくん……それ……すごい良いスキルに見えるんだけど……」
「お、おう……すごいかも……ちょっとSP消費見るね……」
俺は大きめの石を端っこから削っていく……まるで電動やすりみたいだ……滑らかになっていく……しかも音がしない……なにこれ? おもろいんだけど!
「……楽しそうね……」
「なんて工作向きの『スキル』なんだ……」
「試しにこのひしゃげた鉄兜を……」
ナオエさんが取り出した血まみれの鉄兜を『削る』のスキルで削っていく……物凄く簡単に鉄が削れていく……これは恐ろしい……しかも消費SPがそこまで高くない、まだ1%しか使ってない……これは良い拾い物をした……
出来るだけ『削る』を細くして兜を削ってみる……電動糸鋸状態になってるな……鉄の粉が湧き出てくる感じだ。
「ねぇ、鉄の切断……ってこんなに簡単だったっけ?」
「いやぁ……難しいんじゃ……音もすごかったし、抑えるのが大変だった記憶が……」
おれは高校の授業で鉄板を電動ノコギリで切ったのを思い出す……何か偉い大変だった様な……それと比べると……音もしないし、もうインチキレベルだな。これ。
ローカルで削る場合は手で直接触らないと駄目だったので、遠隔のワールド座標で少し離れた場所を削ってみる。
地味だけど、面で削らずに線で削れば……
かなり大きな石もきれいに真っ二つになった。
……ああ、わかった。前の持ち主は相手の武器や防具に触れたあと、ローカルで徐々に削ったり……とかしてたんだ。近接戦闘中にそれは凄く非効率で危険だよな……回避の達人だったら触って逃げ回れば良いけど。
スキルレベルを上げて行けば出入口や通路でワールド座標で糸状態にした『削る』をすれば……見事なスプラッタな現場に……
って、相当スキルレベルを上げないと駄目だな……今の採掘速度だと表面を軽く削る事しかできない。
ふと気が付くと目の前にジンパチさんがいた。いつの間に?
「どうでした『削る』は? 僕の予想ですとノコギリとかドリルになりそうなのですが」
「正解です。消費SPも低めなので色々できそうですね」
「やりましたね……これで表面を気にせずに壁を作れそうです。
ジンパチさんの目が光った気がした……ああ、これは色々とやらされそうだな。
「そっちはどうでした?」
「ええ、こっちも地味ですが、SP消費も少なく……歩くくらいの運動量でマラソン選手並みの走りが出来るという……チートですね。現代のサッカー選手とかが持ってたら……恐ろしいことになりそうです」
「……歩くくらいでそれですか……」
「ジンパチくん! それだけじゃないでしょ? ジャンプ力もすごくアップするし、キック力もかなりアップするから戦闘にも使えるじゃない?」
「……え、それは……その、あまり戦闘には……」
「リンカちゃん、無理強いしないの。蹴った足が壊れたら大変な事になるわ。ジャンプも無理にしたら着地で怪我したら……」
「……あ、そうか。動けないとグサッとやられちゃうもんね……」
「そ、そうですね……グサッと……怪我の事を考えてませんでした……アヤノさんありがとうございます」
「いえいえ」
ジンパチさんも珍しくテンション上がってるみたいだな……なるほど、健脚……足の能力をかなりあげるスキルってことか。
『格闘術』とかのスキルがあればさらに凄い事になりそうだなぁ……
ウィンディードさんが不思議そうな顔をしていたので、スキルオーブの事を絵と図で説明しておいた。
理解し始めると可愛い顔が若干ひきつって強張っていた。
まぁ、この得体のしれない『スキル』が重複する……って知ったら探検家のベストを着た人をむやみに殺せなくなるしなぁ……
俺たちがしばらくスキル談義をしていると、「黄金の鷲」の二人が慌ててこちらに接近してきているようだった。
少しテンションがおかしかったか……さすがに人数が多いのがばれていそうだったので、彼らがそのままこちらに来るのを待っていた。いつの間にかウィンディードさんだけがいなくなってたけど……さすがに一緒にいる所を見られるのはまずいか。
二人が小走りで近づいてきて、俺たちに怪我が無いのを見ると歩きながら話しかけてくる。
「良かった、だいじょうぶそうで~!」
「大丈夫でした?」
「先ほどの「鷹の団」のプレイヤーですよね?」
「はい。襲ってきたので返り討ちにしました」
「「……」」
【……】
「……」
一瞬の間が開く。返答を間違えたか?
二人はプレイヤーが死んだ場所に残された、大量の物資や妖魔の死体を見る。
まぁ、これを見たら一目瞭然だな。後で回収して帰らねば……
「……そうですか……返り討ちに……」
「……私の読み違いですね、人数が多い……女性もやっぱりいたんですね」
「五人が待ってるところに二人で突っ込んだんですかぁ……なんというか、アホですね……」
「……あの人いつも私の事、いやらしい目で見てきてましたからね、天誅ですね」
……思ったよりも軽く考えられているようだな。中央にいるプレイヤーはプレイヤー殺しについてそこまで深くとらえていないのか?
「……コウタ君、早く帰った方が良いかも……」
「そうだね、説明をしておかないと面倒なことになりそうだね。俺たちがやったと思われるかもしれない」
「あ、すみませんが私たちはこの辺で、私たちのギルドはここまで来る可能性は低いですが……」
「他のギルドやプレイヤーが確認に来るかもしれませんのでご注意を」
「早くここから離れた方が良いかもしれません……」
「しばらく近づかないことをお勧めします!」
「わかりました、アドバイス助かります」
「では!」
「近いうちに2,3日後に! 塩……できれば魚もお願いします!」
「黄金の鷲」の二人はやや急いで中央の方の森へと小走りで移動を開始していた。
ナオエさんが隠れているウィンディードさんを見てぼそっと呟く。
「……私たち警戒心が無くなってたわね……」
「そうだね、ちょっと簡単に勝てすぎたから……皆、物資回収したら崖まで戻ろう!」
「了解!」
「わかりました」
「急ごう! 他のプレイヤーが来る前に!」
「おっけー!」
俺たちは「二人の襲撃者」が落とした色々なものを慌てて回収した。
妖魔の死体は四次元収納ポーチに入れたくは無かったが、緊急時なので仕方なく入れておいた。
ここで腐ったらものすごくいやだしね……
安全になってから埋葬しておいてやるか……
§ § § §
拠点に帰り、美味しいはずの夕ご飯を食べる。
ただ、あまり食べる気がしなかった。
プレイヤーを倒す……殺すって事は思いのほか心に来ていた様だ。
死体は残らずに消え去っても……死ぬ瞬間に血は吹き出るし、表情は見えないわけではない……ちゃんと眠れるか?
気が付いたら隣でナオエさんが心配そうな表情でこちらを見ていた。




