第30話 懐かしの漁師小屋?
俺たちは順調に漁師小屋方面へと向かっていた。
ジンパチさんは拠点としている廃村からここまで遠く離れたことは無かったらしく、かなり挙動不審になっていた。
だが、ナオエさんが敵性生物を『気配察知』し、俺が『自動追尾』の槍で小妖魔を一方的に惨殺しながら突き進むと次第に安心していったようだった。
「それにしてもすごいですね……ナオエさんが敵をすぐに発見できるのもすごいですが、『自動追尾』が……ずる過ぎますね。僕のスキルでは……どうやって身を守ればいいんだろ……」
「うーん、なるべく皮鎧で身体全部を覆う様にして突撃する……ですかね……そんなにこの槍には威力がないので……」
ナオエさんが俺の意見に疑問を思ったみたいだった。
「あれ? 飛んできた槍を『柔化』させればいいんじゃないの?」
「あ、さっき僕が……それ、やろうとしたんですが……実はナオエさんの『伸びる』のかかった丸太……何かにはじかれて『柔化』できなかったんですよ」
そういえば、スキルがかかった物に『固定』をかけると消費SP多い気もしたな……ってことは『自動追尾』中に『柔化』させても効果が激減するか、全くかからずに……固いまま……実戦でやろうとしたら死亡しそうだな……実験と練習してからだなぁ……
「たしかマニュアル本に、スキルの反発的な事が書いてあったような?」
「『柔化』と『硬化』がぶつかったら帳消しになりそうだね」
「たしかに……」
「あとはスキルレベル差によっては……なんて事も書いてあったかなぁ……」
「スキルレベル上げがんばらないとね……」
「僕から見るとあなた達のスキルレベルが高すぎなんですけどね……」
ジンパチさんの話だと、どうやらスキルレベルは2の後半らしい。
あれくらい色々と加工してもあんまり上がらなかったみたいだな……
と言うより寝る時の自動スキル上げとか、回復量ギリギリな消費を使うって邪道なのかな? ナオエさんも最初は驚いてたし。
§ § §
漁師小屋が見える付近にたどり着く。懐かしの潮騒だ。
漁師小屋は巨大イカには壊されていなかった。
とりあえず海水の調達、できれば塩の生成をしたいけど……
「海、こんなに近かったんですね」
「ここは地図でいうとかなり端っこですからね」
「そうだったんですね……僕は動かなさすぎでしたね。拠点が便利すぎたのもありますが……パラシュートの時も怖くて目をつぶってましたし……」
ああ、そうか、周辺の地図、地理が全く分からない状態だったのね……
ナオエさんが集中して前方の海を見渡していた。恐らく『気配察知』を遠くまで飛ばしているんだろう。
「……どうやら巨大イカはいないみたいね」
「良かった。まぁ、岩を飛ばさない限りはそうそう来なさそうだね」
「やっぱり……前回は派手な音出し過ぎたから来たのかな?」
「そうだと思いたいね」
ジンパチさんが俺たちの会話を聞いて足を止める。
「……きょ、巨大イカ?」
「えっと、以前ここを拠点にしてたんですが、海に岩を放り投げるテストしてたら巨大イカが襲ってきて……」
「……だって浅瀬だから巨大生物来ないと油断してたからしょうがないじゃない……カタシ君も面白がってたじゃない」
「あ、そうだけど、別に責めてるわけじゃ……」
僕らの様子をみていたジンパチさんが歩みを止める。
「え、えっと、僕はここで待ってます……」
「ここで待ってても妖魔の巡回があるかも……」
「……だ、大丈夫です」
「網があるから魚が取り放題……」
「……さ、魚……くっ……」
「塩焼き美味しいんですよね……」
「い、行きます……逃げるときは置いてかないでくださいね!」
どうやら魚に飢えていた様だ。
念のためにナオエさんが『気配察知』で遠方までの索敵を行いながら、漁や海水の取得を行う。
ジンパチさんはわかっておられる方だったようで、ペットボトルは保存しておいてくれたようだ。これで作業がはかどる。
とりあえず腹が減っていたので取り放題状態の魚を、漁師小屋にあった網で投擲して捕って塩焼きにする。
ジンパチさんも涙を流しながら魚の塩焼きを食べていた。まぁ、獲れたてだからか凄い美味いよね。
魚の塩焼きを三本ほど食べ終わると俄然、ジンパチさんのやる気がみなぎってくる。
「やっと僕の出番ですね。まぁ、見ててください!」
ジンパチさんが本気を見せ……と言うよりすごいな……
収納ポーチから出した石を捻じ曲げて「かまど」をあっという間に作ってしまった。かなり大きなかまどだったが、ドーンと大きい鍋を設置する。でかい寸胴鍋?
……30リットル以上は入りそうだ……廃村の主が逃げ出す時に大きすぎて持っていけなかった感じだな……
手慣れた感じで枯れた木や薪などを混ぜて火を起こす。竹筒に穴を開けたものでフーフーと息を送るとあっという間に良く映画で見るような火のついたかまどになっていた。
竹筒……考えが及ばなかった。後で竹林に行ったらちょうどいいサイズの竹を探さないとな……
「さぁ、海水を入れていきましょう。子供と一緒に海水から塩を作ることはやったことあがありますのでお任せを!」
「すごいわね……こんな簡単に……」
「お、おけ。もっと海水を組んでくる!」
俺たちが海水を組んでいる間にもジンパチさんが何かやってる……布を違う鍋の上に張ってるな……
「こっちに海水を注いでください。不純物を取り除きます」
「あ、はい」
それからもジンパチさんからの的確な指示が飛ぶ。本当に海水から塩を作ったことがあるようだった。
「あ、それは塩じゃないんです、ニガリってやつです。いったん布で越します……マグネシウムですからとっておきましょうか、空き瓶とかあります? ペットボトルだと溶けますよね?」
「これで煮詰めれば終了です……」
「あ、だめです。完全に水を飛ばすと苦みが出るらしいのでここで終了です」
指示通りに色々とやっていたら、気が付いたらかなりの量の塩が出来ていた。キッチンに置いてある塩入れくらいは満杯になりそうだな。
舐めてみると……しっとりとしてるけど塩だな、なんかまろやかな気がする。
ジンパチさんも一緒に舐めているが奇妙な表情をしていた。
「……甘く感じるんですが……」
「え? しょっぱいですけど?」
ナオエさんが不思議そうにジンパチさんを見る。
「……あ、聞いたことがあるけど、塩分不足過ぎると甘く感じるとか?」
「ジンパチさん塩だけじゃなくて水不足かも……」
「ああ、そういえば……最近あまり水……とってませんでしたね、引きこもってたので」
「……」
「やばいかもね……」
それからは水のろ過作業へと切り替わっていった。
水のろ過をしつつも、手分けをしながら漁をして数日分の食糧の確保をする。ジンパチさんは四次元収納ポーチに空気が無く、真空になっているのは知らなかったようだ。
「圧力差はどうなってるんでしょうか?」と言われても、不思議すぎて説明がつかない。
【どうなっているんでしょう? 私にもわかりません】
アーゼさんが分からないとなるとわかるわけないな……
色々とやっていると段々と日が落ちてきて、そろそろ撤収の準備を開始していた。
「いやーなんか……久しぶりに楽しかった気がします……本当に何と言ったらいいでしょうか……」
あ、あれ……ジンパチさんの目にも涙が……なんかナオエさんの時もあったけど……やっぱりつらかったのか……10日間以上孤独に耐えて、慣れない狩りをして……大変だよな……
「……よかったです。これからも頑張っていきましょう」
「そうですね。生き残りたいプレイヤー集めて終わりまで生き延びましょう」
「はい! これからもよろしくお願いします!」
ニコニコとしていたナオエさんがふと、サバイバルモードの表情に切り替わる。
「……あ! 来る!!」
「「え?」」
「すぐにモノを回収!! 逃げるよ!!」
俺たちは慌てて、鍋や資源を回収してその場を走り去るように森へと逃げだす。
ゴゴゴゴ……ドバーン!!!
岩場の浅瀬に例の巨大イカが姿を現し、俺たちの方に向かってくる。
「……あっ、あれが巨大イカ!? ……オウムガイみたいじゃないですか??」
「オウムガイ?? 触手があるのに??」
「さすが異世界ですね!!」
全員余裕があるうちにその場を離れて行った。
前回みたいな不意打ちにならなければ問題ないな。
あれを倒せば塩が作り放題、魚が食べ放題……なんだけどなぁ……
……あ、今日の寝床どこにすればいいんだ?




