第121話 神子の力
§ § § §
王都アルト・ナーゼの大神殿へと俺たちは急いで移動を開始していた。
どうやら兵士の動きが活発で、何やら騒ぎになっているようだった。
俺たちも呼び止められたりしていたが、アスティの顔を見ると、一瞬びっくりした後スルーしていく感じだった。
顔パスってやつだな。さすが姫様だ。
珍しくリョウコがキョロキョロとして建物を見ていた。
「これが大神殿ですかぁ……大きいですね」
「前回は来なかったのか?」
「なんだか知らないですけど……王都はターゲットになっていませんでしたね。……王都の名前がアルト・ナーゼってのも今回初めて知りましたし」
「……王都は『地底人』が掌握していたからミッション対象にならなかった……って考えるのは深読みかな?」
「……そうかもしれませんね……さすが妙な勘がありますね」
「え? 俺ってそんな扱い?」
大神殿は参拝者でごったがえしていた。何やら祈祷を捧げ、セレモニーをやっている感じだった。休みの時に参拝するのはどこの宗教も同じなのかな?
サチさんが『探知』を発動させ、「擬態している」対象を特定しようとしていた。
(あの4人のうちどれかね)
サチさんの視線の先には、祭壇で祈りを捧げる人物が四人いた。おそらく大神官とかその辺の神職と……子供……神子……だな、あの人は見た事がある。
(……ちょっと待ってください……姫……なんてこと……)
(……ツクヨミまで……対象なの???)
アスティから驚愕と絶望……疑念……血の気の引いた様な複雑なネガティブな感情が流れ込んでくる。
(カタシ、これはヤバい流れだな)
(なんで??)
(時を戻せる能力の人間を先に無効化しないと、俺たちのやった事が無かったことにされるってことだ)
(そうね、アスティナの話をまとめると、時を戻っている事を理解している人間が戻している犯人……と考えるのが当然だから……)
(リョウコ達じゃなかったら……か神子ってことか……)
(それか第三者……他に時を操る何かがいる可能性がありますが……)
(確保してから考える感じだな……)
(まぁ、今、逃げだしていないことを見ると、まだ戻していない状態なんだろうな……)
(なにそれ?)
(俺たちの知らない間に戻ってたら、俺たちを避けるよね)
(……ああ、もう巻き戻しているパターンもあるのね……怖いわね)
アスティが祭壇を見たあとこちらを見つめてくる。
(大丈夫。すべてを受け入れるわ……仲の良い司祭様がターゲットじゃなくて良かった……くらいに考えるわ……)
(わかったわ。私たちは全力をつくすしかないわね)
(それじゃ……気合入れていきましょうか)
§ § § §
俺たちは祈祷をする際の待合室に続く通路脇で待ち伏せしていた。
リンカさんの『隠蔽』スキルを使用しても姿は見えるらしく、気配を全く感じられないだけ……みたいで、アスティの姿を見かけた神官たちが話しかけに来ていた。ステルスで完全透明ってわけじゃないのね……それはまた別のスキルか。『姿隠し』とか。
……この状態で相手を確保するのか? バレバレだよな?
(来るわね)
(見えちゃうのなら……通路に見えた瞬間にやっちゃいましょう)
『思念共有』で『探知』系のスキルがわかるおかげか、接近してくる人物の気配が手に取るようにわかる。壁の向こうの人の息遣いもわかるくらいだ。
この超感覚も仲間達全員が同じように感じているみたいだった。
恐らく他の探知スキルの相乗効果の様な感じになっているんだろう……ナオエさんの感知スキルってこんな感じなのかもな……獲物の位置が手に取るようにわかったのはこのおかげっぽいな。
(……正解ね)
心の声に反応してくれてありがとう……
(作戦開始!)
(『静寂』)
(『固定・檻』)
(『浄化!』)
(『電撃!』)
(『安眠!』)
ターゲットが通路に見えた瞬間にスキルを浴びせる。
どうやら『神殿長』と呼ばれる人間が『地底人』だったようだ。みるみると姿が……良かった、神子が『地底人』じゃなくて……って、あれ?神子……ツクヨミくんだけが……動いてる??
『固定』が破壊……と言うか、彼の周辺全部がエーテルの粒子に変わってる??
何が起きてるんだ??
ナオエさんが察知して、すでに凄い勢いで伸びるを使って追従、捕縛……しようとしたら途中で止まって珍しく転んで受け身を取ってる。彼女にも異変??
(くっ、何かのスキル?? 消された?)
?!消す? 消えたのか?? スキルが?
アスティが逃げる神子をすぐに追い。リョウコもそれに続く。
(追うわ!!)
(私もいきますっ!)
リキさんとサチさんから『思念共有』でイメージが伝わってくる。
(確保は任せて!!)
(時間を戻すのを止めてくれ!!)
(わかった!!)
俺もアスティとリョウコを後から追う様に高速移動する。
射程ギリギリのところに『固定』を出して動きを封じようとすると、なぜかエーテルの粒子になって霧散してしまう……神子がなにかやってるのか??
アスティとリョウコは普通に動けている感じだけど……あ、なんかエーテルの盾みたいのに阻まれているな。神子が出したのか?? リョウコもアスティも障壁に遮られて移動できてないな。通路全体を塞いでるのか?
『ツク!! 話を聞いて!!』
『姉さんまで敵になるなんて!!! もう今回もめちゃくちゃだ!!!』
「ちょっと待ってくださいね、今この結界を解除します!『万能なるエーテルよ……』」
二人に追いついた俺は、試しに手をかざしてエーテルの盾を、新たに獲得したスキル『吸収』を試してみる。素はエーテルだから吸収……できるよな。うん。できたな。
『……え?』
「……なんですかそれ? 無効化スキルですか??」
「吸収……できたな。エーテルを吸えるみたい」
「……何ですか? そのぶっ壊れスキル?」
『……えっ? なっ! なにが???』
俺以外が呆然としていたので、神子の周りに『固定』の檻を作る……が何やら察知した神子が手を振り回すと『固定』が解除されてエーテルの光の粒子へと変わっていく……解除する何かの力があるみたいだ。
つんのめって転びながらもすごい勢いで逃げていく。
『障壁よっ!!』
『吸収』『固定』
『くっ!!』
神子がエーテルの盾を出す度に『吸収』して足止めをして……って永久機関だな。ってかこれだと歩きながら鬼ごっこしてる感じになって来たな。
『固定』の壁を出すタイミングをずらせば足止めできるかな?
さすがの神子の解除スキルも時間差『固定壁』には勝てない様で、解除した瞬間の次に出した『固定壁』にぶちあたる。逃げられても厄介なので『自動追尾』でジンパチさん特製鳥モチを投げておく。ついでに普通に足元に投げる。
『あっ!!』
『自動追尾』の方は無効化されてあらぬ方向に飛んでいったけど、普通に投げた鳥モチが足に当たり身動きが取れない状態になる。物理的なものは解除できないみたいだな。手をかざしてるけど……うん。捕獲完了かな? スキル限定の解除って感じか?
『来るなっ!! 黒髪の悪魔っ!!』
「……酷い言いようですね……」
神子が本気で恐れている感じだ。助けを求める視線をアスティに送る。
『姉さま!! 助けて!! 記憶が無いんですか? そいつは……仲間を殺戮した悪魔です!! 何で一緒にいるんですか!!』
「あ……」
『ツク……落ち着いて……今は仲間よ……大丈夫だから……やっぱり覚えてるのね……』
……言葉が何となくわかるんだよなぁ……喋れないけど。『思念共有』のおかげだろうか?
リョウコがフラフラと力なく神子の方に近づく。
『ひ、ひいっ……戻れ!! 戻れ!! 戻って!!!! なんで戻らないんだっ!!』
『……ツク……』
……スキルが発動しない? ってかスキルかどうかも怪しい感じか?? 魔術?
神子が壁に張り付いて腰を抜かしてしまっている。さすがに怯える様子に躊躇したのか、リョウコが足を止める。
アスティがゆっくりと近づいて優しく神子を抱きしめる。
『大丈夫だから……』
『ひぎっ、ひぐっ……』
感情の堰が外れたのか、神子が幼子のように泣き出してしまう。
中学生くらいだろうか……悲惨な戦いを見て来たのを覚えているんだから……かなり精神的につらいだろうな……気が付くとリョウコが俺の後ろに隠れていた。
彼女も物凄くつらそうな感じだ……最後の戦いは神子もいたって言う話だから……アスティは彼を守るように戦ったとかそんな感じなんだろうな。
§ § § §
俺たちは落ち着いてきた神子と、拘束した『地底人』こと『魔法族』を連れて待合室に来ていた。入り口は鬼人族の戦士らしき人間が固め、厳重な体制になっていた。
多種族なこの世界においても『魔法族』は珍しいらしく、奇異の目が向けられていた。
『ツク、話してくれる?』
『嫌です』
『カタシ、ツクと『思念共有』を』
「わかった」
神子の手をそっと握る。怖がらない様に……って思っても怖がってるな完全に。目はリョウコとアスティを行ったり、来たりして表情が固まってるし。
(え? なんで手を握ってくるの??)
(ん、大丈夫そうだな)
(!!!!)
握った手を激しく振り払われると同時に、神子の周りに何かのエーテル的な何かが発生して粒子となって消えていく。
やっぱり無効化スキルの様なものを持っている様に見えるな。
『姉さん!! なんてことを!』
『あなたがしゃべらないから仕方ないじゃない。カタシ。続けて。手じゃなくてもいいのよね?』
逃げようとする神子をアスティナさんが羽交い絞めにする。がっちりホールドされてる。
試しにスキルを使ってみるが……やっぱりエーテルの粒子に変えられちゃうなぁ……無効化スキルなのは確定か。
とりあえずアスティの肩を触って『思念共有』する。
(スキルが無効化できるみたいだな)
(え? ツクがそんなことできるの? 神聖魔法が使えるだけかと思ってた)
(魔法なのかこれ?)
『お、男が姉さんの肌に触れるな!!』
『あら? それじゃ話してくれる?』
『い、嫌だ』
うーん。らちが明かないな……どうしょう?
「カタシさん、どうしたの? うまく行っていないようだけれども」
「私の『伸びる』が途中で止まったから……スキルが効かない相手なのかもね」
「……んじゃぁ、力技じゃなくて、説得しないと話をしてくれない感じか」
試しに神子にまた『思念共有』をしてみるが、触れた箇所がエーテルの粒子となって霧散していく。このまま全員でスキルを当て続ければ……エーテルが枯渇すると気絶するんだっけ……困ったな。
「うーん、とりあえず、神子……ツクヨミくんの安全を確保できたのと、時を戻す能力みたいのは自由に発動できないみたいだから……大丈夫かな?」
「……え?」
「この人が時を戻してるって話でしたけど、自由自在じゃないんですか?」
「さっき戻そうとしてたからね。それで戻らなかったし」
「……なるほど?」
「まさかの死に戻りスキルか??」
「……現実でそれだと厳しそうですね」
「あ、あの『浄化』も無効化されていたりしたら、ツクヨミくんも『魔法族』の可能性があるのではないですか?」
「……あ、たしかに」
「無効化も常時発動って感じじゃなくて、不意を撃てば効くみたいだぞ?」
「なんでわかるんです?」
「最初は『思念共有』できたし」
「なるほど、『浄化』!」
突然ヨウカさんがツクヨミ君に対して高威力の『浄化』を放つ。
ツクヨミ君自体に影響はなかったが、彼の持つブレスレットやネックレスが光の粒子となって消えていく。
『なっ!!?』
「いきなり??」
『えっ? 悪いモノをつけてたの??』
一同が驚き呆然とする中、心底安心したヨウカさんがにこやかにほほ笑む。
「よかったです。『魔法族』じゃなかったみたいですね。なんか『不浄』なものを消し去った感覚があったんですが……」
「アクセサリー吹き飛んじゃったわね……」
「え、えっ? 弁償?? する感じです? この世界のお金持ってないんですけど……え? 呪いの装備とかだったんですよね? あれ??」
『リョウコ、どういうこと?』
「呪われた装備を神子がつけていたってことですね」
『……そんな馬鹿な! 兄さまがくれた退魔の御守りなんですよ??』
……もう誰が仲間で敵なのかわからなくなってきたな。アスティの兄さまも『魔法族』の可能性があるってことだよなぁ……身内が敵だらけだったって……アスティが不憫だな。
うん……アスティが完全に固まって視線がどっか行っちゃってる。
思考のキャパオーバーしてるみたいだな。
『ね、姉さま??』
『兄さま……兄さまも敵?? そうなると……私はどうすれば……』
なんかヤバそうだったのでアスティの手を握り『思念共有』をする。
(大丈夫か??)
(兄さまが……兄さまは確かに……色々なところに顔を出して……毎回行動が違う……ああ、そうか……兄さまも記憶を持ったまま……)
アスティの記憶が一瞬にして垣間見える。断片的に……仲間を思って行動しているけど結果が最悪の方に……味方だと思っていたのに敵かもしれない……と。
(大丈夫……今回、やばい事は全部防いでるだろ?)
(……ああ、確かに……防いでいる……)
(君の兄さんが敵側……だとしてもなんとかなるだろ?)
(そう、そうね……そうに決まっているわね……)
アスティがこちらを見て目を輝かせている。良かった。持ち直したか。
ん? なんか俺がキラキラと輝いてるイメージが……
あ、あれ。
また……なんか熱いまなざしが……
『ちょ、ちょっと、姉さま??』
ツクヨミ君がすごい勢いで俺とアスティナさんの繋いだ手を振り払う。
『あ……ちょっと、ツク! 邪魔しないで!』
『何をやっているのですか! 嫁入り前の女性が!』
……なんか二人が言い合いを始めてるな……まぁ、そっちはそっちでやってもらって……とりあえず『魔法族』の方を……って、振り返ったら呆れた顔をした仲間の視線と、その奥から豪華な服を着た鬼人族の集団が部屋に入って来ているところだった。
『……これは一体どういう状況なのだ?』
先頭に立っていた、とてつもなく強そうな鬼人族が呆然としていた。
あれ?
なんか、滅茶苦茶強そうな人が入って来たんだけど??
§ § § §




